今年も春の高校バレーの季節がやってきた。"バレーボールの甲子園"とも呼ばれるこの大会は、以前は3月開催で2年生までしか出場できなかったが、2011年からは1月開催となり、3年生の最後の晴れ舞台となった。数々の名勝負が生まれ、その後に代表で…

 今年も春の高校バレーの季節がやってきた。"バレーボールの甲子園"とも呼ばれるこの大会は、以前は3月開催で2年生までしか出場できなかったが、2011年からは1月開催となり、3年生の最後の晴れ舞台となった。数々の名勝負が生まれ、その後に代表で活躍する選手も多い春高の、今大会の注目校や注目選手を紹介していこう。

【優勝候補は駿台学園。対抗馬は?】

 まず男子は、駿台学園(東京)が優勝候補の筆頭に挙げられる。昨年は春高を制し、夏のインターハイでも優勝。国体では山口県代表に優勝を譲ったが、今年度の集大成となる春高には満を持しての登場となる。



優勝候補、駿台学園で主将を務める亀岡聖成 photo by 坂本清

 昨年末に行なわれた天皇杯では、関東ブロックラウンドでV.LEAGUE DIVISION3の千葉ZELVA、関東一部リーグの駒澤大、昨年度のインカレ優勝校である筑波大もフルセットの末に破り、ファイナルラウンドに出場した。そのファイナルラウンドでも高知工科大をストレートで撃破。その後、昨季のV.LEAGUE覇者・ウルフドッグス名古屋に敗れたものの、カテゴリーを超えた強さを見せた。

 チームは主将の亀岡聖成(3年/アウトサイドヒッター・180cm)を中心に、ディフェンシブなバレーで粘り強く戦う。昨年の春高決勝もセットカウント0-2のビハインドから逆転勝ちした。選手層も厚く、何度もリバウンドを取って切り返す戦術は代表チームを彷彿とさせる。梅川大介監督が「国体は負けるべくして負けました。ブロックを見直し、徹底します」と語るように、国体の悔しさを晴らしての頂点を狙う。

 日本代表のミドルブロッカー、小野寺太志(サントリーサンバーズ)の出身校である東北(宮城)では坂本アンディ世凪(3年/193cm・アウトサイドヒッター)に注目。前回大会は3回戦で、坂本を中心に準優勝校の鎮西(熊本)をあと一歩まで追い詰めながら逆転負け。その悔しさから自ら主将に名乗りを上げたエースは、高さがあるスパイクを武器に春高での躍進を目指す。また、東福岡(福岡)も主将の葭原逢太(3年・184cm)に期待だ。U-18、U-19の日本代表では主にセッターを務めていたが、東福岡ではどこからでも得点するエースとして活躍。"バレーIQ"の高さを春高でも見せつける。

【復活を期す古豪も】

 今年の春高予選では、近年に各地の覇権を握っていた高校が敗れる"波乱"が多かった。京都予選では、代表の主力選手となった高橋藍(モンツァ)の出身校で、2020年大会から連続で春高に出場していた東山が洛南に敗れた。

 洛南も京都の名門で、北京五輪代表で2021年に現役を引退した福澤達哉(元パナソニックパンサーズ)など、日本代表でも活躍する選手を多く出している。2019年の春高では、ともにパナソニック所属の大塚達宣(東京五輪代表)や垂水優芽、ルーマニアリーグのディナモ・ブカレストで奮闘する山本龍、早稲田大の中島明良の「洛南カルテット」がチームを頂点に導いた。

 今回はその2019年大会以来5年ぶりの出場。東山との京都予選決勝はフルセットにもつれ込み、5セット目は0-3と劣勢からのスタートになったが、洛南の選手たちは笑顔を見せながら慌てずに逆転勝ち。主将の岸岡脩人(3年/179cm・オポジット)は「(洛南カルテットなど)先輩たちの映像をいつも見ていたから」と振り返った。

 今年の洛南は、5年ぶりの春高優勝へ、最高到達点が340cmを超える中上烈(2年/190cm・アウトサイドヒッター)、草野叶嶺(3年/188cm・アウトサイドヒッター)のダブルエースが攻撃をけん引。OBの大塚は「出場おめでとう。ひとつひとつの試合に集中して、オレンジコートで存分に戦うところを見せてほしい」とエールを送る。

