2023シーズンF1トピックス10(後編)「ベッテルを抜いて歴代3位」「驚異のルーキー現る!」角田裕毅はミス以上に、見るものをワクワクさせてくれた 3月5日にバーレーンで開幕を迎えた2023シーズンのF1は、世界各国を8カ月半かけて転戦し、…

2023シーズンF1トピックス10(後編)

「ベッテルを抜いて歴代3位」「驚異のルーキー現る!」
角田裕毅はミス以上に、見るものをワクワクさせてくれた

 3月5日にバーレーンで開幕を迎えた2023シーズンのF1は、世界各国を8カ月半かけて転戦し、11月26日のアブダビで閉幕した。

 中国GPが新型コロナウイルスの影響でキャンセルとなり、エミリア・ロマーニャGPも豪雨による中止で予定されていた史上最多24戦のカレンダーは全22戦になったものの、F1サーカスは各国でさまざまなドラマを生んだ。

 2009年からF1を現地で全戦取材するジャーナリスト・米家峰起氏に2023シーズンのトピックスを10点、ピックアップしてもらった。

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岩佐歩夢は2024年こそF1のシートを獲得できるか

 photo by BOOZY

【7】レースディレクター&スチュワードへの不満が続出!

 これは2023年に限ったことではありませんが、今年は特にFIAに対する不満の声が噴出したように感じます。

 スチュワードの裁定であったり、オーストリアGPのトラックリミット続出であったり、オーストラリアGPの赤旗や残り2周リスタートであったり......。

 レース運営を司るレースディレクターは、2021年最終戦のアブダビ事件(※)でマイケル・マシが辞任してから、その後任となったニールス・ウィティヒが2年目はひとりで担当した。

※=タイトル争いを演じるマックス・フェルスタッペンとルイス・ハミルトンが同点で迎えた最終戦アブダビGP決勝で、マシがセーフティカーをレギュレーション規定と異なるやり方で運用し、結果的にハミルトンが不利な状況となってタイトルはフェルスタッペンの手に渡った。

 もちろん、まだ不慣れな部分があったり、刻々と変化していくなかで瞬時の判断を下さなければならない難しさがあるのは理解できます。ですが問題は、チーム側との意思疎通がしっかりとできていないのではないかと感じられるという点です。

 セーフティカーや赤旗の運用にしても、イレギュラー発生時のスケジュール変更やセッション運営にしても、各チームや各ドライバーたちとの間に「こういう時はこうなる」という共通認識があり、レースディレクターがその共通認識に基づいて判断を下せば、そこには一貫性が生まれるし、多くの人が納得するはずです。逆に言えば、今はそれがないから不満の声が出る。

 多少の有利・不利が出たとしても、共通認識と一貫性があれば、その判断には納得せざるを得ないはずです。歴代レースディレクターを務めたチャーリー・ホワイティングにしても、マイケル・マシにしても、その共通認識を形成するための努力は常にしていたように思います。

 一方、ペナルティ審議などを行なうスチュワードの裁定に対する不満も多く上がったシーズンだったように思います。ただ、こちらもたしかに一貫性を欠いた裁定がいくつかあったものの、基本的にはおおむねレギュレーションと判断基準(Driving Standards Guidelines)に照らし合わせれば妥当なものが多かったと思います。

 スチュワードは、起きた事象をある意味で機械的に判断基準に当てはめて、前例に沿って裁定を下しているだけです。彼らもレギュレーションとルールの管理下にあり、その枠から外れた独断専行はできません。

 裁定に対して観る側が感覚的に「これにペナルティが出るのはおかしい!」と感じるのであれば、それはスチュワードの裁定が悪いのではなく、レギュレーションと判断基準の問題です。現在のルールが観る側の感覚とズレている、ということになります。それを観る側がレースをフェアに楽しめるように修正していく作業は、たしかに必要でしょう。

 ですが、レースは現在のルールの下で行なわれているので、ルールが好ましくないからといってルール外のことを認めることはできません。この点は、観る側もきちんと問題点を把握したうえで問題提起をすべきです。スチュワードへの的外れな批判や行きすぎた誹謗中傷にならないよう、気をつけなければならないと思います。

【8】F1人気が世界で沸騰。取材費がブーム前の3〜5倍!

