米国で近年、爆発的な成長を遂げているスポーツがある。「ピックルボール」という、テニスと卓球とバドミントンを混ぜ合わせたようなラケット競技だ。 板状のラケットである「パドル」を使って、穴の空いたプラスチック製の球を打ち合う。スピードが出づら…

 米国で近年、爆発的な成長を遂げているスポーツがある。「ピックルボール」という、テニスと卓球とバドミントンを混ぜ合わせたようなラケット競技だ。

 板状のラケットである「パドル」を使って、穴の空いたプラスチック製の球を打ち合う。スピードが出づらくラリーを続けやすいため、老若男女が楽しめる参加型のスポーツとして人気を博している。

 競技人口は2020年の約420万人から22年には890万人に急増。米国では1年間で4830万人が一度はプレーしたというデータもある。コロナ下で互いの距離をとれるスポーツとしてビル・ゲイツらセレブらの関心も集め、ここ数年で一気に広がった。

 2021年には、トップ選手が競い合う「メジャーリーグ・ピックルボール(MLP)」が誕生。8チームから始まり、現在は24チームに拡大している。賞金総額は500万ドル(約7億2千万円)で、100万ドルを稼ぐ選手も誕生しているという。毎年1月に男女計4選手を獲得するドラフトが実施され、競技スポーツとしての可能性も大きくなっている。

 そのMLPに、日本リーグを10連覇したソフトテニスのプロ選手、船水雄太(30)が挑戦する。船水は昨年ロサンゼルスに滞在した際、ピックルボールで遊ぶためにテニスコートが人であふれている様子を見て、「熱狂を感じた。本場で挑戦したい」とソフトテニスとの二刀流で最高峰の舞台を目指す決意をした。

 1月末に渡米予定。まずは個人で参加できる大会に参戦しながらランキングを上げ、ドラフト候補になる道のりを模索する。「最速1年でMLPにたどり着きたい」。近い距離で打ち合うボレーなど、ソフトテニスの技術との共通点は多く、手応えを感じている。「日本人として世界チャンピオンになることを無我夢中で目指していきたい」

 船水を支援するのは、転職サービス「ビズリーチ」などを展開するビジョナル株式会社だ。南壮一郎社長はプロ野球楽天の創業メンバーの一人で、昨年大リーグヤンキースのオーナーの一員になった。ピックルボールでもマイアミにあるチームのオーナーになっているという。同チームのオーナーにはテニスの大坂なおみやアメリカンフットボールNFLのスーパースター、パトリック・マホームズ(チーフス)らも名を連ねている。

 南社長は「競技人口が増え、プロリーグもあり、チームも増えている。全国放送もされている。この流れは拡大するしかない。スポーツに限らず、ITでもどんな業種でも、成長する要素が重なってくると産業が伸びるのは僕からすれば一目瞭然。投資としては、何も考えず『はい、やります』と決めた」と明かす。

 ビジョナルは船水の挑戦をサポートしつつ、日本での普及にも力を入れていくという。

 南社長は「(認知が広がるには)10年はかかると思う。まずは参加型のスポーツとして普及が広がっていくことが重要。10年後に欧州やアジアに広がったなら、その先に五輪競技になれるかを、個人として楽しみにしている。新しいスポーツが産声を上げて世界に広がっていくのは、人生でもなかなか見られない。ピックルボールで色々な国から五輪選手が生まれたら、このプロジェクトを応援してよかったとなると思う」と展望を語った。(野村周平)