大沢ケンジが振り返るRIZIN.45 後編(前編:堀口恭司と朝倉海の勝利を分析 強さに「驚いた」敗者も>>) 格闘技解説者の大沢ケンジ氏が振り返る「RIZIN.45」。後編は立ち技からMMAに挑戦する選手たちの試合、ほろ苦いRIZINデビュ…

大沢ケンジが振り返るRIZIN.45 後編

(前編:堀口恭司と朝倉海の勝利を分析 強さに「驚いた」敗者も>>)

 格闘技解説者の大沢ケンジ氏が振り返る「RIZIN.45」。後編は立ち技からMMAに挑戦する選手たちの試合、ほろ苦いRIZINデビューとなった修斗2階級王者の"愛弟子"について語った。



YA-MAN(左)に判定勝ちした平本蓮(c)RIZIN FF

【平本蓮のMMAファイターとしての進化】

――今大会で大きな注目を集めたカードのひとつ、平本蓮選手vsYA-MAN選手は平本選手の判定勝ちとなりました。どちらも、もともとは立ち技の選手でしたが、全体の印象はいかがでしたか?

「MMA選手としての経験の差が出た試合でしたね(YA-MANは2戦目、平本は6戦目)。キャリアで上回る平本選手がうまく闘いました」

――スタンドで打ち合うシーンも多く見られましたね。

「フックを振って前に出るYA-MAN選手に対して、ジャブやストレートなど速いパンチをコンパクトにヒットさせていた平本選手。思いきりパンチを振れるところがYA-MAN選手の魅力でもありますが、蹴りを出すなど、もう少し攻撃を散らせるとよかったのかなとは思います。パンチ一辺倒で読まれていたかなと」

――平本選手が自分からテイクダウンにいく場面も見られましたね。

「打ち合いから組んで押し込んだり、外掛けでテイクダウンしたり、体をコントロールしてバックを取ったり......常に自分のペースで試合をしていましたね。経験を積んで、MMA選手としての幅が広くなった印象です」

――YA-MAN選手が平本選手をコーナーに押し込んでの、四つ組の攻防もありましたね。

「押し込んでいるほうが体力を使いますから、平本選手は無理に脱出しようとせず、一度力を抜いて回復した感じでしょうか。組み際に打撃を当てたりと、そのへんも試合巧者でした」

――敗れはしたものの、YA-MAN選手の最後まで倒しにいく姿勢も光りました。MMA2戦目のファイトはどうでしたか?

「組みにもある程度は対応できていましたし、強い気持ちも見えてよかったと思いますよ。まだまだこれから、という感じです」

――平本選手は、自分よりMMAのキャリアが少ない選手と闘うのは初めてでしたが、差を見せつけて勝利を収めました。

「今回の平本選手はKOや一本での勝利ではなく、確実に勝ちを狙いにいった。それは、先にある闘いを見据えているのかな、とも思いました」

――それは、大会後の総括会見で榊原信行CEOも実現を示唆していた朝倉未来戦でしょうか。

「やるでしょうね」

【「MMAは時間がかかる」】

――大沢さんは「Breaking Down」でジャッジを務めていますが、そこで戦う冨澤大智選手とKrushフェザー級王者の篠塚辰樹選手が、オープンフィンガーグローブのキックルールで対戦しました。

「篠塚選手がきっちり力の差を見せつけての判定勝ちでしたね」

――篠塚選手は、アマチュアボクシング上がりで元A級ボクサー。距離感やパンチのテクニックが秀でているように思います。

「うまいですよね。冨澤選手の攻撃は、3ラウンドに少し当たり始めましたが、そこまでは完全に見切られていました。

 冨澤選手はBreaking Down の1分間の闘いに慣れていて、そこでの勝ちパターンは知っています。Breaking Downは相手がガンガン前に出てきてくれますから、テンカオ(膝蹴り)が入りやすい。朝倉海選手がフアン・アーチュレッタ選手に決めたのもそうです。でも、篠塚選手にとってはそこも想定内でしたね」

