【何かやってのけそうな予感】 12月9日、北京。グランプリ(GP)シリーズを勝ち抜いた6選手だけが出場を許されるGPファイナルで、18歳が羽ばたいた。坂本花織、ルナ・ヘンドリックス(ベルギー)という歴々の選手たちに続き、3位で表彰台に上がっ…

【何かやってのけそうな予感】

 12月9日、北京。グランプリ(GP)シリーズを勝ち抜いた6選手だけが出場を許されるGPファイナルで、18歳が羽ばたいた。坂本花織、ルナ・ヘンドリックス(ベルギー)という歴々の選手たちに続き、3位で表彰台に上がった。



GPファイナルで総合3位に入った吉田陽菜 photo by Kyodo News

「驚きのほうが大きくて、まだあまり実感はないですけど、大きな一歩を踏み出せました。少し成長できたのかなと思うので。今に満足せず、もっともっと上を目指していきたいです」

 彼女はそう言って、小さく笑った。

 吉田陽菜(よしだ・はな/18歳/木下アカデミー)はシニア1年目だが、ルーキー特有の"何かやってのけそうな予感"を漂わせていた。

「シニアのトップの選手たちと一緒に練習することができて、刺激になっています。自分も今シーズンからシニア挑戦なので、あらためて頑張りたいなと思いました」

 シーズン開幕前、7月の全日本強化合宿で、吉田はそう言ってチャレンジを誓っていた。

「ショート(プログラム)の『Koo Koo Fun』は、『とにかく楽しんで』と言われているので、振付けを自分のものにして、観客の皆さんに楽しんでもらえるようにしたいです。まだまだ振付けを考えながらやっているので、早く体に染み込ませられるように」

 独特な曲調だった。そのなかでも、大技トリプルアクセルを準備。大いなる挑戦だったが、ひるんでいなかった。

 もっとも、GPファイナルのSPは苦戦を強いられている。冒頭のトリプルアクセルで転倒、ふたつ目の3回転ルッツ+3回転トーループも転倒した。思うようにはいかなかったが、3回転ループは成功し、スピン、ステップはオールレベル4。60.65点で、どうにか4位で踏みとどまった。

「ジャンプはすごく悔しい結果になってしまいました。でも、挑戦したことには意味があるので、フリーは納得できる演技がしたいです」

 その前向きなエネルギーが、彼女の持ち味と言えるだろう。

【ジャンプを次々に成功】

 フリースケーティングでは、『Shakuhachi/La Terre vue du ciel』で一羽の鶴になりきった。左手の赤い手袋、右手の黒い手袋、白を基調に黒で濃淡をつけたドレス、胸元や背中にゴールドのストーンが輝く。鶴をモチーフにした衣装をまとった彼女が長い腕を振り回し、小さな顔をかしげ、エッジを細かく変えた。真っ白な雪原で、鶴が甲高く迫力のある声で鳴く姿と重なった。

「鶴がテーマのプログラムなので、(振付師のローリー・)ニコルさんと動画を見て、このイメージかなって一個一個、振付けしてきました。自然のなかで飛んでいる鶴、歩いている鶴、いろいろ研究しながら。曲を通して、鶴のポーズがたくさん入っているんですが、そのポーズが少しでも鶴に見えるように。とくにステップで曲調が変わって盛り上がるところは重点的に。(ジュニアまでは)ジャンプで戦ってきましたけど、少しでもスケーティングで戦えるようにと思っています。それで前に進めるかなって」

 彼女はそう語っていたが、演技への探究心こそ、武器であるジャンプにも力を与えることになったのかもしれない。

 冒頭のトリプルアクセル、回転不足はとられたが、フリーではみごとに着氷した。ひとつの歴史をつくると、そこからは破竹の勢いがあった。ダブルアクセル+3回転トーループ、3回転ループを着氷。静寂さのなかで、じわりと熱を帯びるような演技だった。3回転フリップ、3回転ルッツ+3回転トーループ、3回転ルッツ、そして3回転サルコウ+ダブルアクセル+2回転トーループと次々に成功した。

 142.51点をたたき出し、フリーは2位。総合で203.16点、3位に輝いた。

【「逆転の吉田」の伏線】

 逆転の伏線はあった。

 今年8月、シーズン前哨戦となる「げんさんサマーカップ」でも、吉田はSPこそ6位と苦戦していたが、フリーはトリプルアクセルで巻き返しを見せ、1位に躍り出た。その結果、逆転優勝を飾っていた。あくまで調整段階とはいえ、世界女王の坂本を抑えての勲章だった。

 そして今シーズンは、「逆転の吉田」が定番になっていた。チャレンジャーシリーズ・ロンバルディア杯もSPからフリーで順位アップ。GPシリーズ・スケートアメリカは9位から3位で総合4位だった。続くGPシリーズ・中国杯は、3位から1位で総合は優勝。そして出場権を得たGPファイナルでも、挽回する強さを見せたのである。

 吉田は失敗してもへこたれず、トリプルアクセルを自分のものにしている。降り方を改善し、ジャンプの高さを出し、強く成功のイメージを持ち、自分だけの形をつくってきた。体幹の弱さを補うため、鍛錬も重ねてきたという。

「自分は挑戦する立場」

 彼女はそう言っていたが、それは謙虚という弱気ではなく、意欲的で果敢なスケーティングだった。反転攻勢の精神が観客を引きつけ、大技の成功にも結びついた。スケートの神様に祝福されたというのか。

 その結実のひとつが、GPファイナルだった。次の舞台は、12月20日に長野で開幕する全日本選手権だ。鶴の声は氷上に響き渡るか。