【日本ではなく香港を選んだ理由】 12月10日、今年の国際競走シーンのフィナーレを飾る香港国際競走が中国香港特別行政区の沙田競馬場で開催される。 香港ヴァーズ(沙田・芝2400m)、香港スプリント(沙田・芝1200m)、香港マイル(沙田・芝…

【日本ではなく香港を選んだ理由】

 12月10日、今年の国際競走シーンのフィナーレを飾る香港国際競走が中国香港特別行政区の沙田競馬場で開催される。

 香港ヴァーズ(沙田・芝2400m)、香港スプリント(沙田・芝1200m)、香港マイル(沙田・芝1600m)、香港カップ(沙田・2000m)が行なわれるこの開催は年末の風物詩となっており、地元の香港調教馬はもちろん、世界各地からここを年内の最後の目標とする陣営も多い。日本のジャパンCよりも香港国際競走に出走する外国調教馬が増えていることから、「外国陣営は香港国際競走のほうを好む」と言われるようにもなってきた。



香港ヴァーズで人気を集めそうなウォームハートなど、多くの外国馬が香港国際競走に出走する

 香港国際競走は12月2週目の開催で、どの地区のビッグレースからも駒を進めやすい日程であり、同日に4距離カテゴリーでのGI開催、入国から競馬場への直接入厩(昨年から東京競馬場でも可能になった)といった理由も挙がっている。また、「日本調教馬が強くなりすぎて、ジャパンCは適性面も含め、勝負できる可能性が少ない」という声も。とりわけ今年に関しては、イクイノックスの存在が大きすぎた、ともされている。

 では、実際のところはどうなのか。

 ジャパンCの週に、招待に関わったJRAの職員に話を聞くと、「『イクイノックスがいなければ行きたい』という声は実際にありました。それも1陣営だけではなく、たくさんあったんですよ」と答える。

 また、ジャパンCで外国招待馬が猛威を奮っていた時はオセアニアからの遠征馬の存在感も大きかったが、近年では2017年にオーストラリアのコーフィールドC(コーフィールド・芝2400m)を勝ったブームタイムが来日した程度にとどまっている。

「オーストラリアの中長距離馬も、(10月後半に行なわれるコーフィールドCではなく)11月第1火曜日のメルボルンC(フレミントン・芝3200m)を目標にしてしまうし、昔ほど余力が残らなくなっている事情はあります」

 そう話すのは、昨年のコーフィールドCを勝ったダーストンの関係者だ。

「僕は日本の競馬も大好きなので、昨年はチャンスがあれば遠征したいとは考えていましたが、ダーストンはコーフィールドCのあとに故障してしまいました。ただ、今年も同じ立場だったとしても、初めからイクイノックスがいるとわかっていたら躊躇したと思いますし、香港を選んだかもしれません。それは『香港のほうが優れている』というわけではなく、『チャンスがありそうなレースを選ぶ』ということです」

 さらに、今回の香港国際競走に管理馬を4頭送り込んだエイダン・オブライエン調教師にも話を聞くことができた。オブライエン調教師は、ジャパンCにもコンティニュアス(牡3歳)を出走させる予定だったが、残念ながら故障により実現しなかった。香港にはヴァーズにウォームハート(牝3歳)、カップにルクセンブルク(牡4歳)と、どちらもイギリス・アイルランドでGⅠを制している一線級の馬を出走させる。このあたりの馬も、ジャパンCに来てもらいたいレベルの馬だ。

「レース選択においては、常にどの馬も、さまざまな選択肢と可能性を持たせることを心掛けています。今年のジャパンCにも、オーギュストロダン(牡3歳)や、ルクセンブルクも予備登録をしました。他に登録した馬も含め、これまでの競走成績や血統背景から考えて、ジャパンCという選択肢を残しておきたかったのです。

 オーギュストロダンはブリーダーズCで引退というプランになりつつありましたし、ルクセンブルクはイクイノックスを相手にしては距離面で不向きだと思い、最終的にはコンティニュアスならイクイノックスと対戦するに相応しいと考えました。イクイノックスが強いのは承知していましたし、どの国でも強い日本の馬が、ホームコースだとより手ごわいのはわかっています。それでも、私たちもいつかはその舞台で勝ちたいと思っています。来年以降も『いける』と思った馬は挑戦させるつもりです」

 今回、オブライエン勢は4頭で香港に乗り込んだが、仮に香港やブリーダーズC、ドバイなどのように、JRAもジャパンCと同日に他の距離カテゴリーでGIレースを行なうことになった場合、出走を後押しする理由になるだろうか。そう尋ねると、「それはチャーミングだ」と笑顔で答えた。

「力のある馬のグループで遠征できるのは、調教のメニューもアレンジしやすいですし、スタッフも助け合えるので、それだけでメリットはとても大きいです。でも、勝ちたいレースであれば、行かない理由にはしません」

 故障によってコンティニュアスの来日は叶わなかったが、それでもJRAの対応には感謝の意を示す。

「今年のジャパンCは、JRAの配慮で帯同馬もつけさせてもらえることになっていました。そこまでしてもらえるなら、"カーニバル開催"は絶対に必要なものではありません」

 これを聞いて思い出したのは、今年のジャパンCに出走したイレジン(せん6歳)のジャンピエール・ゴーヴァン調教師が、レースの数日前に発していた言葉だ。

「香港からも勧誘を受けていましたが、JRAのフランス駐在の方が昨年から熱心に声をかけてくれていたので、それに応えようと思いました」

 長くコミュニケーションを取り続ければ、信頼関係を構築することができる。ヨーロッパやオセアニアは社交の色がより強いだけに、招待のカギを握るのは、条件だけでなく気軽に前向きに話し合える関係性なのかもしれない。

