日本一の小学生を決める戦い舞台は通称クロランと呼ばれる高さ120cmのミニランプ。程よい大きさで成長期前の子供がボードコントロールを学ぶには最適なサイズ。「キッズスケーターの登竜門」「スケートボードを始めた子供が最初に出る大会」「子供でも名…
日本一の小学生を決める戦い
舞台は通称クロランと呼ばれる高さ120cmのミニランプ。程よい大きさで成長期前の子供がボードコントロールを学ぶには最適なサイズ。
「キッズスケーターの登竜門」
「スケートボードを始めた子供が最初に出る大会」
「子供でも名前を売ることができる場所」等々、
今や様々な謳い文句で形容されるほど存在価値を高めているFlake Cup。
その中でも新年を迎えた頃に行われるチャンピオンシップは、「小学生日本一を決める戦い」として、毎年数々の熱い戦いと感動のドラマが繰り広げられている。
今年も1月13日に千葉の幕張にあるイオンモール幕張新都心 1F グランドコートにて開催され、高さ120cmのミニランプを舞台に、小学生とは思えないほど高レベルなトリックのオンパレードとなった。
出場するだけでも狭き門
今大会の最年少、6歳(年長)の長坂篤樹が見せたバックサイド540。近年のスケートボードコンテストの低年齢化とレベル向上には目を見張るばかり。
それもそのはず、このチャンピオンシップに出るには、イオンモールと提携した数十名から100名オーバーのエントリーが集まる全国5地区(関東、中部、近畿・中四国、東北・北海道、九州・沖縄)を転戦するジャパンツアーと、全国大会にあたるFLAKE CUP 2023 Oita JRおおいたシティー大分駅前広場大会を勝ち抜かなければいけないので、出場権を獲得するだけでも非常に狭き門となっている。
今年は上記の5地区6大会のジュニア(小学校高学年)、キッズ(小学校3年生以下)クラスに加え、大分(全国)大会のガールズ & スーパー小学生(スポンサーが付いている、もしくはプロ資格を有するライダー)クラス上位3名の中から、重複した選手を除く40名の選りすぐられた小学生と、当日午前に行われるワイルドカード予選大会を勝ち抜いた計46名によって、2023年度No.1小学生の座が争われた。
ワイルドカードに出場していた方が有利!?
ワイルドカード予選を2位で勝ち抜いた岡田琉生のハーフキャブキックフリップ・ブラントフェイキー。
まずは午前中に行われたワイルドカード予選なのだが、はっきりいってここからすでにハイレベル。
出場選手が今大会の予選にあたる前述の5地区6大会で惜しくも4~6位に終わり、あと一歩届かなかった選手に加え、スーパー小学生も入り混じった51名なのだから、通常なら本選にストレートインしていてもおかしくない選手が何人も顔を揃えていたことは想像に難しくない。
ここで上位6名に入るとチャンピオンシップ本選出場権が獲得でき、午後の戦いに駒を進められるのだが、面白いのが、このスケジュールで行われる場合、勝ち抜きさえすればワイルドカードに出場した方が有利なのでは!?という見方ができるところだ。
というのもFlake Cupのジャパンツアーは、イオンモール内イベント広場に特設されたミニランプが会場になるため、敷地内は当然網に囲われたミニランプ以外で滑ることができない。
滑走できるのは各ヒート本番前に与えられる45秒ラン2本のみで、通常のストリートやパークスタイルコンテストのようにまとまった練習時間をとることができないので、場慣れという意味でもワイルドカードに出ていた方が精神的にも楽になるという見方は否定できないだろう。
だがそれも、裏を返せばワイルドカードと全く同じルーティーンではさらにレベルが上がる本選では順位は下がってしまうだろうし、ジャッジから見た印象面でもマイナスになることは避けられない。
余力を残しながらも確実に予選を勝ち抜き、本番ではさらにギアを上げた滑りを披露することが求められるので、トリックの引き出しや完成度の高さだけでなく、勝つための戦略も必要になってくるだろう。経験値がものをいうところも否定できない。
それであるがゆえ、今までワイルドカードから勝ち上がってきた選手の優勝はなかったのだが、なんと今年は史上初の出来事が起こってしまったのだ。
