日常を奪われた人たちへの思いを胸に、ボクサーたちはリングに立つ。 23日、エディオンアリーナ大阪である世界ボクシング協会(WBA)フライ級タイトル戦。王者のアルテム・ダラキアンはウクライナの首都・キーウ在住だ。世界初挑戦のユーリ阿久井政悟…

 日常を奪われた人たちへの思いを胸に、ボクサーたちはリングに立つ。

 23日、エディオンアリーナ大阪である世界ボクシング協会(WBA)フライ級タイトル戦。王者のアルテム・ダラキアンはウクライナの首都・キーウ在住だ。世界初挑戦のユーリ阿久井政悟(倉敷守安)と拳を交える。

 2022年2月にロシアがウクライナに侵攻してから、間もなく2年になる。「ただ単に大変なのではなく、戦時下にある。多くの人が、命や家、大切な人をなくしている」

 21日に大阪市内であった記者会見で、ダラキアンは祖国の現状を訴えた。

 7度目の防衛戦となる今回、現地ではスパーリングの相手を確保するのさえ大変だった。陣営の努力でメキシコ人ボクサーがウクライナに来てくれたという。

 「チームが、自分と練習相手の安全を確保してくれた。そういうサポートのおかげで、調整ができた」と感謝の言葉を続けた。

 会見の際、その王者に歩み寄り、声をかけていたのが、同日のリングで契約体重54・8キロでの8回戦を戦う那須川天心(帝拳)だ。

 「『ウクライナは今も大変』『空襲警報のサイレンが鳴る』と言っていた。それでも、ここに来てくれている」

 那須川は、元日に起きた能登半島地震の被災者を支援しようと個人で500万円を寄付。さらに、賛同したジムや知人らと共同で1千万円も贈った。

 「困っている人、大変な人に手を差し伸べられる人にならないと。有名人がやっているな、とちょっとでも思ってくれれば。僕はきっかけにすぎない」

 キックボクシング時代は「神童」と呼ばれ、若者を中心に知名度は高い。自らに賛同してくれる人が一人でも増えればという思いがある。

 今回はプロボクシング転向3戦目で、バンタム級世界ランカーのメキシコ人と対戦する。

 「毎日みんな、物理的にじゃなくても闘っている。格闘技じゃなくていい。試合を見て行動しようとか、何かやってみようとか、思ってもらえれば」

 国や事情は違っても、届けたい思いは変わらない。(松沢憲司)