山形県・庄内地方の桜が満開になるころに開かれてきたマラソン大会が、今年からなくなることになった。地域の春の風物詩としておなじみになっていたが、廃止の理由は全国の地方が抱える共通の悩みだという。 鶴岡市南西部の温海(あつみ)地域で開湯120…

 山形県・庄内地方の桜が満開になるころに開かれてきたマラソン大会が、今年からなくなることになった。地域の春の風物詩としておなじみになっていたが、廃止の理由は全国の地方が抱える共通の悩みだという。

 鶴岡市南西部の温海(あつみ)地域で開湯1200年の名湯とされる「あつみ温泉」の観光誘客や地域振興を図ろうと、1986(昭和61)年に始まった「温海さくらマラソン大会」。

 例年、4月の中旬か下旬に県内外から1千人を超すランナーが出場。あつみ温泉の中心部をスタート・ゴール地点に30キロ、10キロ、5キロ、2キロの4コースに分かれ、温海川河畔の桜並木の景観や温泉街の風情を楽しみながら、沿道の住民らの声援を受けて走った。

 新型コロナウイルス禍のため、大会は昨年春まで4年連続で開催が見送られた。昨年5月からコロナの感染症対策が緩和されたものの、大会の実行委員会には検討段階の当初から、難題がのしかかった。

 人口減少と高齢化だ。

 大会事務局によると、マラソンのコースがある地域を中心にした13の自治会に運営スタッフの参加人数を割り当ててきたが、自治会側から「スタッフの人員を確保できない」「集落の住民が高齢になっており、参加は難しい」といった意見が実行委に相次いで寄せられたという。

 鶴岡市温海地域は旧温海町。1938年に町制施行をし、2005(平成17)年に鶴岡市、藤島町、羽黒町、櫛引町、朝日村の5市町村と合併した。新潟との県境に接し、温泉街は市中心部から遠く隔たる。

 国勢調査や市の統計によると、マラソン大会が始まる前年の85年に1万3255人だった温海町の人口は、市町村合併時に9641人。昨年末はさらに6192人に減った。合併後の18年間の減少率は34%で、旧5町村の中では温海地域と朝日地域が際だって高い。

 市全体でも、高校卒業から20代前半までの県外などへの大幅な転出超過に加え、出生数の減少と死亡数の増加が同時に進行しており、マイナス幅は拡大傾向にある。

 大会実行委員会の五十嵐正実委員長(50)によると、例年、大会のコースの各地点に配置する誘導担当者や給水所の担当者らボランティアの運営スタッフとして約350人の住民を確保してきた。

 「大会を支える中心世代の20代から50代の住民が半減してしまいました」

 さらに物価高騰が追い打ちをかけた。

 記録計測器などの備品類、給水所のスポーツドリンク、スタッフやランナーらが着る大会参加賞のTシャツなどの資金を試算すると、コロナ禍前の大会に比べ、価格が約1・3倍に上がったことも分かった。

 ゴール到達後に温泉につかって疲れを癒やすランナーたちは少なくなかった。大会は地域を挙げた「おもてなしの場」だ。

 実行委は、不十分な態勢で事故が万が一起きると、これまで培われてきた温海地域の良い印象までも損なわれると判断。従来のような大会を維持するのは非常に困難だとして、廃止を決めた。

 五十嵐さんは中学・高校時代にランナーとして出場し、28歳のころから実行委に携わってきた大会に思い入れがある。「温海さくらマラソン大会に代わるような地域の新たな催しを検討していますが、スタッフが確保できなければ難しい。今後も人口が減っていくのは確実なので、妙案はなかなか思い浮かびません」

 実行委は3月に解散するという。(辻岡大助)