この道はいったいどこにつながっているのだろう? 2023年には米国フロリダ州で「第4回ワールドカップ」が開催され、28年「ロサンゼルス五輪」でのオリンピック種目採用に向けた動きも続いている。まだ、日本でプレーできるのは20コースほどに限…

息子の瑛心(えいと)くんと。次世代への思いも強くなる

この道はいったいどこにつながっているのだろう? 2023年には米国フロリダ州で「第4回ワールドカップ」が開催され、28年「ロサンゼルス五輪」でのオリンピック種目採用に向けた動きも続いている。まだ、日本でプレーできるのは20コースほどに限られるが、これはそんな新スポーツに魅了された人々の素顔に迫る連載インタビューである。

第3回は日本フットゴルフ界の黎明期を知り、“オリジナル6”と呼ばれる初代日本代表の一人である鈴木秀成さん。ワールドカップにおける日本人最高位記録を保持し、3児の父親でもある鈴木さんに、フットゴルフに懸ける情熱を聞いた。

◆ ◆ ◆

―フットゴルフを始めたきっかけを教えてもらえますか?

子供の頃からサッカー選手になりたいという夢がありました。それで、大学までサッカー部でやっていたけど、結局そこで夢を諦めて、いわゆる一般的なサラリーマンになったんです。そんなとき、サッカーW杯のブラジル大会(2014年)をテレビで観ていると、フットゴルフが日本に入ってきたことが紹介されていたんです。これは完全に自分のスポーツだなと思って、すぐ大会にエントリーしました。

-いきなり試合に出たのですね。初出場した大会は、どんな感触がありましたか?

60人くらいが参加して9位とかで、まあまあ良かったんです。優勝したのは元・名古屋グランパスでサッカー日本代表にもなった平野孝さんだったけど、「真剣に練習をやったら狙えるぞ!」って、そこから一気にのめり込みました。ただ、当時は練習のノウハウも知らなくて、遠くのゴールに向けて蹴ったりしていただけですね。

日本代表の強化部長でもある鈴木秀成さん

-それでも、翌15年には“初代”日本代表に選ばれてオランダ遠征に行きました。

まだ、今ほど競技者が多くなくて、常に試合に出ていたのはたぶん30人くらい。5分の1くらいの感覚ですね。初代日本代表は、冨沢和未、田中雄太、桑田寛之、新井晋、コージャ今村の各選手に僕を含めた6人で、通称「オリジナル6」と呼ばれています。サッカーでプロや日本代表になることを目指していたので、競技は違っても日本代表になることができて、すごくワクワクしましたね。

その6人でオランダのキャピタルカップという大会に出たのですが、海外の選手たちはインステップで蹴らないで、インフロントで転がして、それからインサイドで的確にカップに寄せていく。僕らはとにかくピンに蹴っていく意識だったけど、本場のコースはバンカーがあったり、奥に池があったりと、いろんな落とし穴が仕掛けてある。遠くに飛ばすことよりも、正確に狙ったところに、思った強さで蹴れる上手さに驚愕しました。

サッカーの夢を諦めて、フットゴルフと出会った

順位は300人中、100位くらい。3日間やってトップと30打差なので、1日10打違いました。でも、絶望したとかじゃないですね。これが“本物のフットゴルフ”なのか…と。こういう人たちに勝つには、どんな練習をしたらいいのか?どういうボールを使えばいいのか?それから、フットゴルフに本当に必要なものを考えるようになりました。

悔しさも味わった2018年のアジアカップ(本人提供)

-18年7月の第2回アジアカップ(ゴールデンエレファントGC/中国)では悔しい思いも味わいました。

あれは、自分の中のターニングポイントでした。最終日、残り3ホールまでトップだったのを小林隼人さんに逆転されて、1打及ばず2位に終わった。16番でイーグルを決められて、僕はバーディ。次の17番で、頭が真っ白になっちゃって2m弱のパーパットが打てなくなったんです(相手はバーディ)。これを決めれば1打差のまま最終ホールを迎えられるのに、とんでもないショートをしてボギーにした。最後は渾身のバーディを獲ったけど1打差負け。精根尽き果てるとはこのことだなと…。(小林)隼人さんのその後のメディアの取り上げられ方もそうだし、1位と2位はこんなにも違う、一打の重みというものを突きつけられました。

アジアカップでは小林隼人さんとの優勝争いの末に2位(本人提供)

-次のワールドカップも迫っていました。どう立て直していったのでしょう?

