第100回箱根駅伝(2024年1月2日・3日)の区間エントリーが12月29日に発表された。史上初の2年連続学生駅伝3冠を狙う駒澤大は、いかに偉業に挑むのか。その駒大を止めるべくライバルたちはどのように対抗していくのか。当日変更(※)を前提に…
第100回箱根駅伝(2024年1月2日・3日)の区間エントリーが12月29日に発表された。史上初の2年連続学生駅伝3冠を狙う駒澤大は、いかに偉業に挑むのか。その駒大を止めるべくライバルたちはどのように対抗していくのか。当日変更(※)を前提にエース級の選手を補欠に置くチームも多い。ここでは、前回大会の上位6校の思惑をひも解いてみる。
※当日のメンバー変更は往路・復路の各路で補欠から最大4名まで、往復では合計6名までが認められている。ただし、異なる区間への変更はできない。
佐藤圭汰の箱根駅伝初出場は3区
photo by KYODO NEWS
【駒大は王道の勝ちパターンで勝負】
上位校の区間エントリーで最も注目されたのは、駒大の佐藤圭汰(2年)が1区に配置されるかどうかだった。
佐藤は9月のアジア大会5000m日本代表。11月の八王子ロングディスタンスで臨んだ初の1万mでいきなりU20日本記録、日本学生歴代2位の27分28秒50をマーク。出雲駅伝、全日本大学駅伝でも2区に出走し区間賞を獲得するなど、学生界トップクラスの実力を見せつけていた。12月中旬、その佐藤の口から「5km14分00秒のペースで区間新記録を狙う」と1区を志願するコメントを出していたからだ。
1区は、一斉スタートのため選手同士が牽制し合い終盤までスローペースになる傾向があり他区間に比べてもエース級の選手を起用するメリットは少ない、と見られている。しかし、佐藤はすでに学生界の枠を超えた選手。2007年の佐藤悠基(東海大、現・SGホールディングス)、2022年の吉居大和(中央大4年)のように、序盤からひとり抜け出し、そのまま最後まで押し切るレースを実践できる数少ない選手ゆえに期待が膨らんではいたが、最終的には3区に落ち着いた。
もっとも「3区・佐藤」は、駒大がオーソドックスな勝ちパターンを意識していることを示している。
1区エントリーの白鳥哲汰(4年)は1年時に1区区間15位だったが、今季は5000mも13分41秒39で走り、ハーフマラソンも11月の上尾ハーフで自己新記録の1時間02分14秒を出している。東京農大が当日変更で予選会日本人トップのスーパールーキー、前田和摩を1区に起用してくる可能性もあるが、最後まで上位争いに絡む力は備えている。エース区間の2区は、本人の実力と希望どおりの配置となった鈴木芽吹(4年)で留学生との争いで競り合う展開となっても、大きく遅れることはない。先頭で中継しても、仮に後れをとっても、佐藤がスピードを生かせる3区に控えていることは、他校からすれば脅威以外の何ものでもない。1年目の昨季は箱根駅伝に調整が合わずに出走できなかったが、経験面ではあまり問題にはならないだろう。
さらに4区には佐藤、鈴木と並ぶ三枚看板のひとりである篠原倖太朗(3年)、5区は平地区間でも使える山川拓馬(2年)が当日変更で入る可能性がある。特に前回大会を1年生ながら区間4位の走りで往路優勝に貢献した山川は、駒大にとって大きな武器となる。
復路も6区は前回区間賞獲得で、出雲と全日本も区間上位で走った伊藤蒼唯(2年)に変更される可能性があり、7~9区は赤津勇進、赤星雄斗、花尾恭輔と実績のある4年生が並び万全。10区も当日変更がありそうだが、出雲と全日本を走った安原太陽(4年)と上尾ハーフで1時間02分15秒を出している庭瀬俊輝(3年)が補欠に控えている。
やはり強い。うまくいけば出雲、全日本同様に2区から先頭を突っ走りそうなオーダーだ。
【中央大は1区から一気呵成に、青学大の主軸2人は?】
駒大を追いかける中大、青山学院大、國學院大は、往路での「駒大独走阻止」を狙ったオーダーを目指す。
前回2位の中大は1区・溜池一太(2年)、2区・吉居大和(4年)、3区・中野翔太(4年)と2区の終盤からトップを走った前回と同じオーダーを組む。吉井、中野は前回、それぞれ区間賞を獲得しており、その実績は他チームに与えるプレッシャーとして十分。補欠には前回4区区間5位の吉居駿恭(2年)、今季1万m28分12秒17、ハーフマラソン1時間02分35秒の自己新記録を出し出雲と全日本ともに区間2位の湯浅仁(4年)がいる。4区には当日変更でどちらかが入り、もうひとりは復路の勝負区間に入りそうだ。