 動画配信サービス『Netflix』をきっかけとしたF1人気の沸騰ぶりはとにかくすごく、その勢いは2023年も世界各地で続くどころか、さらに盛り上がりを見せていました。

 盛り上がるのはとてもよいことなのですが、レース週末に現地に赴く我々としては、ホテル代や飛行機代の高騰に頭を悩ませています。感覚的には、ブーム前の3〜5倍。人気のグランプリでは普通のホテルでさえ「1週末で20万円」なんていうところもありますし、そもそもすべて満室で宿泊施設すらないというところさえあります。

 加えて目下の円安! これでさらに2割ほど高騰です(日本人以外にとっては変わっていないのですが)。そしてアメリカなどインフレが進んでいる国では、そもそもの物価が高くなっていたりもします。

 コロナ禍が急速に落ち着いて航空便が増え、飛行機代が落ち着いてきたのはいいことですが、日系航空会社をはじめレガシーキャリアはまだまだコロナ禍の高価な航空運賃のまま。とても利用できないような金額だったりもします。

 というわけで、2023年のF1現地取材はダブルパンチ、いやトリプルパンチで費用が高騰していて大変でした......。

【9】岩佐歩夢、平川亮、宮田莉朋...日本人が次々と世界へ!

 現在F1に参戦している日本人ドライバーは角田裕毅(アルファタウリ)のみですが、FIA F2に参戦した岩佐歩夢はランキング4位に入ってスーパーライセンス取得要件を満たし、アブダビGP後のテストで自身初のF1マシンドライブを経験しました。

 その働きぶりもあり、岩佐はレッドブルジュニアチームのドライバーとしてイギリス・ミルトンキーンズに残り、2024年はF1関連の業務もこなしながらリアム・ローソンと同じようにスーパーフォーミュラに参戦しながらF1昇格のチャンスを狙います。

 F2での2年間はチーム力の面で苦労したものの、随所で光る走りを見せたり、チームの技術力を押し上げることに貢献したりと、非常に今のF1に向いているドライバーだと思います。ぜひとも彼がF1で戦う姿を見たい、と思わせてくれるドライバーのひとりです。

 一方、WEC(世界耐久選手権)王者の平川亮がマクラーレンのリザーブドライバーに就任するというニュースも飛び込み、これはファンを驚かせるだけでなく、日本で活躍するドライバーたちにも大きなインパクトを与えました。ホンダではなくトヨタでもF1という世界に飛び込めるという事実が、日本のモータースポーツ界全体にいい刺激を与え、活性化していくはずです。

 すでに2021年型マシンでテストドライブをこなしており、正式にリザーブドライバーに就任する2024年はさらなるテストやシミュレーター作業、現地帯同などプログラムも増えていくはず。そこで実力を示せば、F1への可能性はいくらでも広がります。空きシートや年齢など「やれない理由」を探すよりも、平川の飛躍を応援して、それが日本に与える影響を期待するほうがよほどワクワクします。

 そしてトヨタからは、さらに国内トップカテゴリー両制覇(スーパーフォーミュラ&スーパーGT)の宮田莉朋がFIA F2に参戦することが決まりました。こちらもF2で結果を示せばトヨタという枠を越えて世界に飛躍できるという意味で、非常に大きな期待がかかります。

 トヨタとかホンダとかいったメーカーの枠を飛び越え、無限の可能性が目の前に見えるという意味で、彼らの挑戦は非常に魅力的に映ります。

【10】2026年にF1復帰。ホンダが再び帰ってくる!

 2022年に製造者登録をして以来、裏舞台で着々と準備を進めてきたホンダが4月に2026年のF1復帰、それもアストンマーティンとタッグを組んでの参戦を発表しました。

 もちろん今も、ホンダはHRCとしてレッドブルパワートレインズにパワーユニットを供給・レースオペレーションも担当しています。よって実質的には、2021年までとほぼ違いはありません。

 ですから、個人的にはこれは「復帰」ではなく「2026年以降も参戦継続」の発表だと受け止めました。ただ、いずれにしても2026年からの新規定の下で正式に『ホンダ』としてF1に参戦してくれるのは、とてもうれしいことです。

 2021年の撤退の仕方がうんぬん......というのは、どうでもいいです。私はメンツや建前なんかよりも「実利」のほうが大切だと思います。2026年にホンダがF1にいたほうがいいか、いなくてもいいか──その答えは明確だからです。

 アストンマーティンとタッグを組んだというのも、うれしい点です。すでに王座を獲っているチームではなく、これから頂点を目指そうというチームであり、勝つための投資もいとわない。ホンダに対しても、金銭目的ではなく純粋にパフォーマンスのためにタッグをオファーしてくれた相手です。

 勝つことが最優先事項のレーシングチームという意味では、F1参戦当初のレッドブル・レーシングを彷彿とさせるチームです。彼らが数年かけてトップに駆け上がっていったのと同じように、これからトップを目指して加速していくアストンマーティンとともに、お互いにリスペクトを持ってホンダがF1に挑戦していけることにワクワクします。