だが、それは上位3名の顔ぶれと滑りを見れば、誰もが納得するのではないかと思う。
大ケガを克服した新年度のFlakeリーダー
スピーディーかつパワフル。能勢英汰のフロントサイド・ノーズグラインド。
まず3位に輝いた能勢英汰だが、彼はワイルドカードを3位で勝ち上がってきた選手。本来の実力からすれば、事前にチャンピオンシップ出場権を獲得していてもまったくおかしくないのだが、彼は昨年の7月に右足の骨折という大ケガを負っている。
そのため出場予定だった10月の関東大会、11月の大分(全国)大会出場は見送らざるを得なかった。ある意味今大会はぶっつけ本番の舞台だったのだ。
聞けばまだケガからの回復具合は70~80%くらいで、練習ではなかなかフルメイクできていなかったのだが、それでも本番ではキックフリップ・バックサイドリップスライドや、バックサイド540を織り込んだノーミスのランを披露して84.83ptを獲得。表彰台に上がってきたのは彼の持つポテンシャルが成せる業といえるだろう。
4月からは6年生となり、いよいよ最後の1年を迎える能勢。Flakeのライダーでもある彼は新年度のリーダーとなるべき人物。ケガが完全に癒えた頃には、さらなる成長を見せてくれることだろう。
奇跡の小4スケーター
いったい今後の彼はどういう成長曲線を描いていくのか!? 三浦宴のフロントサイド・キックフリップ。
続いては2位の三浦宴。彼の獲得したポイントは89.90ptと3位を約5ptも引き離している。それだけ今回は上位2名の滑りが抜けていたのだが、彼は小学校4年生ながら昨年10月の関東大会では95.93ptとFlake Cup史上最高得点を叩き出して優勝を飾るなど、この学年では圧倒的なスキルと実績をもつスケーターで、優勝候補の1人に挙げられていた。
今大会もコーピング越えのフロントサイドキックフリップやバックサイドキックフリップは3ヶ月前よりも完成度が高くなっていたし、ラストには今まで見せたことのないフロントサイドオーリーレイトショービットも披露するなど、ほぼ完璧といっていい滑りを見せてくれた。
だが優勝には0.5pt、あと一歩届かなかった。
単純にトリックだけの難易度と数で見るならば、もしかしたら彼がNo.1だったのかもしれない。
だがスケートボードはそれだけが全てはないということを、今大会は物語ってくれていたのだ。
無冠の帝王が初の栄冠
MCから久しぶりに鳥肌が立ったとの声が上がった永原依弦のラン直後。本人の表情と、ジャッジ&オーディエンスの様子を見れば、場の空気がどうだったのかは一目瞭然。
その答えは、優勝した永原依弦の滑りに詰まっている。
なぜ彼は90.40ptと、三浦宴をわずかながら上回ることができたのか!?
それは彼のトリックの繋ぎ方、ルーティーンの流れにあるといえる。
もちろんトリック単体を見てもキックフリップ・バックサイドノーズブラントリバートをラストに織り込むなど難易度も申し分なかったのだが、それ以上に澱みないスムーズな動きに目を奪われてしまうのだ。
両腕がほとんど上がらないエアーに加え、バックサイドキックフリップ・ディザスターなどのリップトリックも、ボトムを掛けてから一呼吸おくことなく抜けていくので、テンポが非常に早い。
しかも着地でスピードが落ちることもないので、実に無駄がなく、いい意味で彼の滑りはものすごく簡単そうに見えてしまうのだ。
エアーのピークでも彼の両腕は肩より下がっており、実に無駄のない動きであることがわかる。フロントサイドオーリーというシンプルなトリックだからこそ、スタイルが際立つ。
その点で言えば、三浦宴はトリックの難易度では決して負けていなかったのだが、永原依弦のフロウと見比べると、わずかながらトリック後のコンマ1秒の動作の遅れが見受けられたか。本当に細かなところではあるが、そこを見抜いたジャッジ陣は流石というべきだろうし、小4という年齢を鑑みても、更なる成長へ向けた無言のメッセージでもあったのではないかと思う。