驚いたのは、過去2大会5区を務め前回区間3位(1時間10分36秒)の阿部陽樹(3年)を平地区間の8区にエントリーしたことだ。阿部は今季、出雲、全日本と堅実に走っており、山上りの5区で起用するのが定石だが、中大にとって8区は前回、チーム最低の区間7位で駒大にその差を1分以上に広げられ、勝負をつけられた区間。遊行寺の坂もあるきついコースで粘るための起用と推測できる。裏を返せばそれだけ現状5区にエントリーされている山﨑草太(1年)か補欠の誰かの計算が立っているという見方もできる。
6区は経験者がいないため、ひとつのカギの区間になりそうだが、7区は吉居駿恭か湯浅のスピードを生かせる。さらに全日本6区区間4位の吉中祐太(2年)も補欠に控えており、復路の平地区間での起用もある。
前回3位の青学大は出雲と全日本の快走でエースとして台頭した黒田朝日(2年)と前回4区区間2位の太田蒼生(3年)を補欠に回すエントリーだが、おそらく2区、3区に当日変更で配置されると推測。1区には全日本6区区間3位の荒巻朋熙(2年)を起用し、4年連続出場となる佐藤一世(4年)は1年時以来の4区、5区には前々回区間3位だった若林宏樹(3年)を起用しており、往路でしっかり勝負をするオーダーになる。
復路の主要区間でも8区には全日本8区区間3位の田中悠登(3年)、9区は11月に1万m28分19秒31の自己新記録を出した倉本玄太(4年)がエントリーされた。出雲4区区間賞で全日本5区区間4位の山内健登(4年)も補欠になっているが、中大と同じく6区に経験者がいないのがポイントになるだけに、山内を当日変更で7区に入れれば万が一にも備えられる。
【多彩な布陣の可能性を秘める國學院大】
前回4位の國學院大は全日本7区区間賞と存在感を増した平林清澄(3年)を2年連続の2区にエントリー、伊地知賢造(4年)と山本歩夢(3年)は補欠に登録し煙幕を張ってきた。全日本8区区間2位の伊地知は前回走った5区と予想されていたが、出雲1区、全日本3区でともに区間3位になっていた上原琉翔(2年)に"山上り"を託した。また全日本1区区間6位だった後村光星(1年)は6区に配置されており、出雲、全日本で1区をテストしたと思われていたふたりを山の特殊区間に起用してきた。
故障の影響で出雲と全日本は本領発揮とはいかなかった山本は、順当なら当日変更で過去2年連続区間5位で走っている3区が有力視される中、注目は1区に誰を起用するか。エントリーされているのは瀬尾秀介(4年)、補欠の青木瑠郁(2年)は前回区間12位だが、区間2位の駒大に23秒差と大きな差はなかった。青木は今季、初のハーフマラソンながら1時間02分02秒で走り、1万mでも自己新記録とさらに成長しており、1区でのリベンジを期している可能性はある。また、後続区間に好順位で着実につなぐことを優先するなら、日本インカレ1万mで日本人1位になった伊地知を起用し、青木を復路の勝負区間に配置することも考えられる。
往路の3区、4区では2月の丸亀ハーフで1時間01分42秒を出している補欠の高山豪起(2年)、区間終盤の上りを考えて伊地知を回すことも可能と複数の選択肢がある。いずれにせよ、1区からうまく流れれば往路は必ず上位をキープできる布陣になる。
復路のエントリーは1年生3名、2年生1名、3年生1名となっており、8区の鎌田巧馬(2年)と9区の吉田蔵之介(1年)は11月の上尾ハーフで1時間2分台の自己ベストを出している。7区は当日変更で1区と4区に配置がなければ伊地知、青木、高山とスピードのある選手が入るだろうが、全日本6区区間5位の嘉数純平(2年)も出走候補に挙げられる。
前回5位の順天堂大はエースの三浦龍司(4年)を1区にエントリーし、3区までは1万mの自己ベスト28分30秒台を持つ選手を並べた。補欠に置いている期待のルーキー、吉岡大翔(1年)を4区に入れてくれば、全力で往路への挑戦となる。
総合5位以内を目標に掲げる前回6位の早稲田大は1区に全日本1区区間2位の間瀬田純平、2区にハーフマラソン早大記録を樹立したばかりの山口智規というイキの良い2年生コンビを配置し、序盤から勝負をかける。過去2年連続で5区に出走している伊藤大志(3年)、前回2区を走ったエースの石塚陽士(3年)が補欠に置かれており、もし5区に伊藤以外で候補の目処が立っていれば、このふたりを3区、4区に置く、面白い勝負ができそうだ。