【「那須川はリング上で楽しんでいるようだった」】 元キックボクシング界のスーパースター、那須川天心(帝拳)は1月23日、プロボクサーとしてデビューから無傷の3連勝を飾った。プロボクサーとして3連勝を飾った那須川(右)。アメリカでの評価は? …

【「那須川はリング上で楽しんでいるようだった」】

 元キックボクシング界のスーパースター、那須川天心(帝拳)は1月23日、プロボクサーとしてデビューから無傷の3連勝を飾った。



プロボクサーとして3連勝を飾った那須川(右)。アメリカでの評価は? Photo by 山口フィニート裕朗/アフロ

 エディオンアリーナ大阪で行なわれたスーパーバンタム級8回戦で、WBA、WBO世界バンタム級14位のルイス・ロブレス(メキシコ)に3回TKO勝ち。最後は足首を痛めたロブレスの棄権によるストップ勝ちとはいえ、ボクサー転向後に初のKO勝利を飾った。試合後の那須川の言葉を聞いても、少し控えめながら成長の手応えを感じていることが見て取れた。

「前回と比べて進化していることを、みなさんに見せている途中でした。自分の中でも強くなっている自信があるので、進化した姿をみなさんに見せられたと思うんですけど、どうですか? 本当に、まだまだこれからなんで!」

 今回の試合は、アメリカの東海岸では早朝、西海岸では深夜の時間に行なわれたため、動画配信サービス『ESPN+』で試合を見た人はそれほど多くはなかったようだ。もともと日本に比べて、アメリカでの那須川の知名度はそれほど高くない。それでも、那須川のプロ3戦目の映像をチェックした関係者は、その実力に好印象を抱いたようだ。

「ロブレス戦の那須川はリング上で楽しんでいるようだった。那須川の試合を始めた見た人は、彼が元キックボクサーだとは思わなかったのではないか。実際にボクサーらしい戦いだった。シャープさが気に入ったし、スタンス、ジャブもよかった。うまくジャブを使い、ボディ打ちにつなげていたね」

『ESPN+』の解説を務めたWBA、WBC女子世界ミニマム級統一王者、セニエサ・エストラーダ (アメリカ)のそんな総括は、那須川のプロ3戦目を語る上で代表的な意見と言えるだろう。

【識者たちも成長を称賛】

 筆者個人として最も好感が持てるのは、プロボクサー転向以降の那須川が1戦ごとに成長の跡が見られることだ。2023年4月の与那覇勇気(真正)戦よりも同9月のルイス・グスマン(メキシコ)戦のほうがよかったし、そのグスマン戦よりも今回のロブレス戦はさらによかった。スピード、スキル、フットワークは紛れもなく一級品。それに加え、今回のロブレス戦では1発ずつのパンチに、より体重を乗せられていた印象だった。

 那須川vsロブレス戦の映像をチェックした欧米のメディアに尋ねても、やはり那須川が進歩していることを指摘していた。元『リングマガジン』の編集者で、現在は米スポーツメディア『スポーティングニュース』で健筆を振るうトム・グレイ氏の見方はこうだ。

「すばらしいスパーリングを積んだのか、那須川の技術には磨きがかかっていた。キックボクシング時代の経験が助けになっているとしても、ボクサーとしては経験不足にもかかわらずナチュラルな戦いを見せていることに感銘を受ける。ジャブ、ボディ打ち、カウンター、フットワーク、スピード、反射神経を備えていて、まだ25歳と若いのも心強い」

 プエルトリコ出身のフリーランスライターで、現在はクリーブランド在住のカルロス・トロ記者も那須川の成長ぶりを認めている。

「那須川は優れた左パンチと飛び抜けたスピード、フットワークを持っており、スタミナ、闘争本能、リングIQにも特筆すべきものがある。プロデビュー戦の頃と比べ、3戦目では規律正しさとフットワークに向上が見られた。那須川は下がりながらでもジャブを出し、相手のプレッシャーを食い止められる能力を持っている。それは、若いボクサーにはなかなかできることではない」

 キックボクサーとして"神童"と呼ばれた那須川の格闘センスは本物であり、ボクサーとしての1戦ごとの成長は「適応」「慣れ」という言葉に置き換えられるかもしれない。未知数の要素は多いものの、さらに強くなるポテンシャルは十分。このままボクサーとしてアジャストメントを進め、技術も向上すれば、数年後にとてつもないボクサーに成長する可能性を感じさせる。

【今後、スターに"育成"するために必要なことは?】

 一方で、話を聞いたメディア関係者が那須川の才能を認めつつ、今後のマッチメイクには慎重な意見を述べていたのも印象的だった。

「ファンタスティックなタレントであり、将来が楽しみだ。まだ25歳なのだから、2024年は同じくらいのレベルの相手と戦って力を蓄え、2025年に世界レベルの戦いに乗り出すべきではないか。ワールドクラスの選手と戦ったわけではなく、どこまでいけるかを現時点で話すのは難しい。『世界王者になれる』と断言することもできないが、彼が正しい方向に向かっているのは事実だ」(トム・グレイ)

「3戦を終えたばかりの今の時点で、那須川が"未来の世界王者か"を判断するのは難しい。それでも、もっと強い相手との対戦を見てみたい気にさせてくれた。人気やスター性を考えれば、2026年までには世界戦線の準備が整うのではないか。その時まで、できれば頻繁にリングに上がり、スキルを磨いてほしい。輝かしいボクサーになるためのツールは間違いなく備えているため、順調に成長し、潜在能力をフルに発揮することを願わずにはいられない」(カルロス・トロ)

 そんな意見もあるが、那須川の人気や話題性を考慮すると、2025、26年くらいまでじっくりと育成することが現実的かどうかはわからない。ボクシングへの適応が進むにつれて期待も膨らみ、対戦相手の格が急速に高まることも考えられる。そこに人気ボクサー育成の難しさがあるが、百戦錬磨の本田明彦会長と帝拳ジムの手腕が、あらためて問われることになるだろう。

 いずれにしても、日本ボクシング界からまた新しい、楽しみな素材が出てきたことは間違いない。欧米ではまだ大注目の存在ではなくとも、彼らが那須川に気づくのも時間の問題かもしれない。今後、ステージが大きくなるにつれ、海外からの視線が徐々に熱くなっていくことは十分にあり得るだろう。