竹俣 紅連載:『紅色の左馬』第9回スポルティーバとフジテレビの競馬中継番組『みんなのKEIBA』とのコラボ企画、竹俣紅アナウンサーの連載『紅色の左馬』。今回は、一段と競馬の研究が進んでいる竹俣アナに、難解な2歳GI、朝日杯フューチュリティS…



竹俣 紅連載:『紅色の左馬』第9回

スポルティーバとフジテレビの競馬中継番組『みんなのKEIBA』とのコラボ企画、竹俣紅アナウンサーの連載『紅色の左馬』。今回は、一段と競馬の研究が進んでいる竹俣アナに、難解な2歳GI、朝日杯フューチュリティSの注目馬について話を聞いた――。



 12月に入って、だいぶ寒くなってきましたね。

 日が落ちる夕方、私はニュース番組の『イット!』でガチャピンと天気中継を担当しているのですが、海風の強いお台場では、北風がさらに強くなっているのを肌で感じます。

 とりわけ風が強かったある日、風が吹いてくる方向に本番直前までガチャピンが立ってくれて、私に風が当たらないようにしてくれました。

 私はその時、「本当にありがとう、ガチャピン!」と感謝すると同時に、「ラッキーライラックに騎乗した(クリストフ・)スミヨン騎手の作戦はこれだったのか!?」と思いました。

 何の話かというと、2019年のGIエリザベス女王杯での話です。私は先日のエリザベス女王杯で予想をするために、過去のレース映像を見たり、あれこれと資料を調べたりしていたところ、ふと『勝ったラッキーライラックは空気抵抗ゼロ』という記事に目がとまりました。

 『空気抵抗ゼロ』というのは、どういうことなのか?

 不思議に思いながら記事を読み進めていくと、スミヨン騎手騎乗のラッキーライラックは道中、クロノジェネシスの後ろを走ることで向かい風を避けていた、とか。気になって気象庁のデータを検索してみると、レース当日のこの時間は北北西の風で、この風自体はスタンドでブロックされる風向き。となると、走っている時に前から吹いてくる風さえ受けなければ、"空気抵抗ゼロ"で走れるということになります。

 そこで、改めてその時のレース映像を見直してみると、確かにクロノジェネシスは前から風を受ける位置にずっといるのに対して、ラッキーライラックはその後ろにピタリ。天気中継の本番直前のお台場に置き換えれば、クロノジェネシスがガチャピン、ラッキーライラックが私、ということになります。

 強風にあおられていた私は、ガチャピンが風を防いでくれることでたちまち楽に立っていられるようになったのですから、馬にとっても、そういった状態のほうがずっと走りやすかったに違いありません。

 最近、『みんなのKEIBA』での予想に展開予想を取り入れ、それぞれの馬の位置取りの意味を考えるようになっているのですが、風を考えたポジション取りもかなり大事なんだなと、日常のひょんな出来事から身をもって感じることができたのでした。

 風向きまで予想に取り入れることはできていませんが、過去のレース展開を詳しく分析したおかげか、エリザベス女王杯ではおおよそ私が考えていたとおりの展開となって、本命に予想したブレイディヴェーグが見事な勝利を飾ってくれました。

 ブレイディヴェーグについては、スタートの出遅れ癖が不安視されていたのですが、デビューからの映像をすべて見返して、レースを重ねるごとにそれを克服しようという意識と成長が感じられました。

 さらに、過去の映像からは、彼女はスタートが悪くても二歩目が速い馬、ということを知ることができました。おかげで、これまでだったら「スタートが懸念」として軽視していたかもしれない馬を本命にすることができ、少しは日々の研究の成果が出せたのかなと思っています。



 さて、今週は2歳GI、朝日杯フューチュリティSが行なわれます。夏以降、できるだけ2歳戦もチェックしてきたので、朝日杯FSの出走馬には知っている馬も多く、とても楽しみなレースです。

 なかでも、私の印象に残っているのは、GIII新潟2歳Sでのエンヤラヴフェイスです。

 このレースが行なわれたのは、私がちょうどラップタイムについて勉強し始めた頃でした。ですから、新潟2歳Sの前には、エンヤラヴフェイスが勝った中京での新馬戦のラップタイムも調べていました。

 その時に気づいたのは、2年前に同じく中京で新馬戦を勝ったセリフォスのラップタイムに似ている、ということ。セリフォスと言えば、デビュー3連勝を飾って、朝日杯FS(2021年)でも2着と好走し、3歳秋にはマイルCSを制したGI馬です。

 きっとこの馬もGⅠ級の強さを持っているに違いない! そう考えた私は、エンヤラヴフェイスを本命に予想。井崎脩五郎先生もこの馬を本命にされていたので、これは期待できる! と思いながら、レースの時を待っていました。

