<箱根駅伝2024>明治大学 山本豪・駅伝監督 インタビュー 力がありながらも箱根駅伝ではなかなか噛み合わず、明治大学は3年連続でシード権を逃している。今シーズンは6月の全日本大学駅伝関東選考会で伊勢路の切符を逃すと、8月頭に山本佑樹・駅伝…

<箱根駅伝2024>
明治大学 山本豪・駅伝監督 インタビュー

 力がありながらも箱根駅伝ではなかなか噛み合わず、明治大学は3年連続でシード権を逃している。今シーズンは6月の全日本大学駅伝関東選考会で伊勢路の切符を逃すと、8月頭に山本佑樹・駅伝監督が退任。競走部の副監督を務めていた山本豪氏が、新たに駅伝監督を務めることになった。10月の箱根駅伝予選会は、直前に新型コロナ感染者が出るなどトラブルがあったが、2位と上位で通過。4年ぶりのシード権獲得を目指す指揮官に話を聞いた。



明治大の駅伝監督に就任した山本豪氏 photo by Wada Satoshi

【新たに設けた"門限フリーの日"】

ーーもともと副監督として1500mランナーを中心に指導されていましたが、8月に駅伝監督に就きました。シーズン途中の指揮官交代はなかなか異例のことでした。

山本豪(以下同) 学生が4年間を有意義なものにするには監督の存在は不可欠です。急だったので驚きはありましたけど、やるしかない。僕も腹をくくりました。

ーー選手の皆さんに動揺はなかったのでしょうか?

 表には出さなかったですよ。内心はあったと思いますけど。気丈に、というか、何事もないように練習に向き合ってくれたので、そこは安心しました。

ーーコーチ、副監督を含めて、このチームにきて20年になります。これまでは選手からは「豪(タケシ)さん」と呼ばれていましたが。

 今もそう。監督と呼ばれたことはないですね。昔からずっと名前です。

ーー明治大といえば、西弘美さん(現・スカウティングマネージャー)が監督の時から「自主性」がキーワードでした。今、駅伝監督となり、その言葉をどのように捉えていますか?

 僕は、基本的に自分からはそういう言葉を出しません。それってまだ先の話なのかなと思っていて。実際に、今まで門限を破る子もいたし、これくらいの練習はやらなきゃいけないってことができていなかった。だから、この結果だったわけで。それなのに、自主性、自主性って言っていていいのかなと思いました。

 まずはよい習慣を身につける。その次に自主性なのかなと思っています。とはいえ、細かく、ああしろ、こうしろ、とは言いません。最低限のルールを設けて、そのなかでしっかりと取り組んでほしい。

ーー新たに設けたルールはあるのでしょうか?

 2週間に1回、日曜日に門限フリーの日を設けました。練習量も増えるし、選手たちに要求することもある。でも、こちらが要求するばかりじゃフェアではないので、予選会のあとから導入しました。今までは門限があっても破る者がいたので、それだったらあらかじめフリーの日を設けて、それ以外は守りなさい、と。彼らにとっても、そのほうがスケジューリングしやすいし、絶対にいいと思いますから。

 もちろん箱根駅伝など大事なレースの前は、コンディショニングしないといけませんから例外です。それ以外の時は、帰省して家族と食事に行ってもいいし、彼女とデートに行ってもいい。

【ラストの1個手前から上げていく練習】

ーー予選会を2位で通過。その際にジョグを増やしたとおっしゃっていました。そこが課題だったのでしょうか?

 就任してすぐにそれは言いました。距離が長くなるとどうしても後半失速してしまう。そんなレースが明治は多かったと思います。僕も学生と一緒に走ったりするんですよ。その時に「どれぐらいジョグをしているの?」っていう会話をすることがあって、少ないなというのは感じていました。これまでにも個別に「もっとやったほうがいいよ」と言うこともありましたが、駅伝監督になったので全体に向けて明確に言葉にしました。

ーー予選会では、抑え気味に入る大学が多いなか、前半から果敢なレースを見せました。それでも、後半も順位を大きく落とすことなく2位通過。その成果が出たのでしょうか?

 いや、内容的には15kmから20kmがけっこう落ちているんですよ。そこは課題として残りました。予選会のあとも練習の時にはその点を重視しました。「最後はしっかりと(ペースを)上げる意識をつけていきましょう」と。全日本がなかった分、練習する期間を設けられたので、そこでもしっかり距離を意識しました。

 そのなかでも、インターバルでは最後は必ず上げる。たとえば、1000mのインターバルだったらラスト2本をしっかり上げて終えるようにしました。最後の1周を上げるだけだったら、誰でもできるので、その1個手前から上げていこう、と。

 成果が見えるのはこれからだと思いますが、上尾(シティ)ハーフ(マラソン)にしても、MARCH対抗戦にしても、調整なしで走って自己ベストを出した者が多かったですから、少しずつ力はついてきているのかな。選抜で行なった富津合宿も内容がよかったです。

 やってきた練習量を減らすという考えはないので、それが当たり前にならなきゃいけない。本当はもっとやりたいことはいっぱいあるんですけどね......。でも、今季はこの流れでいくって決めました。

ーー中距離ランナーを中心に指導されていたので、そのノウハウで、スピードに重きを置いて、そこから距離を伸ばしていくアプローチになるのかなと想像していました。

 それはたしかにありますよ。中距離といっても、僕のやり方は5000m寄りの1500mですから。中距離の選手たちも同じようにジョグを大事にしていました。20kmぐらい走れる走力がないと、1500mでも通用しないよ、っていう話もしていたので。

ーー1500mの日本記録を持つ、OBの河村一輝選手(現・トーエネック)もそういう指導だったんですか?

