3×3バスケについて熱く語る麒麟・田村裕さん 6月9日に国際オリンピック委員会の理事会がスイスで行なわれ、2020年東京オリンピックの正式種目として3人制バスケットボール「3×3バスケットボール」が追加で採用されることになりました。しか…



3×3バスケについて熱く語る麒麟・田村裕さん

 6月9日に国際オリンピック委員会の理事会がスイスで行なわれ、2020年東京オリンピックの正式種目として3人制バスケットボール「3×3バスケットボール」が追加で採用されることになりました。しかしながら、「3×3バスケってどんなルールなの?」という声もチラホラ……。そこで今回は、芸能界屈指のバスケ通として知られるお笑い芸人の麒麟・田村裕さんに「3×3バスケ」についてわかりやすく解説してもらいました。

 こんにちは、バスケ芸人の麒麟・田村裕です。僕は、最盛期には20チームほどの草バスケチームをかけ持ち、「週8」でバスケに励んだ結果、素人なのに疲労骨折したほどのバスケ好きです。

 そんな僕も、正直最初は「3×3(スリー・バイ・スリー)? 以前は3on3(スリー・オン・スリー)と呼んでいたのに、ずいぶんオシャレな呼び方になったなぁ」くらいの認識でした。しかし、そんな僕が3×3に深く関わるようになったのは、今から3年前のこと。2014年に日本バスケットボール協会が公認する3×3のトップリーグ『3x3 PREMIRE.EXE』が発足するタイミングで、チームオーナーを募集しているということを知ってからです。

「200万円の登録料を払えばチームのオーナーになれる」という話は、バスケ好きの僕には魅了的でした。しかし2014年といえば、某自伝の印税を早くも使い果たし、バスケに明け暮れ、練習後にバスケ仲間の大西ライオンと近所の安いラーメン屋で晩メシを食べるのが日課だったころです。

「興味はあるけど、200万円はムリやなぁ」と思っていると、親交のあった現役Bリーガーの岡田優介選手(京都ハンナリーズ/SG)から連絡をもらい、「一緒にオーナーをやりませんか?」と声をかけてもらったんです。岡田選手もオーナーの話を知って興味はあるものの、現役選手なのでひとりで手を挙げることにためらっていたそうです。

 そこで、リーグを運営するゼビオに「オーナーは連名でもいいのか?」と問い合わせたところ、「問題ない」とのことだったので、僕に声をかけてくれたんです。「これは渡りに船じゃないか、やってみよう!」と。ただ、金銭的な負担面、また何か問題が発生した場合は盾になってもらおうと、大西ライオンを言葉巧みに勧誘し(笑)、3人で共同オーナーになったんです。

 前説が長くなり、申し訳ありません。ではいよいよ、バスケ芸人改め「3×3芸人」田村裕が、3×3の魅力について語らせていただこうと思います。

 まずは、3×3がどんな競技かを説明するために、5人制とのルール上の違いをいくつか挙げていこうと思います。

 ご存知の方も多いかと思いますが、3×3はコートの大きさが5人制の約半分。横15m×縦11mの広さのコートを使います(5人制は横28m×縦15m)。試合時間は、5人制は10分間・4ピリオド制ですが、3×3は10分間・1ピリオド制。ただし、先に21点以上を獲った時点で勝利となる「ノックアウト」ルールがあります。

 ここまで聞くと、コートは小さく、試合時間も短いので、「3×3のほうが体力的にずいぶん楽だ」と思う方もいるかもしれませんが、それは大間違いです。たとえるなら、5人制に必要な体力はマラソン的なスタミナで、攻守の切り替えが目まぐるしい3×3は短距離走を延々と繰り返すようなスタミナが必要になるのです。

 3×3は1チームの人数も4名以内と決まっているので、ほとんどゲームに出ずっぱり。さらに、5人制はショットクロック(シュートを打つ制限時間)が24秒ですが、3×3はその半分。12秒に1度はシュートを打たなければいけないので、攻守がより目まぐるしく変わり、シャトルランを何本も何本も連続で走っているような感覚に陥ります。

