8月9日(日本時間8月10日)、アイルランドにて女子ラグビーワールドカップが開幕する。それに先立ち、15年ぶり4度目の出場となった「サクラフィフティーン」こと女子ラグビー日本代表28人(フォワード16名・バックス12名)の本大会出場メ…

 8月9日(日本時間8月10日)、アイルランドにて女子ラグビーワールドカップが開幕する。それに先立ち、15年ぶり4度目の出場となった「サクラフィフティーン」こと女子ラグビー日本代表28人(フォワード16名・バックス12名)の本大会出場メンバーが発表された。



初めてのW杯に挑む日体大2年の堤ほの花(左)と清水麻有(右)

 日本でのワールドカップ2019を控える男子よりも先に「ベスト8」を目指す女子日本代表。そのメンバー内で「黄金世代」と呼ばれ、チームの中心となっているのが、今年度に20歳を迎える1997年4月~1998年3月生まれの大学2年生6人(PR江渕まこと、FL塩崎優衣、FL鈴木彩夏、SH野田夢乃、WTB堤ほの花、FB清水麻有)だ。

 なかでも日体大ラグビー部に所属する同級生のふたり、20歳のWTB(ウイング)堤ほの花と19歳のFB(フルバック)清水麻有は、「高速連続アタック」を標榜する女子日本代表BK(バックス)の中心選手として、トライに絡むプレーが期待されている。

 来年の成人式のために日焼けを人一倍気にしている堤と、食わず嫌いが多くて最近になってラーメンや卵かけご飯を食べられるようになったという清水。そんなふたりの見た目の印象は、ごく普通にいる大学生と何ら変わらない。

 だが、ふたりは高校時代から7人制ラグビー(セブンズ)も含めた日本代表で活躍するなど、文句なしの実力でアイルランド行きの切符を勝ち取った若手有望株だ。女子日本代表を4年間にわたって鍛えてきた有水剛志ヘッドコーチも「外国人相手に個人で突破し、トライを獲れる選手。堤はスピード、清水はキレで勝負するタイプ」と、ふたりに絶大なる信頼を置いている。

 ふたりはともに、「ラグビー一家」に生まれた。自然と楕円球の道に進んだのも、その影響が大きい。

 堤は佐賀県嬉野(うれしの)市出身。身長154cmと選ばれた28人のなかで2番目に小さいものの、50mを6.8秒で走るチーム1の快足ウイングだ。

 父親が嬉野ラグビースクールのコーチだったため、3歳から双子の弟・英登(えいと/日体大)とともに競技を始めた。同時に陸上も取り組みながら、中学2年ごろから本格的にラグビーにのめり込んでいったという。高校は弟とともに、五郎丸歩の母校でもある強豪・佐賀工に進学。男子と一緒に練習をしていたことで、「周囲のレベルが高いから、それについていこうとして自然とレベルアップできました」と語る。

 そして高校3年のとき、堤は一気にブレイクする。2015年4月に行なわれた国内最高峰の7人制ラグビー大会「太陽生命ウィメンズセブンズシリーズ」の準決勝で5トライを挙げ、高校生として初めて大会MVPを受賞。その勢いのまま同年5月、わずか17歳で15人制日本代表デビューを果たした。

 大学生になった昨年は7人制ラグビーのカレッジ世界大会に清水とともに出場し、ニュージーランドやイギリスを撃破して世界3位。さらに日体大ラグビー部の一員として「太陽生命ウィメンズセブンズシリーズ」で総合優勝を果たし、15人制でもワールドカップアジア予選でフィニッシャーとして活躍した。

 一方、清水麻有は群馬県高崎市出身。高校時代から体重を10kgほど増やして「高校時代はシュッとしていたけど、ふた回りほど大きくなりましたね!」と苦笑するが、今の女子日本代表には欠かせない要のフルバックだ。

 清水の父・淳一は、かつて日体大やIBMでプレーし、群馬県の強豪・東京農大二高の監督(現部長)も務めた人物。その影響により、清水は小学校3年時から高崎ラグビースクールで競技を始める。

 清水は幼いころからラグビーだけでなく、柔道や水泳、陸上にも興味を示し、中学時代には陸上のジャベリックスロー(小中学生版のやり投げ種目)で全国大会に出場したほどのスポーツ少女だった。ステップやランだけでなく、オフロードパス(タックルされながらのパス)など清水の高いスキルは、そのころから鍛え上げた体幹の強さが源にあるのだろう。

 高校は父親のいる東京農大二高に進学。男子とともにプレーし続けたことで「芯がしっかりしましたし、一番プラスになったのは気持ちの部分。度胸がついた!」と振り返る。そして、高校2年の終わりに7人制ラグビーの日本代表合宿に初招集されると、高校3年生になったばかりの2015年4月にはセブンズ日本代表として初出場(オランダ戦)を果たした。

 その後、「サクラセブンズ」の合宿メンバーには呼ばれるも、試合に出場することは叶わず、惜しくもリオデジャネイロ五輪メンバー入りを逃す。だが、進学した日体大では堤とともに1年生から7人制ラグビーで活躍し、さらには15人制の日本代表としてもデビュー。昨年12月のワールドカップアジア予選では「15番」を背負い、安定感のあるプレーで本大会の出場権獲得に貢献した。

 彼女たちは今回の15人制ワールドカップだけでなく、セブンズでの東京オリンピック出場も視野に入れている。「両方とも楽しい。今後も7人制も15人制もプレーしていきたい」とふたりは声を弾ませる。

 15人制の魅力について、清水は「試合時間が80分と長いので、相手を見て、自分たちで修正して、動きを変えられるのが面白さ」と言い、堤は「人数が多い分、複雑になってきますが、頭を使うところ。人数が多いので、仲間に助けられることが多く、勝ったら喜びが倍になります!」と語る。

 また、日体大ラグビー部の同級生であるふたりにそれぞれの長所を聞いてみると、試合中でもお互いの動きは「何となくわかる」という。堤は「麻有は絶対に突破してくれるので、それについていけば、うまい具合にパスしてくれる」、清水は「ほの花はボールを持ったら、ステップで絶対に取り切ってくれる」と、ふたりの信頼関係は厚い。

 現在世界ランキング14位の女子日本代表は、ワールドカップ本大会の予選プールで3ヵ国と対戦する。8月9日にフランス(4位)、8月13日に開催国アイルランド(5位)、8月17日にオーストラリア(6位)と、いずれも格上の相手だけに、いずれに勝利しても歴史的な金星となろう。目標は「男子より先にベスト8に入って2019年につなげること」だ。

 大会は中3日の強行日程のため、28名(プラス2名のバックアップメンバー)全員で戦うことが重要となる。そして、その攻撃的なラグビーを目指すサクラフィフティーンにとって、バックスの中軸を担うふたりの存在は欠かせない。清水は「体幹が強いので、持ち味はタックルを受けてもボールを動かすこと。身体を張ってチームを勢いづけたい」と語り、堤も「持ち味のスピードで勝負し、WTBの役目としてトライを獲りたい」と意気込む。

 ラグビー選手として活躍した後は「特別支援学校の先生になりたい」(堤)、「鍼灸師になりたい」(清水)と、それぞれの夢を持っている。初めてのワールドカップに挑む日体大2年コンビは、アイルランドの地で満開の笑顔を咲かせることができるか。