剣豪・宮本武蔵を思わせる「二刀流剣士」で、徳島県警阿南署警部補の山名信行さん(48)が昨年11月、「国内で最も難しい試験」といわれる剣道の最高段位八段に二刀で合格した。 警察官として多忙な日々を送りながら、家族や多くの剣道家らに支えられて…

 剣豪・宮本武蔵を思わせる「二刀流剣士」で、徳島県警阿南署警部補の山名信行さん(48)が昨年11月、「国内で最も難しい試験」といわれる剣道の最高段位八段に二刀で合格した。

 警察官として多忙な日々を送りながら、家族や多くの剣道家らに支えられて鍛錬に励み、2度目の挑戦で夢をかなえた。

 全日本剣道連盟によると、二刀での八段合格は珍しいという。

 山名さんは京都府出身。ぜんそく持ちの体を鍛えようと、小学3年で剣道を始めた。千葉県の国際武道大に在学中、竹刀と短い小太刀を使って戦う「二刀」の技を磨き、卒業して徳島県警へ。

 2007年の剣道の全日本選手権に県代表として初出場し、1回戦で東京都代表の強敵に勝利。二刀の選手の出場は38年ぶりで「歴史的勝利」と言われた。

 「支えてくれた恩師や友人、家族への恩返しのため、人生をかけて昇段をとげたい」と、昨年から八段審査会に挑戦。その年の8月の審査会で、居並ぶ審査員の前で受験者との立ち合いに臨んだが、不合格となった。

 「何が足りなかったのか」と自問自答を重ね、自分や他の選手たちの試合動画を繰り返し見て研究。「上手に一本を取ろうと意識するあまり、技が軽くなっていた」と気づいた。

 地域の見回りや宿直など、警察業務で稽古時間の確保も難しい中、中学2年で剣道部員の長男統也(とうや)さん(13)が「お父さんの稽古の相手をしてあげるよ」と、勉強や部活の合間を縫って稽古につきあってくれた。

 親子で力加減なしで稽古を重ね、剣道の理にかなった技や間合いを突き詰めていった。

 昨年11月22日、東京の日本武道館であった審査会に再挑戦し、見事合格。

 受験者995人のうち、合格したのは山名さんを含め、たった5人で、合格率はわずか0・5%だった。

 「剣道に生涯を捧げた人たちが、一生かけても合格できないこともあるほど難しい試験。正直、2度目で合格できたことが信じられなかった」と山名さんは振り返る。

 審査会の後、すぐに統也さんや家族に電話すると、「えっ、受かったん。よかったね」と喜んでくれたという。

 「これからは自分が手本となる立場。日がたつにつれて、身が引き締まる思いがする」と山名さん。「まだまだ段位に見合う実力は伴っていない。支えてくれた多くの方々に感謝し、これからも精進を続けて、全国の二刀を志す人たちに力を貸したい」と話す。(吉田博行)