 特にまた、ゴール下でのボディコンタクトも5人制より強烈と言っていいでしょう。3×3は5人制ほどファウルが吹かれません。なので、ゴール下の肉弾戦は格闘技的な要素が強く、押され負けないフィジカル能力が必須となります。

 得点に関しても、3×3と5人制とは大きく異なります。5人制では「アーク」と呼ばれるスリーポイントラインの外側からのシュートが3点、内側のシュートが2点、フリースローが1点となっています。しかし3人制では、アークの外側からのシュートが2点、内側からが1点、フリースローが1点となります。

 もちろん、3人制もバスケットボールである以上、「高さ」は大きな武器となりますが、この独自の得点ルールのおかげで高さ以上に「ロングシュート力」が重要になります。5人制ではロングシュートが3点で、通常の2点シュートの1.5倍の価値。3×3ではロングシュートが2点で、1点シュートの2倍の価値となるわけですから。必然的にロングシュートの価値が高くなり、高さをシュート力でよりカバーすることができるんです。

 ですから多少、相手チームと実力差や身長差があっても、試合開始直後にロングシュートを連続で決めて流れを掴めば、一気にゲームを押し切るということも十分可能です。5人制よりも3×3のほうがミラクルを起こしやすい種目、と言えると思います。

 さらに、コートが屋外の場合もあるというのも、5人制との違いのひとつです。

 屋外のコートは風の影響を受けるため、ロングレンジのシュートは決まりにくくなります。天候や風の変化に対して、柔軟に戦術を変化させられるバスケIQの高さが問われます。また、風向きや風の強さなど、そのコートの特徴を知っているというのは大きな武器になるので、東京五輪の際はどこが会場になるかはまだ正式決定していませんが、ホームの日本チームに有利に運ぶのではないかと思っています。

 次に、5人制と3×3のプレーの質の違いについて、触れてみようと思います。

 3×3は5人制のバスケットボールから派生した競技ではありますが、感覚としては別競技と言ってもいいのではないかという部分も多いです。

 プレーの質において大きな違いのひとつは、5人制よりも3×3では「1対1の意識がより強くなる」ということが挙げられます。5人制の場合は、カバーリングやローテーションといったチームディフェンスが重視され、選手個々というより5人で守るという意識が強く働きます。

 しかし、いかんせん仲間が3人しかいない3×3では、相手に1対1で抜かれてしまうとカバーリングがほぼ期待できず、カバーできたとしてもローテーションは間に合わず、完全なノーマークの選手ができてしまいます。ですからディフェンスでは、是が非でも自分のマークマンは自分ひとりで守ること。オフェンスでは、まずは自分のディフェンス相手を抜き去って得点を狙うということが、プレーの基本中の基本となります。

 学生時代にバスケ部だった人は、チームにひとりくらいドライブが大好きで、ゴール下に何人も敵選手がいようと突っ込んでいき、顧問やチームメイトに「止まれ! 行くな!」と叫ばれた選手がいたのではないでしょうか? 5人制では味方からも迷惑がられたそんな選手も、3人制では重宝がられます。ショットクロックが12秒しかないこともあり、セットオフェンスを1度失敗したら、残り時間はもうわずか。無茶でも何でも突っ込んでいってシュートを打つ、もしくはファウルを取ってくる選手が求められるのです。

 反対に、5人制では活躍できても、3×3ではそれほどというタイプの選手もいます。全盛期のシャキール・オニールのようにデカくて強い選手は、5人制では無敵です。しかし3人制では、マークマンがアークの外でボールを持てばスイッチする暇もないですし、ビッグマンでもアウトサイドのディフェンスをしなければいけません。

 しかし、シャックのような選手はアウトサイドのディフェンスができない。ボールマンと距離を離せば、ゴール下からのシュートの2倍も価値のあるロングシュートを打たれてしまい、かといって距離を詰めれば、一気に抜かれてしまいます。3×3でも大きくて強い選手はインサイドをゴリゴリと攻めて点を獲れるでしょうが、ロングシュートがより有効な3×3は、その武器だけで勝てる競技ではないのです。

