一見、コンディション不良かと思わせるほどの緩慢な動きだった。あるいは30度近い暑さに辟易(へきえき)していたのかもしれない。味方がボールを持っても動き出さず、足もとにボールを要求するだけ。放ったシュートはいずれも枠外に飛んだ2本のみで…

 一見、コンディション不良かと思わせるほどの緩慢な動きだった。あるいは30度近い暑さに辟易(へきえき)していたのかもしれない。味方がボールを持っても動き出さず、足もとにボールを要求するだけ。放ったシュートはいずれも枠外に飛んだ2本のみで、総走行距離はフル出場したフィールドプレーヤーのなかではもっとも少ない8.742キロ。来日2試合目となる柏レイソルとの一戦に臨んだヴィッセル神戸のFWルーカス・ポドルスキは、まさに期待外れのパフォーマンスに終始した。



当たりの強い柏のディフェンスに苛立つポドルスキ(左)

「彼はまだ日本のフットボールに慣れ始めたところなので、順応するまで我慢して見てあげないといけないところもあると思う。ボールが入ったときには彼のよさは出ていましたし、周りの選手たちが動くスペースを作り出してくれていた」

 ネルシーニョ監督はそう擁護したが、2ゴールを奪い鮮烈なデビューを飾った前節、大宮アルディージャ戦とのギャップはあまりにも大きく、エースの不発が響いて試合も1−3の完敗に終わっている。

 たしかに指揮官が指摘するとおり、運動量が少ないなかでもボールを受ければ確実に起点となり、次のプレーへと展開していく技術の高さは披露した。シュートには至らずとも、際どいパスで相手の急所を突き、コーナーキックを奪う機会もあった。

 一方で、前線からの守備には力を注いでいなかったものの、当然ながらセットプレー時にはしっかりと定位置に入り、クリアするシーンも何度かあった。守備の約束事は最低限こなしていただけに、決してやる気がなかったわけではないだろう。

 67分にMF田中英雄が退場となり、ひとり少なくなったことも影響したはずだ。2トップを組んでいたFW渡邉千真が中盤に下がり、1トップになったことで孤立無援となった。74分に抜群のキープからMF三原雅俊の決定機を導いたプレーはさすがだったが、危険な位置に入り込んでフィニッシュに至るストライカーとしての真骨頂を発揮する場面は皆無だった。

 連係面の拙(つたな)さも見て取れた。中盤の位置に降りていき、フリーの状況となりながらも、なかなかボールが出てこない。動きが少ないため出し手の視野に入りづらいこともあるだろうが、それ以上に距離感の悪さが目についた。好意的に見れば、相手を引きつけ、味方にフリーな状況を導いたと受け止められないこともないが、チームとして連動しているというわけではなく、結果的にそうなったと見るのが妥当だろう。

 悪いプレーをした選手を叱咤したり、いいプレーには拍手を送ったりと、チームを盛り立てようという姿勢は好感が持てたが、本来求められる役割はそうではないだろう。まだ2試合目とはいえ、ポドルスキ自身がチームにフィットできておらず、味方もポドルスキを生かし切れていない状況がくっきりと浮かび上がった。果たして時間だけで、この問題を解決できるのだろうか。大きな期待を背負って加入したぶん、今後の不協和音を予感させた。

 とはいえ、そうしたチーム状況だけがポドルスキを機能不全に陥らせたわけではない。ポドルスキに仕事をさせなかった柏の若きCBコンビも称えられるべきだろう。

 ポドルスキとのマッチアップの機会がより多かったのは、21歳のDF中谷進之介だ。開始1分、ポドルスキにクサビが入ると、背後からガツンと当たってボールを奪取。ファウルすれすれのプレーだったが、これがポドルスキに冷静さを失わせた。

 21分、今度は20歳のDF中山雄太が激しくチャージ。ここではポドルスキが耐え、左サイドに展開してチャンスにつなげたが、中山に対して怒りをぶつけるなど、神戸の背番号10のメンタルは徐々にヒートアップしていく。

 そして31分、裏に抜け出そうとしたポドルスキを、中谷が倒してイエローカードを受ける。このプレーにポドルスキは激怒。中谷に詰め寄り、一触即発の不穏なムードがピッチを包み込んだ。

 CBのふたりがこの日徹底していたのは、ポドルスキに前を向かせてボールを持たせないことだった。

「シュートを打たせないことを意識しました。そのためには寄せること。大宮戦を見ても、あそこの距離(エリア外)からでも点を獲る力がある。ゴール前で前を向かせないように、とにかくプレッシャーをかけることを徹底しました」

 そう語る中谷は、イエローカードを受け、ポドルスキに詰め寄られた場面を次のように振り返る。

「あそこで自分も引き下がってしまったら、相手の思いどおりになってしまう。そこはディフェンスなので、負けないようにしました」と、決してひるむことなく、負けん気の強さを示したことを明かした。

「シンくん(中谷)とは左足の脅威を防ごうと話していました。僕は直接対峙する場面は少なかったですけど、比較的プレーは制限できたのかなと思います」

 中山もポドルスキに仕事をさせなかったと胸を張る。さらに次のように付け加えた。

「イライラさせたら勝ちだなって思っていました」

 とても20歳とは思えない感覚である。たとえ世界的名手であっても、冷静さを失わせればプレーの質は落ちるもの。柏の若きCBコンビには、まるで百戦錬磨のベテランのような対応力が備わっていたのだ。

 もちろん前述したように、ポドルスキは万全な状態ではなかったし、数的不利な状況で力を発揮できなかった要因もある。とはいえ、このふたりの狡猾かつ冷静な対応力が、ワールドクラスのストライカーのプレー精度を狂わせたことは確かだった。