この道はいったいどこにつながっているのだろう? 2023年には米国フロリダ州で「第4回ワールドカップ」が開催され、28年「ロサンゼルス五輪」でのオリンピック種目採用に向けた動きも続いている。世界40カ国以上でプレーされ、アメリカではすで…

日本フットゴルフ界が誇るトップ選手の一人

この道はいったいどこにつながっているのだろう? 2023年には米国フロリダ州で「第4回ワールドカップ」が開催され、28年「ロサンゼルス五輪」でのオリンピック種目採用に向けた動きも続いている。世界40カ国以上でプレーされ、アメリカではすでに500以上のゴルフ場で楽しめる。

日本はまだ20コースほどに限られるが、それでもこの1年で4コースが新設された。大いなる可能性を秘めた「フットゴルフ」。これは、そんな新スポーツに魅了された人々の素顔に迫る連載インタビューである。

第1回はフットゴルフジャパンツアー19-21年シーズンに、自身3度目となる年間チャンピオンに輝いた小林隼人さん。18年にはアジアカップ制覇も成し遂げた日本のトップ選手は、一級建築士の資格を持ち、週5日フルタイムで働く会社員でもある。そんな小林さんを突き動かすものはなんなのか?フットゴルフに懸ける想いを聞いた。

◆ ◆ ◆

―まずは、フットゴルフとの出会いを教えて下さい。

高校、大学とサッカーをやっていて、卒業後は東京都社会人サッカーリーグの八王子FCに入りました。ずっとフォワードをやっていたけど、体力的に若い選手に負けるようになって、32歳で引退しました。そこからやることがなくなっちゃって…。好きだった野球を始めたけど、ぜんぜん上手くいかなくて、そんな頃にフットゴルフに誘われたんです。

デビュー戦は、2015年に東我孫子CCで行われたワールドカップ選考会を兼ねた試合です。16年にワールドカップ(アルゼンチン大会)があるのは知っていて、日本代表になりたいと思いました。ボールを蹴るのは得意だったので『いけるかな』って思っていたら、もう予想を上回るダメさでしたね。距離感が難しくて、アプローチがまったく寄らない。優勝した選手が10アンダーで、自分は10オーバーとか。20打差くらいつけられました。

「極めるのが好き」というのは、アスリートに重要な資質だろう

―それでも初めてにしては悪くないような気がします…。

その後も3試合くらい上手くいかなくて、あまり面白くないなって思い始めたんです。でも、次の試合で2位か3位になって、各試合で5位以内に入れば代表選考会に行けるっていうレギュレーションだったので、ワールドカップが見えてきた。やってやるぞ!ってなりましたね。

―そのまま日本代表になれたのですか?

いや、なれなかったんです。選考会に出たけど、20人中16人が受かる選考会で落ちたんです。悔しくて悔しくてSNSも見られなくなっちゃって…燃えたのはそこからですね。2015年末でした。

元々はサッカーからフットゴルフに転身した

―そこから、どのような練習をして上達していったのでしょうか?

まず、公園や河川敷の芝生に10mおきにコーンを置いて、ひたすら距離感を磨きました。それから、上手い選手たちと一緒にラウンドさせてもらって頭の中を聞けたというか、こういうふうに考えて蹴っているっていうことを知れたのが良かったです。

―パッティング練習はどうしていますか?

家でひたすらまっすぐボールを転がす練習しかやっていないです。ゴルフも一緒ですが、ラインを読んでも、まっすぐ蹴れなかったら意味ないじゃないですか。だから、フローリングの上で裸足になって3mくらいを、強さを変えながら、自分が思ったように転がっているか、変な回転をしていないかチェックしながら、延々とやっています。そこは必ず毎日やっていて、『俺は絶対にまっすぐ蹴れる』っていう自信が、試合でも効いている気がします。

―パットはインサイドで蹴りますか?それともトゥキックですか?

インサイド派ですね。18年まではトゥキックだったけど変えました。手のひらで押すか、指先でツンってやるかの違いで、面で押した方が強さの感覚を出しやすいっていうことと、ミスの許容範囲が広いなと思ったからです。トゥキックはポイントで打つので1cmずれたら左に行ったりしちゃうけど、インサイドは1cmずれても面だから、たぶんまっすぐ行ってくれる。そういうことを突き詰めて考えるのも面白いです。

ユニフォームには多くのスポンサーロゴもついている

―ところで、ゴルフ経験はありますか?