 究極の理想を言うならば、ケビン・デュラント(ゴールデンステート・ウォリアーズ/SF)のように大きくて、ドライブもできて、ロングシュートも打てる選手がふたり、そこにインサイドでもアウトサイドでもディフェンスが得意なドレモンド・グリーン(ウォリアーズ/PF)のようなビッグマンを加えた構成のチームが最強だと思います。「昨季のNBAファイナルMVPとDPOY(最優秀守備選手賞)がいたら強いに決まってるやろ! しかもデュラントがふたりってなんやねん!」という、みなさんのツッコミが聞こえてきそうですが、クレームはお手数ですがスポルティーバさんまでお願いします(笑)。

 さて、話を競技に戻すと、「3×3は今後さらに大きく発展する可能性がある競技だ」ということも付け加えておくべきでしょう。

 現在、東京五輪の正式種目になったことで注目を集めているのは当然ですが、3×3の公式球は6号サイズの大きさで、7号の重さがあるボールです(※)。女子選手も扱いやすいボールサイズなので、卓球やバドミントンの混合ダブルスのような男女混成種目も誕生するのではないでしょうか。

※一般的に5人制のバスケットボールでは、中学生以上の男子が7号(周囲75~78cm/重量600~650g)、中学生以上の女子が6号(周囲72~74cm/重量500~540g)を使用している。

 また、今後は5人制と3人制の交流もより盛んになり、秋から春までのシーズンを5人制でプレーし、夏は3×3でプレーするという選手も増えてくると思います。

 もちろん、3×3で五輪を目指せるということ以外にも、5人制の選手が3×3でプレーするメリットはあります。僕と共同オーナーの岡田選手は3×3を経験した結果、ドライブからパスといったプレーの幅が確実に広がりました。3人制を経験することで、5人制で使える技術が向上することが多々あるのだと思います。5人制と3人制――双方が刺激しあって切磋琢磨し、お互いの競技力が向上していってほしいと願います。

 最後に、僕が思う「3×3最大の魅力」を話したいと思います。それは、「門戸がいつでも、誰にでも開いている」ということです。

 Bリーグが開幕し、B1やB2のチームを見渡すと、やはり多くは学生時代からのスター選手たちで構成されています。しかし、なにかのきっかけでバスケ部をドロップアウトしてしまった選手や、バスケットボールは大好きだけど部活でプレーした経験のない選手などが、日本全国には大勢いると思います。そんな、「バスケのプロになりたい」と思いながら一度は夢をあきめてしまった選手たちにも、3×3の門戸は常に開いているのです。

 実際、5人制でプロになれなかった選手が3人制で実績を積み、5人制のプロチームに引っ張られるというケースも起きています。

 夏達維(なつ・たつゆき)という選手は、学生時代は一度も部活に所属したことがなく、スーパーの駐車場でずっとドリブルの練習をしていたそうです。そんな彼が2013年、3×3のプロチーム「GC大阪.EXE」に加入しました。当時の夏選手を、僕も見ています。失礼極まりない話ですが、「僕と同じぐらいの実力やな」と思っていました。それが急成長をし、2014年には当時NBLの和歌山トライアンズに加入。昨シーズンはB2のサイバーダインつくば(現・茨城)ロボッツでプレーしています。

 もちろん、本人が相当な努力をしたからこそではあると思いますが、3×3から5人制のプロ選手が誕生したという事実は、一度は夢破れた多くの選手たちの背中を押したのではないかと思います。僕自身、「大人になってからも夢と情熱さえあれば、人はこんなにも短期間で上達できるんだ」と、彼から教わった気がします。

 さて、長々と語らせていただきましたが、笑いの要素がひとつもないことは芸人としてどうかと思いますし、何より3×3の魅力をすべて語り切れたとも思えません。幸いにも、『3x3 PREMIER.EXE』のシーズンは9月まで全国各地で続いています。今から3×3を観戦し、実際に体感しておくことで、東京五輪でよりいっそう新種目を楽しむことができるはずです。ぜひ、ご近所で大会があるときは会場に足を運んでいただきたく思います。

 ちなみに、『3x3 PREMIER.EXE』は観戦無料です。会場にいらした際は、僕もいることが多いので、ぜひ、あなたが思う「3×3最強の3人の組み合わせ」を教えてください(笑)。