■大相撲初場所千秋楽(28日、東京・国技館) 何度目の復活劇だろうか。 琴ノ若の挑戦を受けた優勝決定戦。照ノ富士はなかに入ってくる相手の両腕を抱え込んだ。前に出ながら、右、そして左。脇が空いたわずかな隙を見逃さず、巻き替えて両差し。最後はが…

■大相撲初場所千秋楽(28日、東京・国技館)

 何度目の復活劇だろうか。

 琴ノ若の挑戦を受けた優勝決定戦。照ノ富士はなかに入ってくる相手の両腕を抱え込んだ。前に出ながら、右、そして左。脇が空いたわずかな隙を見逃さず、巻き替えて両差し。最後はがぶるように寄り切った。

 支度部屋に戻ってきての第一声は「力を出し切ったと思いますよ」。目は赤かった。

 9年前、23歳で大関になった。ひざのけがで序二段まで落ちた。カムバックを果たして、29歳で横綱に昇進。その後、手術をした。ひざの具合が良くなったと思ったら、今度は腰痛。先場所まで3場所連続で休場を余儀なくされた。優勝インタビューでは、「心だけは折れないように頑張ってきた」と打ち明けた。

 休場が続く中でも、横綱は稽古場に足を運び続けていた。「どんなにきつくても稽古場に来るのが力士の仕事。痛いなら動かなくてもいい、でも来るんだ」。十両優勝した弟弟子の尊富士によれば、部屋のみんなにそう説いていたという。

 その言葉は、横綱が自らに言い聞かせるものだったのかもしれない。

 どうしても達成したい目標がある。2桁優勝だ。「そうそうたるメンバーに自分の名前も入れたい。こういう体だし、目標がないと気持ちが切れてしまう」

 気力をつなぎ、不死鳥のように何度も立ち上がり、あと一つのところまでたどり着いた。(内田快)

■琴ノ若、感想問われ1分沈黙

 支度部屋は静まり返っていた。初優勝を逃した琴ノ若は、報道陣に感想を問われて1分以上沈黙した。唇を何度もかみ、みけんにしわを寄せる。ようやく一言、絞り出した。

 「悔しいです」

 本割では動き回る翔猿をしっかり左の上手でつかまえ、押さえつけるように転がした。迎えた横綱との優勝決定戦。「(気持ちは)変わらない」と平常心を意識したが、番付の違いを見せつけられてしまった。

 賜杯(しはい)を抱くことはできなかったが、自己最多の13勝。14日目に大関霧島を破るなど堂々の成績だ。関脇昇進後の秋場所は9勝、九州場所は11勝と着実に勝ち星を積み重ねてきた。

 大関昇進を確実としたが、胸にあふれたのは優勝を逃した悔しさ。「最後に負けたということは、まだまだ。しっかり稽古して、次の場所に向けてやるしかない」

■霧島完敗、綱とり白紙

 霧島は照ノ富士に歯が立たなかった。過去0勝10敗と分の悪い相手。右を差されて体を持ち上げられると、一気に寄り切られた。綱とり場所の最終盤で2連敗。支度部屋では無言で悔しさをかみ殺した。佐渡ケ嶽審判部長(元関脇琴ノ若)は「横綱に勝っていたら違っていた」と話し、綱とりが白紙になったことを明らかにした。

 ●朝乃山 13日目から再出場。富山出身で能登半島地震で被災した郷里を思い、「物足りないが、上位で戦う相撲は見せられたと思う」。

 ●玉鷲 新入幕の大の里に敗れ、「相手というより自分の立ち合いがダメ。高い。もっといけそうな気はしたんだけど」。

 佐渡ケ嶽親方(元関脇琴ノ若) 琴ノ若の父で師匠。初優勝を逃した息子に優勝旗を渡せず「楽しみは次にとっておきます。大関で優勝してくれたら」。