 ところが、パドックを周回するエンヤラヴフェイスを見た瞬間、井崎先生がポツリとひと言。「子どもだな」とおっしゃったんです。

 結果は、7着。井崎先生がおっしゃっていたとおり、エンヤラヴフェイスはまだまだ気性が幼く、パドックでは落ちつきがなく、レースでも他の馬たちに囲まれて走る気をなくしてしまったようです。

 やはり2歳戦では、どれだけメンタルが大人になっているかが重要なんだと思い知らされたレースでした。

 ちなみに、新潟2歳Sのあと、エンヤラヴフェイスはGIIデイリー杯2歳Sで2着に。能力が高いことを証明してくれました。朝日杯FSでは、メンタルがどれくらい大人になっているのか楽しみです。

 そういった教訓から、朝日杯FSの予想のポイントは、第一に"メンタル"。そしてもうひとつ、"逃げ馬"にも注目したいと思っています。

 というのも、2歳戦では他馬の影響を受けにくい逃げ馬が気分よく走って、勝ち負けを演じるシーンをよく見ます。先述の新潟2歳Sでも、人気薄のショウナンマヌエラが2着に粘りました。

 後方から来る馬のメンタルがまだ子どもだったら、差し届かない――そんな前残りの展開が、朝日杯FSでも十分に考えられるかなと思います。

 出走予定馬を見渡してみると、まず注目すべきはシュトラウスでしょうか。モーリス産駒で、お母さんのブルーメンブラットもマイルCS優勝馬。血統から考えればマイル適性は高そうですし、実績を見ても実力上位だと思います。

 ですが、前走のGII東京スポーツ杯2歳Sを勝ったあと、鞍上のジョアン・モレイラ騎手が「ハミを噛んで行きたがる」とコメント。メンタル的には成長の必要がありそうです。

 また、デイリー杯2歳Sをほぼ持ったままで勝ちきってしまったジャンタルマンタルも、能力は高いとは思いますが、少し気になる点があります。それは、鞍上がデビューからコンビを組んできた鮫島克駿騎手から川田将雅騎手へと乗り替わること。2歳馬は「まだ子ども」と聞いてしまうと、単純にパートナーが変わってしまうことの影響を心配してしまいます。折り合い面の心配がなければ、かなり期待できると思います。

 これまでの学びから要チェックの"逃げ馬"は、まずはセットアップ。新馬戦こそレガレイラに差されましたが、GIII札幌2歳Sでは後続に4馬身差をつけて鮮やかに逃げきり勝ち。

 ただ、逃げる競馬しか経験していない馬に、控える競馬を覚えさせるというレースをしばしば見ますから、それが今回という可能性もあるかなと思います。

 そうなると、逃げそうなコンビとしては、坂井瑠星騎手×オーサムストロークでしょうか。逃げを経験している馬ですし、逃げが得意なイメージのある騎手です。

 それから、エコロヴァルツも前に行きそうですよね。前走はオープンクラスで6馬身差の勝利。この馬も注目です。

 最後にもう1頭、注目の2歳馬として挙げておきたい馬がいます。朝日杯FSではなく、GIホープフルSに出走予定のシンエンペラーです。

 GIII京都2歳Sでこの馬を見た時は衝撃的でした。栗毛で鼻と脚が白く、"金色の逃げ馬"ジャックドールみたいで「可愛いな」と見惚れていたら、走っても強い!

 しかも、2020年の凱旋門賞馬ソットサスの全弟という世界的良血馬。夢は大きく膨らみます。東京・芝1800mの新馬戦を振り返ると、ラスト3ハロンで徐々に加速するラップタイムを刻んでおり、キレる脚を持っているようなので、「本当に凱旋門賞向きなのかな?」と思ったりもしますが、この血統なら「凱旋門賞を勝てるのではないか!」と期待してしまいます。

 いずれにしても、この馬が凱旋門賞に挑戦することで、凱旋門賞を勝つには何より血統がモノを言うのか。あるいは、日本で調教された馬はやはり日本の馬場に合うように育つのか。これまで日本馬が凱旋門賞で勝てなかったことに対して、この馬がひとつ答えを出してくれそうな気がしています。

 それゆえ、シンエンペラーにはぜひとも無事に成長して、凱旋門賞に臨んでほしい。だいぶ気が早い話ですが、私はこの馬にそんな夢を乗せています。


Profile
竹俣 紅(たけまた・べに)
1998年6月27日生まれ。東京都出身。2021年フジテレビ入社。
趣味:おいしいおそば屋さん巡り

 ウォーキング ガチャピン
モットー:元気に、地道に、前向きに

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