【日本代表のニューカマーたち】 第76回秩父宮賜杯全日本バレーボール大学男子選手権大会、通称「全日本インカレ」は12月3日に決勝が行なわれ、順天堂大を下した早稲田大が2年ぶり10回目の優勝を果たして閉幕した。今年の大会には、男子日本代表の選…

【日本代表のニューカマーたち】

 第76回秩父宮賜杯全日本バレーボール大学男子選手権大会、通称「全日本インカレ」は12月3日に決勝が行なわれ、順天堂大を下した早稲田大が2年ぶり10回目の優勝を果たして閉幕した。今年の大会には、男子日本代表の選出メンバーや将来の候補選手が顔を並べ、高い注目を集めた。



全日本インカレでは法政大の高橋慶帆ら、今後の日本代表で活躍が期待される選手たちが躍動

いずれも"世界"を肌で感じ、さらなる成長を誓う面々だ。今年の全日本インカレに出場した顔ぶれを見ると、2023年度日本代表の登録メンバーからは4名の姿があった。

 まずは、9月のパリ五輪予選/ワールドカップバレー2023にも出場したアウトサイドヒッターの甲斐優斗(かい・まさと/専修大2年)。日南振徳高(宮崎)時代に全日本高等学校選手権大会(春高バレー)で一躍脚光を浴び、現在は2年生ながらポイントゲッターを担う。

 今年度は日本代表にフルで帯同し、銅メダルを獲得したネーションズリーグや、出場権を獲得したパリ五輪予選などで世界のトップレベルを体感。自身は主にリリーフサーバーでの起用だったが、代表のスタッフやチームメートも「教えたら教えるほど吸収する」と語るほどの伸びしろを備える。

 物静かな人柄であり、コートでは「試合中も楽しんでプレーしよう」と心がけ、笑顔を絶やさない。ただ、代表活動を通じて磨いてきたサーブを打つ際には、ぐっと表情が引き締まる。

 試合への準備も、ひとつひとつのプレーも「いつもどおり」を強調する。来年、きたるオリンピックイヤーに向けて「自分が何をしないといけないかを考えながら、選考争いに入っていけるように頑張りたい」と言葉に力を込めた。

 その甲斐と同じ2年生で、2023年度日本代表のニューカマーとしてブレイクしたのが法政大2年の高橋慶帆(たかはし・けいはん)。モデル顔負けのマスクも相まって、全日本インカレでも多くのファンの姿が見られた。

 習志野高(千葉)時代からその名前は全国区だったが、人気に火がついたのは今年のアジア競技大会でのこと。大会中に本人のSNSフォロワー数が爆発的に伸び、「こうして注目してくれることはもちろん、自分がきっかけでバレーボールを見たり、好きになってくれればうれしい。もっともっとバレーボールを盛り上げたい」とほほ笑む。

 そのアジア競技大会で、日本代表は銅メダルを獲得。キャプテンの柳田将洋(東京グレートベアーズ)も、高橋のオポジットとしての活躍を銅メダルが獲れた要因のひとつに挙げ、「本人なりに掴んだものがあったり、自信がついていると感じました。それを十分に発揮してくれた」と語った。

 代表活動を通してコート上での発言力もアップし、存在感は増すばかり。全日本インカレ後はジェイテクトSTINGSへの入団が決まっており、「高いレベルを経験することで、パリオリンピックに臨む日本代表へのアピールにつなげたい」と意欲を露わにした。

【セリエAで技術を磨く選手も】

 そのアジア競技大会に日本代表は、大会スケジュールの都合上、パリ五輪予選とは別編成のチーム、いわゆる"B代表"で臨んでいた。そちらも国内合宿や海外遠征を実施し、そこで各国代表との実戦を積んでいる。

 高橋とともに現役大学生として参加したのが、早稲田大1年の麻野堅斗(あさの・けんと)だ。身長207cmの高さもさることながら、腕の長さが目立つ。日本代表には2022年度から登録されており、全国制覇を果たした東山高(京都)時代よりも「トスを高くしてもらい、相手ブロックの上から、なおかつ被ブロックされない打ち方を練習してきた」と進化してきた。

