異名は「鬼姫(おにひめ)」。大人顔負けの滑走スピードで、恐れず突き進むプレースタイルから名付けられた。スケートボード・女子パークの草木ひなの選手は、茨城県つくば市内の中学に通う15歳。夏に迫ったパリ五輪を見据えている。 世界ランキングは1…

 異名は「鬼姫(おにひめ)」。大人顔負けの滑走スピードで、恐れず突き進むプレースタイルから名付けられた。スケートボード・女子パークの草木ひなの選手は、茨城県つくば市内の中学に通う15歳。夏に迫ったパリ五輪を見据えている。

 世界ランキングは12月末時点で2位。鬼にまでたとえられるスピードは、高さのあるエアを生み出す。高さは大技に欠かせないもの。幼い頃からレベルの高い大人たちの中でもまれてきたことが、このスピードにつながったと考えている。

 スケートボードに出会ったのは小学2年のころだ。趣味でスケートボードをしていた母・ゆりさん(47)に連れられ、つくば市にあるスケートボードパーク「AXIS(アクシス)」を訪れた。

 スケートボードの五輪競技は2種類ある。その一つが「パーク」。すり鉢状のコースを一定の時間滑り回り、トリックと呼ばれるさまざまな技の難度や構成を競う。空中での大技も魅力だ。もう一つは階段や手すりなど、街中の障害物を再現したコースで競う「ストリート」。これまでパークを主戦場にしてきた。

 スケートボードを始めたころは「お母さんに負けたくない」という一心だった。体重移動だけで前進する基本的なトリック「チックタック」。これができたら自分のスケートボードを買ってもらう約束をした。

 「できたのになかなか買ってもらえなかったけど」と笑う。それでもパンダの絵が描かれたボードを初めて手にしたときは、「とってもかわいくて、うれしかった」。

 幼いころから体を動かすことが好きだった。ダンスや体操、サッカーといった習い事をしてきた。徐々に、スケートボードに絞っていった。

 アクシスに同世代の子どもは少なかった。パークは障害物の置かれた曲面を疾走する。大人に交じって追いかけっこをする感覚で、数人が連なって滑走する「トレイン」を繰り返し、滑走スピードが鍛えられた。

 あだ名の変遷が、それを物語る。最初につけられたあだ名は「弾丸娘」。山犬にまたがって疾走するジブリ作品の「もののけ姫」を経て、今の鬼姫に。「周りにいる大人にほめられたくて、いろんな技にも挑戦してきた」。大会に出場する時などを除いて、現在も継続してアクシスに通う。

 競技を始めて4年ほどの2021年に、日本選手権で初優勝。そこから3連覇中だ。昨年10月、ローマであった世界選手権で2位に入り、世界ランキングを2位にまであげた。

 昨年は国内外でイベントも含め8大会ほどに出場し、舞台を重ねる中で技の練度が上がってきた。

 11月にあった日本選手権では、「サランラップ360」と呼ばれる大技を成功させた。パーク内にある障害物をスピードに乗って跳び越える際、足先をボード先端に巻き付けるような動きをしながら体ごと横1回転し、着地を決めた。練習でもなかなか決まらなかった大技成功に、手応えを感じた。

 アジア大会(中国・杭州)や世界選手権(ローマ)でも得点を積み上げた「バックサイド540」が得意技。空中で背中側から1回転半まわる技だ。完全にスピードに乗れていなくても、すべてのトリックを成功させる「フルメイク」に果敢に挑戦する。

 失敗もあった。5月に千葉で行われた「Xゲームズ」で、これまで出てきた大会のなかで初めて予選落ちを経験した。常設ではなく、大会のときだけコースを作る特設会場は初めてで、事前に滑走する時間が少なかったことが影響したと分析している。

 パークは、3本の滑走のうち最も高い得点で競う。5月のパリ五輪予選(アルゼンチン)では、最終3本目の滑走で高得点が出て4位。レベルの高い選手に囲まれて「最初から攻め込めなかった」と、課題を感じた。逆に日本選手権では1本目が光った。100点満点で80・53の高得点をマークし、3連覇を決めた。

 好きな選手は、東京五輪男子パーク銀のペドロ・バロス選手。「(ボードの裏側を縁にこすりながら走る)グラインドの音が雷みたいでかっこいい」と興奮気味だ。パリ五輪に出られたら……「体重を乗せて踏み込み、ペドロみたいな『バリバリ』っていう雷みたいな音を響かせたい」と笑った。(宮廻潤子、写真は河合博司)

■茨城のお気に入りスポットは?

 最近は国際大会への出場が増え、茨城は海外遠征から帰ってくると安心して落ち着ける場所になった。音楽やMCもあってにぎやかなスケートボード会場も楽しいが、一人で過ごす時間も好きだ。桜川市にある祖母の家で畳のにおいに包まれていると「ほっとできる」という。

 お気に入りスポットは小学2年生の時、校外学習で訪れたアクアワールド県大洗水族館。特に、大きな水槽を見上げながらエスカレーターで上っていくエリアが印象的だった。「頭上をサメが優雅に通って、本当にかっこいい」

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 くさき・ひなの 2008年生まれ、茨城県つくば市出身。8歳でスケートボードを始め、現在は同市立大穂中学3年。21年、13歳の時に日本選手権女子パークで初優勝し、現在3連覇中。23年のアジア大会を制し、世界選手権(ローマ)では2位に入った。