【福田正博 フォーメーション進化論】 サッカーは”プレーを読む”ことが重要なスポーツだ。守備の時は相手がどのような攻撃をしてくるかを予測できれば失点を防ぐことが容易になり、逆に、攻撃時は相手の予測を上回れば得点チ…

【福田正博 フォーメーション進化論】

 サッカーは”プレーを読む”ことが重要なスポーツだ。守備の時は相手がどのような攻撃をしてくるかを予測できれば失点を防ぐことが容易になり、逆に、攻撃時は相手の予測を上回れば得点チャンスが増える。そこで、相手に次のプレーを読ませないための特別な存在になり得るのが、左利きの選手だ。



ほぼ両利きの左SBとして活躍する長友。彼の後を継ぐレフティの台頭が待たれる

 左利きの選手はプレーのリズムやテンポが独特だが、とりわけ、ボールの持ち方に特徴がある。右利きの選手は、体の正面か右足の斜め前にボールを置くことが多いのに対し、だいたいの左利きの選手は、ボールを左足の真横の少し外側に置いてプレーする。中村俊輔しかり、ディエゴ・マラドーナしかり、アリエン・ロッベンしかり、リバウドしかり……。左利きの選手と同じような位置にボールを置いてプレーしていた右利きの選手は、”ピクシー”ことドラガン・ストイコビッチくらいだろう。

 すべての左利きの選手がこうしたボールの置き方をするわけではないが、右利きの選手が持っていない「懐の深さ」や「独特の間合い」があるため、チーム内に左利きが数人いると攻撃にアクセントをつけやすくなる。アーセナルを率いるアーセン・ベンゲル監督などは、チーム作りの段階で計画的に左利きの選手を2、3人ほど組み入れているそうだ。

 基本的に、左利きの選手は左サイドで起用されることが多いが、アタッカーのポジションでは左右を入れ替えるケースもある。

 左利きの選手が右サイドで起用された場合、縦に抜け出した時に右足でクロスを上げなくてはならないことが弱みになる。左足で蹴るには切り返さなければならず、そのわずかな時間でDFに間合いを詰められてしまう。一方で、右サイドからゴール前にカットインした際には、利き足の左足を最大限に活かすことができる。

 その代表例がメッシだ。右サイドからゴール前に進入し、そのままの流れで左足から強烈なシュートを放つ。相手チームにメッシのようなアタッカーがいる場合は、守備側もDFの左右を入れ替えることもある。実際に、レアル・マドリード時代のジョゼ・モウリーニョ監督は、メッシ対策として左SBにあえて右利きの選手を置いた。左SBが左利きだと、メッシがカットインしてきた時に得意ではない右足で対応することになってしまうからだ。

 ただし、これはメッシというスペシャルな選手を擁するチームに対しての策であって、やはりSBには、右には右利き、左には左利きの選手を据えるのが一般的だ。その理由として、ライン際でボールを受けた時、対峙する相手のプレッシャーを自分の体でブロックできることが挙げられる。

 私が現役時代に対戦したSBでは、やはり鹿島アントラーズの右SBでプレーしていたジョルジーニョが印象に残っている。基本、FWは相手SBが縦へ出すパスコースを塞ぐためにプレスをかけるのだが、彼はタッチライン側にボールを置くため、必然的に走る距離が1歩か2歩長くなる。そのうえ、足を伸ばしても体をうまく使ってブロックされてしまい、簡単にパスをつながれてしまうという、ワールドクラスのSBだった。



利き足による左SBのボールの位置の違い

 FWがプレスをかけるとき、SBの利き足が、担当するサイドの逆足だったら、FWは一気に楽になる。左SBを右利きの選手が務める場合、左SBは自陣左サイドのタッチライン際で右足でボールをトラップすることが多いため、ボールを相手FWがプレスをかけてくる側に置くことになる。そのため、プレッシャーを体でブロックすることが難しくなり、ボールを奪われるリスクも高くなってしまう。

 また、左サイドから右サイドにロングパスを送る時に、左SBが右利きの場合、右足で蹴るときは体の向きを中央に変えなくてはいけないこともデメリットのひとつだ。これが左利き、あるいは長友佑都や酒井高徳のようにほぼ両利きであれば、体が正面を向いたままでトラップをして、そのままの体の向きで、ワンステップで縦にも横にも左足でパスが出せる。相手守備陣にとって、SBの体の向きが変わらないため、パスコースを読みづらくなる。

 一方、左SBが右利きだと、逆サイドにロングパスを右足で出そうとする時にピッチの内側に体を向けることがほとんどで、左足ではその精度が下がる。結果、体の向きでパスがどこに出るのかを予測しやすくなり、相手DF陣の対応が1、2歩早くなる。つまり、その分、サイドチェンジでパスを受けた選手へのプレッシャーが厳しくなる。時間とスペースが削られてしまい、サイドチェンジの意義が薄くなってしまうのだ。

 このように、左SBを左利きの選手に任せることができれば、後方からのフィードでチャンスを作りやすくなるだけでなく、ボールを奪われるリスクの回避にもつながる。より自陣ゴールに近いポジションほどそれが求められるため、ボランチを2枚置くフォーメーションの場合も、ひとりは左利きの選手が担うことが理想だろう。

 現在の日本サッカー界には、攻撃的なポジションで活躍するレフティが多く、CBにも柏レイソルの中山雄太といった左利きの日本代表候補が出てきている。残すは、左SBに有望なレフティの若手が現れるのを待つばかりだ。

 Jリーグからそんな選手が台頭すれば、すぐにでも代表のポジションを奪えるチャンスは十分ある。ただ待つのではなく、未来の日本代表を担う左SBを育てていくことも必要だ。左利きの選手がその特性を活かせるように、育成世代から指導をしていくことを、日本サッカー界全体で考えていくべきだろう。