 そうです。前々回、箱根のメンバーに入った佐久間秀徳や、今回の馬場勇一郎(4年)も1500mで実績のある選手ですが、そういうアプローチでした。僕自身も現役の時に1500mをやっていましたが、歴代で1500mが強かった人って、みんな箱根駅伝を走っているんですよね。

 元日本記録保持者の石井隆士先生(日体大OB)もそうだし、前日本記録保持者の小林史和(現・愛媛銀行監督/拓殖大OB)も、現記録保持者の河村もそう。やっぱり5000m、1万mの走力がないと、なかなか1500mを走りきれない。中距離でも800mと1500mでは全く性質が違いますけどね。

【一人ひとりの適材適所を見極める】

ーー今回は、800mの中学記録保持者でもある馬場選手が16人に入ったのが驚きました。山本豪監督がもともと指導されていた選手ですが、下級生の頃から箱根を見据えていたのでしょうか?

 5000mもほとんど走ったことがない状況だったので未知数だったんですが、彼は取り組む姿勢がすばらしく、地道な努力ができる選手なので、チャンスはあるんじゃないかと思っていました。3年生の11月ぐらいに最後は箱根にトライしてみるのもいいんじゃないかって話をしました。彼のほうも「挑戦をしていいんですか?」みたいな反応で「やります」と。

 本格的に長距離に転向したのは今夏から。11月の世田谷(246)ハーフ(マラソン)はおっかなびっくりでしたが、その後の選抜合宿なんかはしっかり走っていました。(エントリーメンバーの)16人の16番目ではない。練習の出来は12番目ぐらいですから、文句なしの16人のメンバー入りですよ。

ーーOBの河村選手も最後の年は10区を走りました。

 河村ほどの持久力はないので、現状では出番があるとすれば6区ですね。

ーー6区には、前回好走した堀颯介選手(2年)がいます。今季は走力もアップしたので、平地区間に回すのでしょうか?

 いや。堀は下る気満々ですよ(笑)。ただ、何かあった時には、堀は平地も走れますから。

ーー今季は、前回アキレス腱のケガで欠場した児玉真輝選手(4年)も復帰しました。前回7区区間賞の杉彩文海選手(4年)もおり、下級生も力があります。現状でエースと呼べる選手は?

 突出したエースはいませんが、吉川響(2年)と児玉、杉、森下翔太(2年)あたりが同じような力ですね。彼らは、今、ほぼ完璧に練習ができています。その下に、1年生の綾一輝、大湊柊翔が続いています。

ーー昨年度までもエース候補が複数名おり、山本佑樹・前駅伝監督も2区の起用に頭を悩ませていたように見えました。

 走り方によってコースに合う、合わないもありますし、選手もコースの好き嫌いがある。エースだから2区を走るというわけじゃなくて、適材適所に応じて配置したいと思います。

 たとえば、杉だったら下り基調が得意ですし、彼の走りは上に跳ばないから向かい風の影響も大きく受けません。逆に、森下はアップダウンがあるほうがいいと言っています。そういった点を考慮したい。

ーー1年生はふたりともすでにハーフで1時間2分台をマークしています。即戦力になりそうです。

 大湊と綾はいつも一緒に練習をしていて、ライバル意識も強い。本人たちも「あいつがこれだけいけるなら、自分も」という意識のようです。彼らは練習どおりの結果を出してくれるので、僕のなかでも安心して送り出せる選手です。大湊は往路の大事なところでしっかりと走ってもらいます。綾は故障上がりなので、使うとしたら復路になりますね。

【20年のなかでもいい仕上がり】

ーーお話を伺っていると、だいたい区間構想ができているように思います。選手にはいつぐらいに伝えるのでしょうか?

 予選会が通ってすぐぐらいに、主力となる選手には「こんな感じで考えている」と伝えています。やっぱその気になって、どんどん意欲的になっていくだろうし、特に山なんかは、自分で工夫してアップダウンを走りに行ったりするので。

ーー箱根駅伝の目標はずばり。

 これが学生との共通認識で、学生が最初から8位以内と言っています。変に欲をかくことも、遠慮することもなく、そこはブラさずに狙っていきたい。

ーー現状での手応えはどうですか?

 今まで20年間見てきましたが、そのなかでも仕上がりがいいんですよ。ただ、うちばかりいいと思っていても、他もみんな強いですしいいんですよね。そこが読めませんね。

ーー3年間シード権から遠ざかっていることで、たとえば選手が後ろ向きに考えがちなどといった影響はありませんか?

 そのあたりの話は、箱根が終わったら来春に向けてしようと思っています。おっしゃるとおり、たぶん、自分たちは絶対にいけるんだっていうマインドはないと思うんです。それをつけさせるためにも、今回は頑張りたい。

【プロフィール】
山本 豪 やまもと・たけし 
1973年、静岡県生まれ。伊豆中央高から日本大に入学。日大時代には日本選手権1500m優勝。箱根駅伝にも2〜4年時に3回出場。卒業後は、エスビー食品を経て2003年に現役を引退。同年から明大コーチとなり、2018年から副監督。2023年8月に駅伝監督に就任。