【馬券発売の4レースを予想】

 香港では日本調教馬も毎年のように好成績を残しており、今年も4つのGI競走に日本調教馬が出走する。迎え撃つ香港勢も、ヴァーズ以外の3競走で各距離カテゴリーのエースが出走。2023年の国際競走のフィナーレとして相応しい戦いが繰り広げられそうだ。

 ただ、今年に関しては、大方の予想に反して波乱の連続になるのではないかと筆者は見ている。となれば、日本で発売される馬券でも好配当をきっちりと取りたい。各レースでの押さえどころ、波乱のカギとなる馬を見ていこう。

◆香港ヴァーズ(芝2400m)

 香港でこの距離のレースが行なわれるのは年に3回のため、地元の馬はやや劣勢になりやすい。加えて、今年はこのカテゴリーのエースであるロシアンエンペラー(せん6歳)が回避した。

 国外ブックメーカーのオッズでは、日本のレーベンスティール(牡3歳)とアイルランドのウォームハートが人気を分け合い、差なく日本のゼッフィーロ(牡4歳)が続く三つ巴の様相だ。日本オッズでは、これにジェラルディーナ(牝5歳)も加わるだろう。

 2400mという長い距離ながら、このレースでは少頭数であっても内枠がかなり強い。人気が高いウォームハートは、芝質が似ているアメリカのサンタアニタパークでのGⅠブリーダーズCフィリー&メアターフ(サンタアニタパーク・芝2000m)で2着と好走。また、このレースと好相性のフランスでもGⅠヴェルメイユ賞(パリロンシャン・芝2400m)を勝利しているだけに無視できない。

 となると穴馬の出番は少なさそうだが、勝つまではいかないまでも、ヒモ穴としてはオーストラリアから転戦してきた、UAEのウエストウインドブローズ(せん4歳)を挙げたい。

 秋からメルボルンに遠征し、3戦してGⅠを2着が2回。前走の豪チャンピオンズS(フレミントン・芝2000m)は59kgの斤量の影響もあってか、ちぐはぐな競馬で9着と不完全燃焼に終わり、ここに矛先を向けてきた。2着だったコーフィールドCの走りからも、距離の再延長は望むところだ。

◆香港スプリント(芝1200m)

 昨年の同レースで人気を裏切った(6着)、地元のラッキースワイネス(せん5歳)が雪辱に燃える。ただ、昨シーズンにGIを3勝したのにも関わらず、重ハンデで使い込まれているのは気になる点だ。

 人気の盲点となりそうなのは共に香港の、昨年の勝ち馬ウェリントン(せん7歳)と、同2着のサイトサクセス(せん7歳)だ。

 前者は、2走前のイギリス遠征で大敗した以外は安定して上位に食い込んでいる。後者も、2走前のGⅡプレミアボウル(沙田・芝1200m)では約6kgのハンデ差があったとはいえ、ラッキースワイネスを下している。本番に照準を合わせてくるジョン・サイズ厩舎だけに、昨年の再現は十分に考えられる。

◆香港マイル(芝1600m)

 歴代の世界最高獲得賞金額を更新している、香港のゴールデンシックスティ(せん8歳)が人気の中心と見られているが、2着に敗れた昨年以上に今年は「危険な人気馬」と見ている。中間の調教の本数はこなしているものの、今回が今シーズンの初戦。すでに残り3戦で引退を表明しており、いちファンとしては意地を見せてほしいが、今回は着外まであることも想定していいだろう。

昨年の覇者である香港のカリフォルニアスパングル(せん5歳)も、人気ほどの信頼度はない。ならば前哨戦を制した、同じ香港のビューティーエターナル(せん5歳)のほうが計算が立ちそうだ。

 日本で人気になりそうなナミュール(牝4歳)は、今回のような馬場に強いハービンジャー産駒なので、もう一発を期待してもいいだろう。盲点となりそうなのは、今年3月の香港ダービー(沙田・芝2000m)を勝った香港のヴォイッジバブル(せん5歳)。安定感に欠くところはあるが、一発の魅力がある。

そして、リムズコジオスコ(せん6歳)は3着でも好配当が間違いない。格下に見られるシンガポール調教で、昨年はスプリントに挑戦して惨敗したが、適距離はマイル前後。来年で廃止となるシンガポール競馬の最後の光を見せて欲しい。

◆香港カップ(芝2000m)

 連覇を狙う香港のロマンチックウォリアー(せん5歳)が出走。前走はオーストラリアでのGⅠコックスプレート(ムーニーヴァレー・芝2040m)で勝利を収めた。ただ、そこで全力を出し切ってからの1カ月半後の帰国初戦だけに、状態はピークとは言い難いだろう。

 日本から出走するプログノーシス(牡5歳)にとっては、春のGⅠクイーンエリザベスII世C(沙田・芝2000m)で敗れた借りを返すチャンス。ただ、どうしても出遅れ癖はついて回ってしまうだけに勝ちきれない可能性は残る。一方でローシャムパーク(牡4歳)は、マイルで触れたナミュールと同じハービンジャー産駒で、一気に突き抜ける可能性も大きい。その2頭の日本調教馬は、日本で人気になるだろう。

フランスのオリゾンドレ(せん3歳)は、比較的高速決着だったパリロンシャン競馬場でのGⅡドラール賞(パリロンシャン・芝1950m)を快勝している。続くGⅠ英チャンピオンS(アスコット・芝1990m)でも3着と見せ場を作ったが、同馬に関しては渋ったアスコットの馬場より、良馬場の沙田のほうに適性がありそうだ。