角田裕毅(F1アルファタウリ)インタビュー前編 11月26日に行なわれたF1最終戦・アブダビGP。角田裕毅に2023年シーズンを振り返ってもらった。 一時はトップを快走し、コンストラクターズ選手権7位を寸前まで手中に掴んでいたレースを終えた…

角田裕毅(F1アルファタウリ)インタビュー前編

 11月26日に行なわれたF1最終戦・アブダビGP。角田裕毅に2023年シーズンを振り返ってもらった。

 一時はトップを快走し、コンストラクターズ選手権7位を寸前まで手中に掴んでいたレースを終えたばかり。レーシングスーツ姿のままの角田は、しかし驚くほどソフトな口ぶりで、今までに見たことがないほどリラックスしていた。

 チーム一丸となって目指したランキング7位という目標達成こそならなかったものの、自分達にやれるだけのことはやりきったと言いきれる達成感と、明らかに今までとは違う次元のレースができたという自信。そしてシーズンが終わった解放感──。

 それだけ3年目の角田は重いプレッシャーのなかで、これまでとは違う戦いをしてきたのだということを、改めて感じさせた。

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角田裕毅にとって2023年はどんなシーズン?

 photo by BOOZY

── 2023年シーズンが終わりました。今はどんな気分ですか?

「まだ終わったっていう感覚がないですし、コンストラクターズランキング7位を逃したという実感もまだ薄いような気がします。それだけいいレースだったから......。

 ただよかったのは、レース中に一時6番手を走っていて『(このまま)行けるかな』と思った時に抜かれてフラストレーションが来そうだったんですけど、そこで集中力を切らさずに最後まですべてを出しきれたこと。そこで堪えられたことは、すごくよかったかなって思っています」

── 開幕戦バーレーンで会った時にすごく表情や体つきが変わったなと感じられて、実際に序盤戦はそのとおりすごく成熟したレースを見せていたと思います。しかし、中盤戦にリズムが崩れてしまったのはどんなところに原因があったのでしょうか?

「モナコ(第7戦)やスペイン(第8戦)は入賞圏を走っていましたし、ほとんどのレースで自分のパフォーマンスは出しきれていたと思います。その点に関して悔いはありませんし、そんなに低評価はしていません。

 でも、その後はライバルのマシン開発が進んだことで、自分たちのクルマのパフォーマンスが厳しくなってきて。そこがきつくて僕もオーバープッシュしてしまい、少しミスを犯す場面もありました」

── そこから挽回できたきっかけは?

「まずは、クルマがよくなってきたことが大きかったですね。あとは夏休みで完全にリセットして、すごくリチャージできたこと。自分のなかでナチュラルに前半戦を振り返ってみて『あそこでもう少し行けたかな』みたいに、改善すべきポイントを見直してみたりして。

 それ以降のレースでは改めて悔いがないように、自分のパフォーマンスを最大限に引き出すことに集中して、だから時間が短くなったような気がしました。全レース、全集中で全神経を使ったんで。今までのレースをしてきたなかで、ここまですべてを捧げたっていうことはなかったですね」

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 誤解を恐れずに言えば、2年目までの角田にはまだ、F1ドライバーとして甘い部分があった。マシンのセットアップにしても、エンジニアやメカニックたちとのチームワークにしても、メディア対応にしても、トップドライバーたちに比べればコミットの仕方が足りていなかった。

 だが、3年目の角田は違った。全レースで全神経を使い、つまり自分のすべてをレースに捧げたということだ。

 だから角田自身は常に全力を出しきり、マシンの競争力さえついてくれば結果は自ずとついてくるという状況だった。

 アルファタウリは昨年の「回数は少なくても大きなアップデートを投入する」という開発戦略の失敗を教訓に、2023年は「連続的な開発」という戦略で、毎戦のようにアップデートを投入した。

 なかでも、フロアは第3戦オーストラリアの方向性修正のあと、第7戦モナコ、第11戦イギリス、第16戦シンガポール、第19戦アメリカGPと、4回に分けて大型アップデートを投入。マシン特性の改善とダウンフォース増大に取り組んできた。

 特に大きな効果が出始めたのは「シーズン後半戦に入ってから」だと角田は回想する。

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── クルマのパフォーマンスが向上したのは何戦目からでしょうか?

「シンガポールGP(第16戦)のアップデートがちょっとしたきっかけになったかなと思います。そこからチームも勢いづいて、それ以降のアップグレードはひとつひとつの効果が前半戦のアップグレードよりも増していました。

 もちろん、自分もステップアップできていると思いますけど、クルマもかなりよくなりましたし、そこが一番大きいと思います。チームの開発が後半戦に一気に伸びたので、そこがパフォーマンスにつながったことが大きかったと思います」

── 具体的には、マシンのどこがどう変わったのが大きかったですか?

「グリップですね。特にコーナー進入時のリアのグリップが増して、リアのサポートが強くなったというのがすごく大きかったです」

── そのマシン特性というのは、もともとオーバーステア傾向を好む角田選手のドライビングスタイルや好みに合っているわけではない? それとも、その好みの方向に合ってきた?

「もともとの好みに合っているわけではないんですけど、この2年間でそっちに慣れてきたんで、今となっては逆に『自分の好みに合ってはいるな』と思います。今のクルマのキャラクターに合わせて、うまく走れていると思います」

── 自分ではどのようなドライビングスタイルだと捉えていますか?

「僕は基本的に、コーナーの入口でマシンの向きを変えて、一気に加速していくタイプの走り方。コーナリング中にずっと回頭させるような走り方ではないんです。

 そこが普通のドライバーと違うところだと思いますが、今までドライブしてきたマシンはどれもそのドライビングスタイルに合ってはいない(が速さは出せている)。なので、それ自体が問題というよりも、少し幅広いドライビングスタイルで走っているということですね。

 そうすることで、どんなマシンでも適応できるテクニックが身につきますし、そこはさらに磨いていきたいと思っています。来年はアルファタウリのマシン特性も大きく変わるかもしれませんし、僕自身はカート時代からスタイルを変えずにずっとやって来て、どんなクルマでも(ドライビングの)ファインチューニングで乗りこなしてきているので」

── そういう意味では、来季型マシンのフロアコンセプトを前倒し投入したアブダビGPの好走は意義深い、とも言えますね。

「アブダビGPで投入したアップグレードは少し自分の好みの方向性ではなかったんです。だけど、レース週末を通して自分好みのセットアップに持っていけたので、アップグレードの効果を発揮させながら自分の方向に持っていけたのはよかったなと思います。

 今回は(来年型マシンを見据えた)試験的な投入でもあったので、そこでこういうアジャストができたことやチームに対して(自分の望む方向性を)しっかりとフィードバックができたこともよかったなと思います」

(後編につづく)

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【profile】
角田裕毅(つのだ・ゆうき)
2000年5月11日生まれ、神奈川県相模原市出身。父の影響で4歳よりカートを乗りはじめ、16歳でフォーミュラデビュー。2018年にFIA F4選手権で年間王者に輝き、同年レッドブル・ジュニアチームに加入する。2019年からFIA F3への参戦でヨーロッパ進出を果たし、2020年にF1直下カテゴリーのFIA F2でシリーズ3位を獲得。2021年からF1アルファタウリのレギュラードライバーとなり、2023年はシリーズ14位。身長159cm、体重54kg。