 男子でのもうひとつの波乱は、長野予選で古豪の岡谷工業が"因縁"ある松本国際を破ったことだ。

 松本国際の壬生裕之監督の父・義文氏は、かつて岡谷工業で指揮を執って一時代を築いたが、2005年に創造学園(現・松本国際)の監督になると、その数年後から松本国際が全国大会に出場する機会が多くなった。岡谷工業は2年前にも春高に出場しているが、その前年までの8年間、前回大会も松本国際の後塵を拝している。

 今年度もインターハイ予選、北信越大会の決勝でも松本国際にフルセットで敗戦。その悔しさをバネに、夏場に各地で練習試合を繰り返して持ち味の守備を磨いて春高出場をたぐり寄せた。キャプテンでリベロの大日方優将(3年/177cm)を中心としたバレーで古豪復活を目指す。

【女子は下北沢成徳が3冠を狙う】

 一方で女子の注目校は、名将・小川良樹監督が勇退し、伊藤崇博監督による新体制で再スタートした下北沢成徳。木村沙織、荒木絵里香、大山加奈、石川真佑ら幾多の日本代表選手を輩出し、今年度のインターハイと国体を制した超名門が3冠を狙う。

 昨年の春高は東京都予選で敗れ、小川監督を春高で送り出すことができなかった。しかし今年度は、予選の準決勝で日本代表・秋本美空(2年/184cm・アウトサイドヒッター)を擁する共栄学園に勝ち、決勝でも八王子実践相手にキルブロックを連発。両試合とも、相手チームを全セット20点以下に抑える"完全試合"で優勝を決めた。

 スタメンの平均身長は177.2cmと、全国屈指の高さを誇る。その中で攻撃の中心になるのは、父がミャンマーの元バレーボール代表のイェーモン・ミャ(2年/175cm・アウトサイドヒッター)だ。

 家族は軍事政権下で紛争が起こったミャンマーから日本に逃れ、難民認定を受けている。「高校を卒業したら日本国籍を取得して、日本代表を目指したい」と力強く宣言する彼女の武器はパワフルなスパイクだが、「それだけでは上のクラスで通用しないと思う」と話すように、さまざまな形での得点に注目したい。他にも、対角を組む後藤ビビアン愛音(2年・172cm/アウトサイドヒッター)、180cm超のミドルブロッカートリオもいる隙のない陣容だ。

 下北沢成徳に敗れた共栄学園も、東京予選の3位決定戦を制して春高の舞台で戦う資格を得た。前回大会で「元日本代表・大友愛の娘」としても注目された秋本は、U-18の世界大会でエースとして活躍し、シニア代表にも登録されている。


前回大会、

「大友愛の娘」としても注目を集めた秋本美空 photo by 坂本清

 昨年のインターハイには出場できず。チーム全体でそれを受け止め、春高にすべてをかける。前回、1年生として春高デビューを飾った秋本も「昨年は最後に上がってきたトスを打ち切れませんでした。今年は決めきります」と意気込む。中村文哉監督が「レシーブがよくなった。本人の希望で、いろんなプレーを任せています」というエースの躍動に期待がかかる。

 大阪代表の金蘭会は、天皇杯のファイナルラウンド出場の経験を糧に、下北沢成徳の3冠阻止を目指す。

 昨年度、1年生エースとして活躍した西村美波(2年/178cm・アウトサイドヒッター)は、インターハイでまさかの2回戦負けを喫したことで意識を変えた。それまでは3年生エースの上村杏菜(3年/168cm・アウトサイドヒッター)に頼る気持ちが大きかったが、上村がケガで不在の時期が長かった今季は「それではいけない」と自分で引っ張ることを決意。年度を締めくくる春高で優勝なるか。

 今年は4年ぶりに、1回戦から有観客で声出し応援が可能になり、ブラスバンドも復活。代々木第一体育館が"揺れる"光景が戻ってくる。はたして栄光を掴むのはどのチームか。