こういった部分を、スケートボードの世界ではよく”スタイル”という言葉で表現するのだが、そこが優勝を左右することになったのは、非常に興味深い部分であったかと思う。言い方を変えるなら、トリックばかりに偏重しがちな現在のキッズスケートシーンに一石を投じる良い機会になったのではないだろうか。そんなチャンピオンシップだった。
ではここでまた話を優勝した永原依弦に戻そう。実は彼のこの一年は決して順風満帆ではなかった。大分のスーパー小学生クラスと中部大会のジュニア大会では本来の実力を発揮しきれず、共に9位に終わるなど苦杯を舐めていた中で、今大会はワイルドカードからの出場だった。
そこを見事に1位通過すると、チャンピオンシップでも並み居る猛者達を捲し立て、直線一気のごぼう抜きでようやく勝ち取ることができた栄冠だったのだ。現パークスタイル日本チャンピオンの永原悠路を兄にもつサラブレッドで、スキルも十二分に兼ね備えていることから、周囲からの期待もあったことだろう。だがなかなか結果がついて来ず、「無冠の帝王」とまで呼ばれていた逸材がようやく目を覚ました瞬間だった。
そこには小学生以下という年齢制限が、よりドラマ性を色濃くしていたのではないだろうか。
小学生の訴えと受け継がれるライダーの絆
MCに手を添えられ、故郷石川県の現状を必死に訴える神谷咲彩。より多くの人の心に響いてくれたら幸いだ。
では最後にこれらの写真を見てほしい。
まず一つはマイクを渡されて喋る選手。
普段ならばまず見られない光景なのだが、実は今大会は石川県から3人のエントリーがあった。
そう、石川県といえば元旦に起きた令和6年能登半島地震の被災地。
この場所でもそれぞれの口にした訴えが、現地に足を運んだ方や中継を見ていた方に伝わっていただけたら幸いということで最後に紹介させていただいた。
自らの名前がプリントされたグリップテープを貼ったデッキを抱えたライダー全員の集合写真。ここで深めた絆は、きっと今後のスケート人生にも活きていくはずだ。
次にFlakeライダー全員の集合写真。
Flakeはもともとキッズアパレルブランドなので、成長に合わせて高学年のライダーから卒業していく形をとっている。
そのためメンバーはどんどん入れ替わっていくし、今年は中央の2人、小6の永原依弦と竹中律己がラストラン。
今までも多くのプロスケーターがここを巣立っていった。
小学生のわずか数年ながら、子供の成長においてはとても重要なこの時期。
来年はどんなメンバーが入っているのだろうか。そして彼らの後を受け継ぐ現ライダーはどれだけ成長するのだろうか。
ただひとつだけ言えることは、どれだけ時間が経過しようとも、ここで得たライダーの絆はこれからの長いスケートボード人生において、間違いなく大きな礎や武器となり、未来を明るく照らしてくれることだろう。
RESULT
1. IZURU NAGAHARA / 90.40
2. UTAGE MIURA / 89.90
3. EITA NOSE / 84.83
4. KOUSEI KAMITANI / 84.73
5. HARU MURASE / 83.90
6. KUUYA HASHIMOTO / 83.07
7. RYUUSEI OKADA / 82.70
8. HARU OOTAKI / 82.57
9. OUGA KOIKE / 82.50
10. KOUJYU KOIKE 82.37
吉田佳央 / Yoshio Yoshida(@yoshio_y_)
1982年生まれ。静岡県焼津市出身。
高校生の頃に写真とスケートボードに出会い、双方に明け暮れる学生時代を過ごす。
大学卒業後は写真スタジオ勤務を経たのち、2010年より当時国内最大の専門誌TRANSWORLD SKATEboarding JAPAN編集部に入社。約7年間にわたり専属カメラマン・編集・ライターをこなし、最前線のシーンの目撃者となる。
2017年に独立後は日本スケートボード協会のオフィシャルカメラマンを務めている他、ハウツー本の監修や講座講師等も務める。
ファッションやライフスタイル、広告等幅広いフィールドで撮影をこなしながら、スケートボードの魅力を広げ続けている。
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