2023年10月の全日本大学女子駅伝で7連覇を果たした名城大学。12月30日に開催される富士山女子駅伝では6連覇がかかるが、こちらも優勝候補筆頭と見ていい。 しかし、今季は不振のシーズンを送っていた。「ついに連覇が途切れるか」という声もさ…
2023年10月の全日本大学女子駅伝で7連覇を果たした名城大学。12月30日に開催される富士山女子駅伝では6連覇がかかるが、こちらも優勝候補筆頭と見ていい。
しかし、今季は不振のシーズンを送っていた。「ついに連覇が途切れるか」という声もささやかれたほどだった。そんな周囲の声を跳ね除けて、絶対女王は再び頂点を勝ちとり、今季の二冠目に挑もうとしている。
11月の「ナイキ メディア キャンプ」のトークセッションに登場した名城大の米田勝朗監督、谷本七星(3年)、米澤奈々香(2年)は、偉業達成の裏側にあった苦悩を明かした。
名城大はいかにして勝つことができたのか。また、新たなステージに上がろうとしている強さの秘訣とは?
名城大の谷本七星(左)と米澤奈々香(右) photo by Nike
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【学生スポーツで勝ち続ける難しさ】
男子の大学駅伝界は駒澤大が席巻。昨季は史上5校目の大学駅伝三冠(出雲駅伝・全日本大学駅伝・箱根駅伝)を成し遂げ、今季も三冠に王手をかけている。もし2年連続の三冠となれば史上初の快挙だ。
では、女子の大学駅伝界はどうか。こちらは名城大が絶対女王に君臨している。全日本大学女子駅伝で7連覇、自校が持つ連勝記録を伸ばした。
そして、12月30日の富士山女子駅伝は6連覇がかかっている。学生スポーツは毎年メンバーが入れ替わるうえに、どんなに突出したエース選手がいても4年間で卒業してしまう。
何年も連続で勝ち続けることがいかに大変なことかは想像に難くない。ちなみに、男子の箱根駅伝では中央大の6連覇が最長だ。
【もう負けたほうがいいよ...監督の言葉の意味】
「勝つのが厳しい」。今季、米田勝朗監督は覚悟したことがあった。
全日本大学女子駅伝でも富士山女子駅伝でも、過去に立命館大が5連覇を果たしているが、昨季の名城大はその連勝記録を全日本で塗り替え、富士山ではついに並んだ。
「昨年度は、新しい歴史をつくるために、絶対に勝ちたいという気持ちで12月までずっとやってきました。学生たちもきつかったと思うんです。それをやり遂げて、気持ちがふっと抜けるのは仕方なかった。私にも休ませたいという気持ちがあったので、そういう時間を設けたのですが、新年度を迎え、4月、5月、6月と、いつまで経ってもチームが変わってこない。結果的には9月の日本インカレぐらいまでチームがまとまってきませんでした」(米田監督)
今季の名城大チームについて語る米田勝朗監督 photo by Nike
もちろん選手たちが手を抜いているとは思っていない。だが、勝ち続けてきたことで、チームにあった厳しさや勝負に対するこだわりが薄れてきているように指揮官は感じていたという。
学生の枠を超えた活躍を見せていた小林成美(現・三井住友海上)や山本有真(現・積水化学)が卒業し、チームの中心となる選手がなかなか現れなかったことも、うまくチームが機能しないことの理由だった。
「今まではすばらしい先輩方がいて、いわゆるディフェンダーという立ち位置で勝たなきゃいけない駅伝でした。チーム内の厳しい選考を勝ち抜けば(本番は)エキシビションマッチというか、あとは自分の走りをするだけ、みたいな感覚でした」
こう話す谷本七星の言葉からも読みとれるように、昨季までのチームには、勝つのは当たり前という空気があった。また、絶対的エースがいる安心感も大きかった。
今季も下級生を中心に力のある選手がそろうが、昨季までとは明らかに流れが違った。
全日本の7連覇は難しいのでは......。指揮官の胸中ばかりか、世間の見方も同じだった。
「勝ち続けているがゆえに大事なことを忘れかけている」。そう思った米田監督は選手たちにこんな言葉をかけた。
「自分たちがやるべきことをちゃんとできないんだったら、もう負けたほうがいいよ」
駅伝で勝利しか知らない選手たちなのだ。指揮官の言葉にショックを受けないわけがなかった。
