駒澤大学は今年の出雲駅伝、全日本大学駅伝を制し、昨年度に引き続き大学駅伝3冠に王手をかける。今季の駒澤大を表わす言葉でよく使われるのは「圧倒的」。今年初めの箱根駅伝4区から全日本大学駅伝最終区の8区まで21区間連続で首位をゆずらず、今年度…

 駒澤大学は今年の出雲駅伝、全日本大学駅伝を制し、昨年度に引き続き大学駅伝3冠に王手をかける。今季の駒澤大を表わす言葉でよく使われるのは「圧倒的」。今年初めの箱根駅伝4区から全日本大学駅伝最終区の8区まで21区間連続で首位をゆずらず、今年度出走した全員が区間3位以内の快走を見せた。ただ箱根はまた別ものだ。非の打ちどころがないように見える駒澤大にも、はたして課題や不安要素はあるのだろうか。駒大スポーツ新聞編集部(コマスポ)の中西真雪記者(前編集長/文学部3年)が、独自取材を交えて分析する。



全日本大学駅伝の閉会式。駒澤大は圧巻の4連覇を果たした 撮影/大塩希美(コマスポ)

【けが人を出さずに"貯めを戻す"】

 何より怖いのは「体調不良」や「けが」だ。

 昨年度の箱根駅伝は、花尾恭輔(現4年)や佐藤圭汰(現2年)が直前の体調不良によって、出走を逃した。大エースの田澤廉(当時4年・現トヨタ自動車)は出走したものの、12月上旬に新型コロナウイルスに感染した影響を受け、本来の力を出しきることができなかった。

 藤田敦史監督は箱根駅伝までのキーポイントとして11月の終わりから12月1週目にかけて行なわれた白子合宿での練習を挙げている。箱根前最後の合宿。ここから出走メンバーが決まることが多い。

 白子合宿は夏に行なわれる合宿とは少し違う位置づけだ。藤田監督は話す。

「夏合宿をやってきたなかで、ある程度、走り込みの貯金がある。しかし、それを出雲、全日本で使い果たしている。『貯めを戻す』と我々は言うが、もう一回スタミナを取り戻すことをする。とは言っても夏合宿ほど暑くないため、スピードも少し磨きながら走り込みもしてという合宿になる。いかにけがをせずにちゃんとスタミナを戻す練習ができるかどうかがひとつのポイントになる。けが人を出さないで練習を積むことが重要」

 この短い話のなかで2度も「けがをしない」という言葉を用いた。それだけ怖いことなのだろう。

 走るべき選手が走れなくなると、優勝からは遠ざかってしまう。

 選手側も同じ気持ちだ。

 コマスポでは、毎年12月中旬に陸上部を大きく取り上げる「箱根号」を発行する。そのため11〜12月にかけてさまざまな選手に取材を行なう。そこで、「今後箱根に向けてどのように過ごしますか」という質問に多くの選手が「まずはけがをしない」と答えるのだ。


コマスポ・陸上担当記者の中西真雪さん 撮影/北川直樹

【求められる

「中間層」の活躍】

 次に「中間層の充実」が課題として挙げられる。

「今年度のチーム目標として2年連続3冠を掲げるなかで、篠原(倖太朗/3年)や(鈴木)芽吹さん(4年)、(佐藤)圭汰(2年)などのエース級の選手を除いた時に、自分たちその他の選手の弱さというのが出た。本当は勝たなくてはいけないレースだったのに不甲斐ない結果になった」

 これは11月19日に開催された上尾シティハーフマラソンで8位入賞、チーム2番手に入った庭瀬俊輝(3年)がレース後に語ったコメントだ。タイムとしては自己ベスト。それでも他大学のエース級の選手に勝ちきれず、自分を含めた中間層の弱さを省みた。



駒大を支える3人のエース 撮影/梅川岳飛(コマスポ)

 駒澤大には鈴木、篠原、佐藤の3人のエースがいる。3人の力を強固なものにしたのは、11月25日に行なわれた八王子ロングディスタンス10000mだ。

 最もいい記録だったのは佐藤。高校時代からこれまで1500〜5000mの比較的短い距離を主戦場にしてきた佐藤にとって、初めての10000mだった。私は、「長い距離への対応力はどうなのだろうか」という視点で中継を見ていたのだが、対応力どころの話ではなかった。佐藤は27分28秒50でU20のアジア記録を更新し、日本学生歴代2位のタイム。末恐ろしい。

 佐藤はレース後も余裕の表情で「最初からペースメーカーについて行き、終始余裕を持ってレースを進める。ラスト2000mからペースをあげるプランだった。プランどおりに走れた。タイムも目標の27分35秒より速いタイムを出すことができてよかった」と振り返った。

 鈴木は27分30秒69、篠原も27分38秒66と自己ベストを更新。本人たちは悔しさをのぞかせたが、学生であれば28分を切ること自体、なかなか難しいとされるなかで圧倒的な強さだった。

 ただ3人の力だけでは箱根は勝つことはできない。20km以上を走れる選手を10人そろえなくてはならないのだ。

 エースを支える駅伝巧者も駒澤大には多く存在する。パッと名前が挙がるのは、4年生の赤星雄斗、花尾恭輔、安原太陽。2年生の伊藤蒼唯、山川拓馬あたりだろうか。

 今のチームはとくに4年生が強い。11人中9人が三大駅伝の出走経験を持つ。対して3年生は1人、2年生は3人、1年生は0人と、まだまだ経験値に欠ける部分がある。

 12月11日に発表されたチームエントリーでは16人中7人が4年生とチーム最多。一方で1年生は1人と他大学に比べても少なかった。

 来年度以降を考えると、最近調子を上げている庭瀬や小山翔也(1年)ら中間層を担っている新しい戦力の活躍も求められる。

 このような選手たちが他大学のエース級の選手たちと渡り合う勝負ができたら、駒澤大は優勝にぐっと近づくのだ。

【監督が初めて口にした「3冠」】

 ここまで挙げたポイントは、駒澤大だけでなくどこの大学にも当てはまること。このポイントを完璧に攻略したものが箱根での優勝を勝ちとるだろう。

 上尾ハーフのレース終了後、藤田監督には多くの報道陣が集まり合同取材のような形になった。その後、コマスポは独自に取材を行ない「箱根に向けて」という質問を投げかけたのだが、その時の藤田監督の表情が印象的だった。

 指揮官としての重圧を感じながらも、史上初の2年連続3冠に挑戦できることへの希望や闘争心が詰まった表情。

 今年度の初め、主将の鈴木から「2年連続3冠を目標にしてやりたい」と言われた時、藤田監督は部員にプレッシャーがかかることを危惧して「ひとつずつ。昨年度のチームに対する挑戦だぞ」と常に伝えてきた。

 ここまで2冠を達成し、残すは箱根のみ。

「これからはあえて口に出して『3冠』と言っていきたい」。初めて藤田監督の口から「3冠」という言葉を聞くことができた。

「ここまで来たらあとひとつだけなので、そこを全力でとりにいかなければいけないのが、今の駒澤大かなと。挑戦できるのも駒澤大しかない。このようなすばらしいことはない。結果はどうなるかわからないが、チャレンジすることが、今後、非常に大きな財産になっていくと思う。そこに関しては全力でとりに行きたい」

 すべての結果は1月3日、大手町のフィニッシュ地点で決まる。