はい、あります。ベストスコアは「91」かな。サッカーをやめて、フットゴルフを始めるまでは、ゴルフで良いスコアを出すことにハマって、1、2週間に一回くらいは行っていました。上手くなっていく過程が好きなんでしょうね。でも、最近は年に1、2回です。

―ゴルフから学ぶことはありますか?

それはめちゃくちゃ多いです。読んでいる本はぜんぶゴルフ関連で、「禅ゴルフ」(ジョセフ ペアレント著)と「無意識のパッティング」(デイブ・ストックトン著)が一番効きました。考え方を参考にしていて、いまも大事な試合の前とかに読み返しています。禅ゴルフなんて、もうボロボロになっていますね。

フットゴルフはキックから始まって、日本代表に上がるくらいまではマネジメントやメンタルといったゴルフの知識が大切です。それが成熟してさらに上を目指そうと思ったら、また強さや軌道、飛距離といったサッカー技術に戻ってくる。頭の中はゴルフじゃないといけないけど、最後はちゃんと蹴れる人、球をコントロールできる人が強くなれる気がします。

フルタイムの仕事をしながら、フットゴルフにも打ち込んでいる

―フットゴルフで最大の目標はなんでしょうか?

いまはワールドカップが一番ですね。世界一になりたいっていう気持ちはもちろんあるけど、それを軽々しく口に出せないっていう感覚もあります。前回出場した2018年のワールドカップ(モロッコ)で失敗して、世界トップの凄さも分かっているので。

―どんな失敗だったのですか?

そのワールドカップでは、2日目が終わって17位でした。結構、戦えている感じもあったけど、3日目の序盤にダブルボギーが来て、切り替えたつもりだったけど、次にボギーが出始めたときに『やばい、やばい』って思考停止になっちゃったんです。いつも蹴る前にショットを明確に決めているけど、その精度が恐ろしくずれ始めたんです。あとでビデオを観ると『なんであんなに強く蹴っちゃっているんだろう』みたいなことをやっているんです。3mを無理やりねじ込みにいって、奥に10m行ってしまうとか。午前中はまったく風がなかったのに、午後にすごく吹いてきて、そういう自分でコントロールできないことも不平等に感じたり。自分をまったく制御できなくなっていました。

2、3カ月前に元サッカー日本代表の前田(治)さん、磯貝(洋光)さんたちとラウンドをしたんです。2人とも、小学生の頃から憧れて、ずっと観ていた選手だったから緊張するんですけど、そのときすごく内容が良かったんです。いま考えてみると、内容が良い時ってちょっとした緊張感があって、相手をリスペクトしながら周囲の状況をすべて受け入れているような感じで、そういう姿勢でいったら良いのかなっていうことに最近、気づき始めました。

憧れの元サッカー日本代表・前田治さんと記念撮影

―日本のフットゴルフ界の現状について、どう思っていますか?

いまは日本代表といっても、個人的にはそんなに自慢できるものじゃないんです。『どうせフットゴルフでしょ?』って鼻で笑われることもあるし、まだそういうスポーツだと思います。だけど、日本代表を重ねてきて、フットゴルフをメジャーにする役割的な立場になってきたので、自分が引っ張っていくんだっていう意識が強くなってきました。

今年、Jリーグサポーターによるフットゴルフ対抗戦(ジェイサポカップ)を企画したのですが、それが結構盛り上がって、その中の何人かが新しくジャパンツアーに入ってきてくれたんです。そういう活動が大事かもしれないですね。

―これから始める人に伝えたいフットゴルフの魅力はなんでしょう?

まず組織がしっかりしていて、日本にも世界にも協会があって、ワールドカップもある。明確に目指すところがあるっていうことは言いたいです。それに、ゴルフではまったく感じられなかったけど、松山英樹石川遼が試合中に感じているであろう一打の重みや、プレッシャーの考え方とかを、フットゴルフだと感じられているんですね。それは、めちゃくちゃ楽しいです。

◆選手プロフィール
小林隼人(こばやし・はやと)
SNS:[T] hayato_k_fg [I] hayato.k.footgolf [F] hayato.kobayashi.31542
HP:https://hayato-k-footgolf.amebaownd.com/

◆フットゴルフナビ(日本フットゴルフ協会監修)
https://special.golfdigest.co.jp/footgolf/index.html

取材・構成/今岡涼太