「メディアで『名城危機、崖っぷち』という報道をたくさん見てきたし、今まで言われたことがなかった『負けてもいいと思う』と言われて、悔しかった。チームのみんなが勝ちたいっていう思いを強く持った」
谷本がこう振り返るように、監督の言葉や世間の評判で、選手たちの目の色が変わった。
全日本大学女子駅伝で3年連続区間賞の谷本七星 photo by Nike
【大号泣の全日本7連覇】
全日本大学女子駅伝が差し迫った10月中旬になって「みんなの調子が一気に上がってきた」と米田監督は言う。
「春先にレースに出てから、ケガや体調不良があってチームに迷惑をかけていたので、不安や焦りがあった」
1区の米澤奈々香(2年)は、そんな不安をよそに、先頭と3秒差の2位と上々のスタートを切った。序盤は1区と2区連続区間賞の立命館大に先行を許すも、名城大も数秒差で食らいつく。そして、3区の石松愛朱加(2年)でついに先頭を奪う。5区では、大東大の留学生、サラ・ワンジル(1年)に迫られたが、6区でアンカーの谷本が冷静な走りを見せた。
「付き添いの子に(2位に)30秒差ぐらいと聞いていたのが、意外と近かったので不安もありました(※最後は15秒差に迫られた)。最初に坂があるのでそこまでは後ろの様子を見ようと思って、そんなに速くは入りませんでした。追いつかれても、最後は(相手は)バテるだろうから、勝てると思っていました」(谷本)
あえて序盤のペースを落として走ったが、差は5秒縮められただけ。「これならいける」と確信すると、下りに入ってからはギアを上げて後続を突き放した。そして、みごとに7連覇のフィニッシュテープを切った。
「下級生の頃とは比にならないぐらいの達成感というか、安堵感がありました」と谷本は優勝の喜びを口にする。「人前であまり涙を出さない」という米澤もこの時ばかりは大号泣。「本当にうれしかったというのが一番の感想です」と話した。
1年の時の富士山女子駅伝で区間新記録を出した米澤奈々香 photo by Nike
不振が続いたシーズンだっただけに、これまでの優勝とは意味合いも大きく違った。
「昨年度までは"負けちゃいけない駅伝"だったが、今季に関しては"負けてもいい駅伝"。苦しかった分、結果的に勝つことができたことの価値はとても大きい。チームはさらに強くなる。そういう力を持っているのを確認できました」
米田監督がこう話すように、チームは新たなステージに突入したと言えるのかもしれない。
【富士山女子駅伝で強さを証明する】
全日本大学女子駅伝は3年生以下で臨んだ大会だった。その優勝メンバーには主将の増渕祐香(4年)の名前がなかった。1年時から3年連続区間賞を獲得した主力のひとりだが、今回は補欠に回った。増渕も状態を上げてきていたが、調子がいいと判断した6人を指揮官は選んだ。
その2週間後の東日本女子駅伝で、東京チームのアンカーを任された増渕は、区間賞の走りで逆転優勝の立役者となった。その際に「全日本を走れなかった悔しさをぶつけた」というコメントを残している。
「彼女は『監督を見返してやる。そういう気持ちで走った』と言っていました。私はそれでいいと思うんですよ。とにかく学生たちが、自分で自分の心に火をつけるぐらいの気持ちがないと。監督という仕事は、そういう雰囲気をつくる、そういう気持ちにさせることが一番だと思う」
こうやって選手のやる気をうまく引き出していることも、名城大が勝ち続けている秘訣なのだろう。
全日本は6区間だが、富士山は7区間と1区間増える。つまりは、全日本を走った6人に加えて、増渕も控えており、強力な7人がそろった。また、「私たちの強みは10人目の選手が過去最強であること」と谷本が言うように、エントリーメンバーを勝ちとったその他の選手も強力だ。他校も力をつけているとはいえ、名城大に隙は見当たらない。名城大の6連覇は堅いというのが大方の見方だ。
「全日本で優勝できたことは自信になりました」と米澤が言うように、何よりも、不安が大きかった全日本とは違って、自信を持って富士山のスタートラインに立てるのは大きい。
「富士山は7人が出走するので、全日本よりも有利。全日本よりも、もっと強さを証明できるレースをしたいと思います」
谷本は力強くこう宣言した。
photo by Nike
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「ナイキ メディア キャンプ」にて photo by Nike