10月22~28日、中国・杭州で行われたアジアパラ競技大会。2010年第1回大会以来の優勝を狙った車いすバスケットボール女子日本代表は、予選リーグ、決勝で地元中国に連敗を喫し、3大会連続での準優勝となった。予選リーグでは33-59、決勝では…

10月22~28日、中国・杭州で行われたアジアパラ競技大会。2010年第1回大会以来の優勝を狙った車いすバスケットボール女子日本代表は、予選リーグ、決勝で地元中国に連敗を喫し、3大会連続での準優勝となった。予選リーグでは33-59、決勝では30-61と、スコア上では中国との差は変わらなかった。しかし、決してやられたままで終わったわけではない。パリパラリンピックの予選を兼ねて行われる来年1月のアジアオセアニアチャンピオンシップス(AOC)に向けて、しっかりと収穫を得た決勝の中国戦と今大会を振り返る。


世界2位と互角に渡り合った試合前半

中国に付け入る隙がなかったわけではなかった。最大のチャンスだと思われたのは、1Qの序盤だ。地元開催というプレッシャーもあったのだろう。大勢の観客が詰めかけ、「加油!(がんばれ!)」の大声援が鳴り響く中での決勝という舞台で、中国は明らかにいつもとは違っていた。ペイントエリア内のシュートはほぼ確実に決める中国が、この日は試合開始早々、3本連続で外したのだ。

ティップオフからわずか1分半でタイムアウトを余儀なくされた中国は、やはりどこか浮き足立っているように感じられた。逆に日本にとっては試合の主導権を握る大きなチャンスと思えた。しかし日本もまた、3本連続でシュートがリングに嫌われ、2分以上もの間スコアは0-0のままだった。

結局、先取点を挙げたのは中国の方だった。すぐに日本もキャプテン北田千尋(4.5)のレイアップで試合を振り出しに戻したが、会場の雰囲気にも慣れていったのだろう。徐々に息を吹き返した中国は、次々と得点を重ねてリードを広げていった。それでも8-17と1Qを1ケタ差にとどめたことで、勝負の行方はまだわからなかった。

続く2Qは、一進一退の攻防が繰り広げられた。日本は中国にペイントエリアを破られて失点を喫するも、柳本あまね(2.5)がミドルシュート、さらにはこの試合両チームあわせて唯一の3ポイントシュートを決めると、中盤には清水千浪(3.0)、北田、網本麻里(4.5)が怒涛の3連続得点を挙げ、19-23と猛追。終盤には、アジアパラ初出場の石川優衣(1.0)が中国戦初得点をマークするなど、日本の攻撃力が光った。

両チームあわせて唯一の3ポイントシュートを決めた柳本あまね

21-31と2ケタ差となったものの、2Qだけを見れば13-14。フィールドゴール(FG)成功率は中国が33%だったのに対し、日本は50%と上回った。しかしこの10分間の攻防が、逆に中国を本気にさせたのかもしれなかった。

試合後半に浮き彫りとなったシュート決定力の差

タイムアウトが明け、3Qに入ると中国は予選リーグと同様に強度の高いマンツーマンのプレスをしいてきた。そして4Q残り3分半となるまで、レギュラー5人を一度も下げることはなかった。その結果、後半20分は中国が試合の主導権を握り、一気に流れを引き寄せた。日本の得点は3Qは6、4Qは3にとどまり、最終的にはダブルスコアに終わった。

それでもフロントコートにボールを運ぶことさえもままならなかった予選リーグとは異なり、プレスブレイクをし、しっかりとフィニッシュまでいくシーンが多く見られた。この試合、チームが講じた主な対策は2つあった。

まず1つは、予選リーグの後半でも行った、インバウンズをローポインターに託し、コート上にスピードのある選手を多く配置することで、中国のマークを外しやすい形を整えたことだ。

2つ目は、インバウンズパスを受ける選手との距離を広くとり、できるだけ短時間でフロントコートにボールを運ぶことにあった。パスの距離が短く、バックコートの低い位置でボールキープという状況では、ハーフラインやゴールとの距離が生まれ、8秒バイオレーションなどターンオーバーのリスクが高まるからだ。

その結果、予選リーグでは皆無だったプレスブレイクをして抜け出した選手が速攻からレイアップを決めるという日本が得意とする攻撃シーンも見られた。中国の強いプレスに対応する力が、日本にはある。停滞でも後退でもなく、わずかながらも前進する姿が、そこには確かにあった。