 今回の全日本インカレでは、サウスポーから繰り出す決定力の高いクイックで優勝に貢献。決勝を振り返り、本人は「チーム(早稲田大)で磨いてきたブロックがなかなか発揮できなかった」と悔やんだが、チームメートのセッター前田凌吾(2年)は「代表から戻ってきてブロックが格段によくなった」と評価していた。

 その麻野と同じミドルブロッカーで、今年は日本代表の合宿に参加したのが中央大3年生の澤田晶(さわだ・あきら)である。愛工大名電高(愛知)時代からポテンシャルを評価され、今年2月にはイタリア・セリエAのチステルナに練習生として入団。そこでは「周りには目標にしたい選手たちばかり。意識の差を痛感し、いい経験になりました」と話す。

 日本代表には追加招集という形で、今夏にB代表に合流。「自分にとってはるか上の存在だったシニア代表が身近になりました。そこに入れるように努力を続けて、レギュラーを取れる選手になりたい」と目標を明確にした。

 澤田がセリエAに渡ったのは中央大の海外派遣プロジェクトによるものであり、ほかにも4年生の藤原直也(ふじわら・なおや)が今春にヴェローナへ入団。藤原もアンダーエイジカテゴリーから着々とステップアップを遂げてきたひとりで、北嵯峨高(京都)時代に髙橋藍(日本体育大4年/モンツァ〔イタリア〕)らと全国高校選抜に入り、今年はFISUユニバーシティゲームズへの出場も果たした。

 ヴェローナの同年代のチームメートで、ポジションが同じアウトサイドヒッターのロク・モジッチがスロベニア代表で堂々とエースを務めており、その姿に「自分もああいう舞台でやってみたいと刺激を受けています」と自身も日の丸を見据えている。高橋と同じジェイテクトSTINGSへの入団が決まっていて、ともにさらなる成長を目指す。

【"二刀流"に挑戦する小さな大エース】

 大学生のうちから世界と触れることは選手自身の成長を促進し、ゆくゆくは日本代表の強化にもつながる。

 その点において、筑波大2年のサイドアタッカー、牧大晃(まき・ひろあき)は今回の全日本インカレ直前に設けられたアメリカの強豪、ハワイ大との交流試合に出場し、サーブやスパイクが非凡であることを証明した。なんといっても、高さがアドバンテージとなるバレーボールにおいて、現在の身長210cmは牧の絶対的な武器だ。

 そのハワイ大との試合では、「コースの打ち分けをさらにできるように」と再認識。全日本インカレでは甲斐とマッチアップする場面もあり、「(甲斐)優斗みたいにスパイクを叩く技術を身につけたい」と自身の成長曲線を思い描く。日本代表には2022年度に初登録。今年は外れたものの、その素質にはやはり期待せずにいられない。

 甲斐、高橋、麻野、澤田ら日本代表入りを果たしている選手から、藤原、牧といった"候補生"まで注目の大学生たちがしのぎを削った全日本インカレ。その学生生活を優勝で締めくくったのが、大会MVPに輝いた早稲田大4年の水町泰杜(みずまち・たいと)。彼もまた、同年代をリードしてきたエースである。

 中学生時代には「JOCジュニアオリンピックカップ全国都道府県対抗中学大会」で熊本県選抜として優勝し、進学した地元の名門・鎮西高では1年生からレギュラー入りを果たすとインターハイ、春高を制覇。身長181cmとバレー選手としては小柄だが、早稲田大でも全日本インカレでの3度の優勝に貢献したほか、個人としてもU-18日本代表やFISUユニバーシティゲームズで日本代表としてプレーした。

 その水町は大学卒業後、ウルフドッグス名古屋でプレーすると同時に、トヨタ自動車でのビーチバレーボールにも身を投じるという"二刀流"に挑戦する。かねてからビーチバレーに強い興味を持っていたが、次のように壮大な夢を語った。

「本当に初心者から始めるので、いけるところまでいきたい。たどり着く先がオリンピックか日本一かはわからないし、具体的なものではないかもしれません。ですが、自分が挑戦することで、後ろに続く世代がインドアとビーチバレーボールを分け隔てなくプレーできるような環境ができれば、それもうれしいです」

 水町はそんな世界を、いつか我々に見せてくれるかもしれない。