時間がなかったからこそ、日々の過ごし方はめちゃくちゃ重要視しましたね。地味な練習こそ必要だと思うようになってきて、コツコツコツコツ、パット練習をやったりしました。それに、長期戦になるのは分かっていたので、協会の瀧田先生にトレーニングメニューを教えてもらって、ぶれない身体作りを毎日やりました。

-第3回(18年12月)ワールドカップ・モロッコ大会は、日本人歴代最高の20位に入りました。

今でこそ、淡々とプレーするのが自分のキーワードなんですけど、あのときは本当に研ぎ澄まされていました。バーディを獲ろうが、ボギーを叩こうが、ずっと一定のリズムを崩さずに貫き通せた。個人戦で最終ラウンドに残った僕とトミー(冨沢和未)、八谷紘希さんの3人で「1つでも上の順位で終わろう」と誓いました。もちろん優勝は狙っていたけど、その時点で差があった。日本のフットゴルフのために“日本人最高位”は重要だから、そこを徹底しましたね。

モロッコW杯で歴代日本人最高位となる20位に入った(本人提供)

-20位という結果はどう受け止めていますか?

日本人最高位(それまでは16年、冨沢の80位)というよりも、そこに至るまで、良くて1日1アンダーくらいだったけど、最終日は優勝したマティアス(ペローネ)と同じ4アンダーで回れたんです。20位という結果には、協会の人からも「日本がやれるっていう爪痕を残してくれてありがとう」と言われましたが、トップ選手と同じ1日を過ごせたことが、自分の中でやれるという実感を持てたところです。

フットゴルフタウンを目指すさくら市(栃木県)でイベントを行った

-現在、選手としてプレーしながら、ジュニアイベントを開催するなど育成にも熱心ですが、それはどんな思いからですか?

まず届けたいのは、夢の捉え方はいろいろあるよっていう信念です。プロサッカー選手になりたい、プロゴルファーになりたいと言ってなれる人はひと握りで、その他大勢の方が多い。将来、僕と同じような経験をする人は必ずいると思うんです。そういう人たちの中に、この競技と出会えて良かったと思ってくれる人が1人でもいたら、とてもうれしいことなんです。

もう1つは、うちの息子は今サッカーをやっていて「サッカー選手になりたい」って言っているんですが、ある時「サッカーのコーチになりたい」って言ったんです。「なんで?」って聞いたら「コーチはサッカーが上手いから」って。そこで教えてもらったのは、子供にとって身近な大人の存在が、“こうなりたい”につながるんだということです。

僕の半径5m以内の子供たちに、僕の姿勢が伝わるなら、もしかしたらフットゴルフの第一線でやっている選手が子供たちに見せる姿勢が、「ああいう選手になりたい」という憧れにつながるかもしれない。だから、今と未来をつなぐ活動ってめちゃくちゃ重要だなと思って「ネクジェネ(※)」を立ち上げたんです。

※フットゴルフ ネクストジェネレーションプロジェクト
「Next Generation CUP」 2022年4月2日(土) 静岡カントリー浜岡コース&ホテル

フットゴルフは親子でも楽しめる

-日本フットゴルフ協会の強化部長でもありますが、そういう活動に向けるエネルギーは、最終的には競技者としての自分にもプラスになっていると思いますか?

一緒にプレーしたり、教えてもらったりした選手が、ワールドカップで活躍したら、子供たちにとっても鼻が高い話になると思うんです。それは、自分自身の責任にもなるし、エネルギーにもなる。自分の成績を追い求めることにもつながっています。

もう手の届かないメッシやネイマールのようなプロサッカー選手に憧れるのも1つだけど、いまならフットゴルフのトップ選手と交流できる。環境を逆手に取るじゃないですけど、そういう子が数十年後にトッププレーヤーになったとき、自分も同じことをしようと思う子が出てくるかもしれないし、「自分は鈴木さんに教えてもらってここにいるんです」みたいなことがあったら、うれしいですね。

-次のワールドカップは2023年です。ワールドカップで良い成績を収めることは、そんな活動を一気に押し上げてくれますね。

おっしゃるとおりで、それは最高の産物です。まず、今年5月に日米対抗戦のパシフィックトロフィーがあります。ワールドカップ会場となるコース(米国フロリダ州)で、1年前に戦えるのは大きいので、そこで、いろんなギャップを確認して、残り1年でその埋め合わせをするような過ごし方になるんじゃないかなと思います。

フットゴルフにはどんな未来が待っているのだろう?

―ワールドカップで日本人選手が優勝したら、どんな未来が待っているでしょう?

一つのスポーツを文化にしていくのって簡単なことじゃないと思うんです。協会も50年、100年の目線で見ていて、そこは僕も同意なんです。サッカーが日本に根付くのにも100年掛かっているし、自分の成績によって、そんな未来が1年でも2年でも早くなるなら、それは大きな貢献だと思っています。そういう積み重ねが、日本にフットゴルフが根付く材料になっていくし、次の世代にバトンを渡すときに、どれだけ早く、この競技を本当に価値あるものとしてプレーする環境が整っているかが大事かなって思っています。

(取材・構成/今岡涼太)

◆選手プロフィール
鈴木秀成(すずき・ひでなり)
SNS:[T] hidenari_suzuki [I] hide_suzuki_fg

フットゴルフナビ(日本フットゴルフ協会監修)
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