しかし、それ以上にアジャスト力を見せた中国は日本のディフェンスを攻略し、得点に結びつけていた。そして両チームに大きな差を生み出していたのは、やはりシュートの決定力だった。特に最も大事な試合後半にその差が鮮明に表れた。前半のFG成功率は中国が39%、日本が36%とほとんど変わりはなかった。だが一転、後半の20分間では違った。アテンプトは中国が26、日本が22とほぼ互角だったが、成功率は中国が50%だったのに対し、日本は18%にとどまった。

シューターとしての復活の兆しを見せ始めた萩野真世

中国が格下から格上の相手となったこの約10年間、中国の背中は手が届くところにまで近づいたかと思えば、また遠ざかる。その繰り返しでもあった。近いようで遠く、それでも決して届かない距離ではない……。そんな思いが日本の選手たちにはあるはずだ。

では、いったい縮まりきらない日中の差は、どこにあるのか。その一つは、やはりフィニッシュの決定力ということになるのだろう。来年1月のAOCまでに、その差をどこまで埋めることができるのか。これがパリへの切符をつかむ最大のポイントなることは間違いない。

その点で、全6試合を通じてのFG成功率が得点源である柳本が44%、北田が43%、最多のアテンプト(123)、得点(98)を誇った網本も2ポイントシュートにおいては45%と、しっかりと決めるべき選手が決めたことは大きい。そのほか土田真由美(4.0)がFG45%、清水が41%と、得点源が限定されていないことも日本の強みだ。

そして、萩野真世(1.5)が本来の姿を取り戻しつつあることも今大会の大きな収穫の一つだろう。萩野はローポインターではあるが、アウトサイドのシュート力はミドルやハイポインターにも匹敵する力を持つ。少ないチャンスを確実にモノにし、必ずと言っていいほど1大会で一度は2ケタ得点を叩き出してきた。

攻守で活躍をみせた、萩野真世(左から2番目)

東京パラリンピック後はチーム事情でポジションが変わり、どちらかというとほかの選手を生かす献身的なプレーが多くなっている。それでも柳本や網本、北田へのマークが徐々に厳しくなることが予想されるなか、常に先発のラインナップに入り、主力の一人である萩野の得点力は不可欠だと考えられた。しかし、今年6月の世界選手権では調子が上がり切らず、今大会でも格下相手にも低迷が続いていた。そんななか、最後の中国との決勝ではアテンプトは3とチャンスはわずかだったが、100%の確率で決めてみせた。

「貢献できるところで得点は決められたかなと思います。ただそこからパスを出したりと、もう一つ先の作り出しということも必要になると思っています。自分の得点に加えて、チームの得点も増やせるようなプレーをしていきたい」と萩野。強敵相手にしっかりとシュートを決めたことで本来の姿を取り戻し始めた萩野が、さらに巧みなプレーでチームの攻撃力を引き上げていくに違いない。

今後のカギ握る日本の3ポイントシュート力

そして、日本には中国にはない武器があることが今大会でも明確となった。3ポイントシュートだ。今大会のチームスタッツを見ると、全6試合でのFG成功率は、中国がトップで50%。日本はそれに次ぐ2位とはいえ、38%と中国とは歴然の差があった。

一方、3ポイントシュートに限っていえば、日本がトップを誇り、26%。日本にとっては決して納得のいく数字ではないが、それでも中国は18%であり、そのほか4カ国が0%だったことを踏まえれば、アジアでは断トツのトップだ。

しかも中国は日本との2試合では、3ポイントシュートは一度も打ってはいない。もちろん日本のディフェンスのラインが高いことに加えて、日本にはない高さがある中国には成功率が高い2ポイントシュートだけでダブルスコアにもっていけるだけの力があるという証でもある。ただ、3ポイントシュートが中国の強さにはなっていないこともまた事実だろう。それは、世界選手権を見ても明らかだ。

日本の3ポイントシュートも、まだ強豪国の脅威となるほどの強みにはなっているとは言い難い。それでも徐々に明るい兆しは見え始めている。今大会も47%と高確率で決めた柳本を筆頭に、北田、網本、萩野が3ポイントで得点を挙げている。さらに3ポイントを狙った選手は8人にものぼった。その点、中国は3ポイントを打ったのは2人のみ。そのうち1人はわずか1本に過ぎず、決められていない。

ちなみに前回、2018年のアジアパラでの日本の成功率は中国の54%に次ぐ50%を誇った。一方で3ポイントはアテンプト自体がわずか9とFG全体の3%に過ぎず、そのうち成功したのは1だった。今大会は成功率は26%だったが、割合は23%にアップし、28本決めている。

何ごとも一朝一夕ではできない。これまで忍耐強く蓄積来た力を開花させるときは、すぐそこまで近づいているに違いない。AOCで“その時”は訪れるのか、注目だ。