将来を嘱望される小泉夢菜 photo by Gunki Hiroshi【体全部の力をフル稼働】 151.8cm。これは小泉夢菜がガールズケイリンの選手として登録されている身長だ。筋量が大きくものをいうこの競技において、ひときわ小柄な体躯であ…


将来を嘱望される小泉夢菜

 photo by Gunki Hiroshi

【体全部の力をフル稼働】

 151.8cm。これは小泉夢菜がガールズケイリンの選手として登録されている身長だ。筋量が大きくものをいうこの競技において、ひときわ小柄な体躯であることは誰の目にも明らかだが、当の本人はそれをまったく気にしていない。

「大きい選手でないと競輪では活躍できない、という話はよく聞きますが、私はそんなことはないと思っています。小さい分、風の抵抗も受けにくいですし、前を行く選手の後ろにつく追走技術には自信があります。脳からの神経伝達、そして筋肉まで体全部の力をフル稼働して戦うことを意識しています」

 2023年は躍進の年となった。デビューから2年未満の選手から選抜されて、一発勝負で争うレース、「ガールズフレッシュクイーン」(4月)で優勝を果たし、GⅠ開催の補欠にも2回選出された。今や次代を担うスター候補として注目を集める存在である。

「昨年はタイトルも獲れましたし、いろいろな経験ができた1年だったと思います。ただデビューしてから体ができるまでに3年はかかると思っていたので、筋力的な部分や脚づくりはまだまだこれから。時間をかけて強くなっていきます」

 受け答えは礼儀正しく、発する言葉は常にポジティブ。自身の未来も明るいと心から信じている様子がうかがえる。

【低迷期も経験】

 早くから結果を残してきたエリートだ。自転車競技をやっていた父親の影響で小学生からロードバイクに乗り始め、英才教育を受けてきた。浦和工業高校時代には1年時にJOCジュニアオリンピック500mタイムトライアルで優勝、2年時にインターハイのケイリンでも優勝を手にした。ジュニアの日本代表にも選出され、3年時に世界選手権にも出場している。

「高校時代は本当に出るレース、出るレース勝っていました。ただ自分にそこまでの才能があるとは思っていなくて、好結果が出せたのは練習量のおかげだと思います、毎日、男子に混じって100km以上走る練習をしていたんです。本当にきつかったのですが、日本代表になりたいという気持ちがあったので、その思いを支えに頑張っていました」

 早稲田大学に進んでからは2年生でインカレ500mを制覇した。ここまでの結果だけを見れば順風満帆の歩みに見えるが、実は低迷期もあったという。

「日本代表という目標を実現したことで高校の後半はモチベーションが下がり、自転車がつまらなく感じてしまったこともあります。また大学では一人暮らしをするようになって食事の管理が自分でできず、1年生では競技力を大きく落としました。2年生でインカレを勝ちましたが、そこでも満足してしまい、本格的な練習から遠ざかった時期もあります。どちらも自転車が嫌いになったわけではありませんが、目標を達成したことで気持ちが切れてしまったんです」

 大学卒業にあたり、一度は一般企業への就職も考えたが、周りからの勧めと、なにより子供の頃から夢見ていたガールズケイリンへの思いは断ち切りがたかった。

「周りの優秀な人たちが就職活動でなかなか内定をもらえていなかったので、普通に就職活動をしても、『自分には無理かな、自転車しかないかな』っていう気持ちもあったんですよ」

 本人は照れながら正直な思いも口にする。こうして悩んだ末に、日本競輪選手養成所への入所を決めた。

【最下位グループからのスタート】

 大学までは華やかなキャリアだったが、養成所では力不足を痛感させられた。入った当初は訓練時の帽子の色は青。これは200mから2000mまで4つの距離の基準タイムをすべてクリアできなかった「スピード、持久力ともに劣る者」を指し、最下位グループを意味する。だが、そこからひたすら自分に向き合い続けた。

「自信があったのは高校までで、そこからは落ちていく一方だったと思います。養成所に入ったときの私は本当にダメでしたので、まずは自分の脚を作ることだけを考えて頑張りました」

 自転車に打ち込める環境で、小泉は浮上のきっかけをつかむべく、もがいた。その結果、養成所在所成績2位で卒業を果たすまでになる。そしてプロとして順調なスタートを切ったのは冒頭に記したとおりだ。



小泉はプロデビュー後も着実に結果を残している

 photo by Gunki Hiroshi

 今、小泉は徹底的に他の選手の走りを見て、研究を続けている。自分のフォームの参考にするため、レースを走る相手の特徴を知るためだ。フィジカル面は発展途上にあるが、それでいて結果を残せているのは今、持てる力を最大限に発揮できる集中力と、戦術面に長けているからにほかならない。

「自分の強みはどんな展開になっても対応でき、戦術を何パターンも考えられるところだと思っています。当初は自分の脚質から先に仕掛けて逃げるかたちで勝負したほうがいいと思っていたのですが、全然勝てなくて......。

 自分の脚質ってなんだろう、勝てる選手になるにはどうしたらいいんだろうってすごく考えて、たくさんレースを見ましたし、先輩方やうまい方の走りをすごく見て、自分に似ている人も研究するようにしてから、だいぶ勝てるようになってきました」

 自分自身を見つめ、周囲の出方を観察し、ベストの対応をする。それがレーサー、小泉夢菜の本質だ。

【長期計画で飛躍を期す】

 以前は「ガールズケイリンはどこかで区切りをつけ、起業する」というセカンドキャリアのプランも描いていたが、今はできるだけ、現役生活を長く続けたいと考えるようになった。それは自転車の面白さ、自分の可能性の大きさに気がついたからだ。とはいえ起業の夢を諦めたわけではなく、現在、模索中だ。

「以前は海外で起業したいと考えていましたが、現役の間は無理ですね。今は自分に何ができるかを考え中ですが、もし起業がうまくいけば、きっと競輪に向けても気持ちが上がっていくと思うんです」

 エリートでありながら、低迷期も経験し、ここまで紆余曲折の自転車人生を送ってきた。その経験、すべてが現在の自分を作り上げていると話す小泉。そして今は、将来の理想の姿を描きながら、丁寧に計画を立ててキャリアアップを目指す毎日を送る。

「人によって使う筋肉は異なりますので、トレーニングもただひとつの正解はなく、自分のタイプや乗り方に合ったものをどれだけ積み上げていけるかが重要です。私はまだ筋力的に弱い部分が多いのですが、最近は上半身も使えるようになってきました。体が小さい分、効率のいいペダリングを目指し、勝てる選手になりたいです。今はGⅠのレースにも出られていませんが、将来的にはもちろんグランプリに出たい。長く続けると決めたので、焦ることなく、長期計画でその舞台を目指していきます」

 自然体でさらなる高みを目指す小泉夢菜。2024年、どこまで高く羽ばたくか注目だ。

【Profile】
小泉夢菜(こいずみ・ゆめな)
1999年3月23日生まれ、埼玉県出身。小学6年から自転車競技を始める。高校1年時に育成選手として日本代表に選出され、高校2・3年時にインターハイ女子ケイリンで優勝を飾る。大学2年時にインカレ500mタイムトライアルを制覇する。卒業後に日本競輪選手養成所に入り、在所成績2位で卒業。2023年4月のフレッシュクイーンで優勝を手にした。