――今大会では、安保瑠輝也選手、芦澤竜誠選手、皇治選手と、元K-1選手のMMAデビューも話題となりました。

「皇治選手は、格闘技のキャリアが浅い三浦孝太選手にTKO勝ちしましたが、安保選手と芦澤選手は完敗。やっぱり、すぐにうまくはいかないですよ。『MMAは時間がかかるよな』と思いましたけど、だからこそ面白いんですよね」

【修斗2階級王者 愛弟子・新井丈選手】

――大沢さんのジム、和術慧舟會HEARTS所属で史上初の修斗2階級王者・新井丈選手もRIZINデビュー。結果は、2ラウンドKO負けとほろ苦いデビューとなりました。

「大会後にさいたまスーパーアリーナから自宅まで車で送ったんですけど、めっちゃ落ち込んでました。彼は9連敗もあってから11連勝と、2年くらいかけて期待値や評価をどんどん上げていった。そして今回の大舞台に臨んだわけですが......丈も言っていましたけど、『積み上げてきたものを全部持っていかれた』なという感じですかね」

――下馬評では新井選手が有利でした。ただ、ヒロヤ選手はRIZINで2連敗中だったとはいえ、その2戦(伊藤裕樹、中村優作)はともにスプリット判定での惜敗でした。

「正直なところ、本当に難しい試合だと思っていました。でも、ここまで連勝してきた流れや強さ、"新井丈"という人間力で今回も行けると思ったんですが、そうはいかなかったですね」

――作戦としては、タックルを切ってスタンド勝負に持ち込む形だったんでしょうか。

「そうですね。得意としている、前に出てプレッシャーをかけながらパンチで勝負する形。ただ、先ほどYA-MAN選手の時にも話したように、丈もパンチというはっきりとした武器が魅力な一方、相手からすればわかりやすい部分もある。それでもペースは掴んでいましたが、結果論になってしまいますね」

――勝負の分かれ目となったのは?

「丈の手数が少し落ちて、見る時間が増えてしまって相手にプレッシャーがかからなくなった。ヒロヤ選手は頻繁にタックルを狙ってきていたので、丈の意識がそこにいったこともあって、逆にパンチをもらっちゃいましたね」

――新井選手は11月19日、修斗のタイトルマッチ(vs山内渉)で激闘を演じたばかりでした。急な試合で間隔が短くなったことによるコンディションへの影響は?

「本人は言い訳しませんが、結果がこうなった以上、難しかったんだと思います。ただ、大晦日のRIZINからオファーがあった時点で、『見送る』という選択はなかったです。その舞台に立ってほしかったので。リスクを承知でチャンスを掴みにいきましたが、落とし穴がありましたね。

 今後は本人の希望もふまえて、格闘家として生活をしていくことも考えて、活躍の舞台が広がるフライ級で闘っていくことになるでしょう。少し時間をかけて、フライ級の体をきちんと作るところから始めようと思っています」

――最後に、5月6日の「RIZIN.47」でフェザー級王者の鈴木千裕選手と金原正徳選手が対戦することが発表されましたが、その一戦についてはいかがですか?

「これは、すげ~難しいです(笑)。鈴木選手が1発で倒す可能性もあるんですけど、MMAのトータルの力で言えば圧倒的に金原選手が上だと思います。(昨年9月の試合で)あのクレベル・コイケ選手をしっかり抑えていましたから。鈴木選手の爆発力と"持っている"力が、金原選手の総合力を上回れるかの闘いになりそうですね」

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 2024年のRIZINの開幕戦は、2月24日の『RIZIN LANDMARK 8 in SAGA』。そこから今年も、熱いドラマが始まる。

RIZIN公式サイト>>

【プロフィール】
大沢ケンジ

1976年11月4日生まれ、東京都出身の元格闘家。第9回全日本アマチュア修斗選手権 フェザー級優勝。和術慧舟會HEARTS主宰。