ダート界の中距離路線は、3強時代(クリソベリル・チュウワウィザード・オメガパフューム)に終止符を打ったテーオーケインズが絶対的な王者になれなかったことで戦国時代が続いている。そのような中で、昨年末の東京大賞典、今年の川崎記念を連勝してド…

 ダート界の中距離路線は、3強時代(クリソベリル・チュウワウィザード・オメガパフューム)に終止符を打ったテーオーケインズが絶対的な王者になれなかったことで戦国時代が続いている。そのような中で、昨年末の東京大賞典、今年の川崎記念を連勝してドバイワールドCまで制したウシュバテソーロが一気に大将格へ。その大将格は、BCクラシックに挑戦して不在。

 そして、大将格不在の中距離界まで制覇するためにやってきたのがレモンポップ。今年のフェブラリーSを勝って、前走の南部杯では2.0秒差で圧巻の大楽勝。前走の勝ち方なら1800mでも対応できることを期待されて上位人気が濃厚。ただ、使われ方・勝ってきたレースの質を見ると1800mでトップクラス相手に勝てるのか怪しさを感じる。

 まず、この馬のデビューからの戦歴。デビュー戦で1300mから使い出されていて、カトレアSで1600mを勝利。長期休養明けから武蔵野Sを走るまで1400mだけに使われていた。3歳になると1200〜1400mで3歳限定の重賞はないので(来年からは「全日本的なダート競走の体系整備」で短距離の3歳限定重賞も作られる)、「1300mからの使い出し」は3歳になっての重賞を見据えていない。長期休養明けから1400mを続けて使っていたことからも、陣営が短い距離の方がいいと考えているのは明らか。

 次に、「根岸Sの内容の良さ」。今年の根岸Sはかなりレースレベルが高かった。それに加えて、1600mの22年武蔵野Sで差されたギルデッドミラーを倒している。過去の根岸Sでかなり高いレベルの走りを見せて中距離まで対応した馬は、ノンコノユメくらいしかいない。そのノンコノユメは、マイルから距離を伸ばして2000mまで結果を出して、1400m以下で走るのが初めてだった距離短縮ローテだった。

 さらに南部杯は「1400m適性が高い馬」が強い走りをする傾向が強いレース。南部杯の勝ち馬に、中央の1400m重賞を勝っているがフェブラリーSでは勝てていないアルクトス、サンライズノヴァ、ベストウォーリアがいる。これは、地方の中でもかなり時計が出る盛岡の馬場とコース形態が影響している。その舞台で2.0秒の大楽勝は逆に1400m適性の高さが出ていると考えている(ブルーコンコルドのように、1400mのJBCスプリントを勝った後に東京大賞典を勝ってしまうスーパーホースの可能性がゼロではないが)。

 最後に出走してきた経緯の一番の理由が、今の時期に「1400〜1600mのいいレースがない」ことだと考えている。種牡馬としての価値を上げるためや、南部杯の勝ち方からこなせていいと判断したのかもしれないが、1800m以上に対応できる考えが前からあったら試すタイミングはここではないはず(長期休養明けの条件戦など)。ここを大目標として狙っている中距離路線の馬とは出走経緯が違う。

 デビューからの使われ方、根岸Sの内容の良さ、南部杯の1400m向きのレースの質、1400〜1600mのいいレースがない時期などいろいろと気になる点が浮かんでくる。能力で一蹴してしまう可能性はゼロではないが、素質に期待する要素が多すぎる。それに加えて、騎乗する坂井瑠星騎手が「かなりの挑戦」という言葉を取材に答える際に使っていた。これが陣営の本音だと思う。

 これで人気薄なら、素質に期待するのも考えるが1番人気か2番人気が濃厚。それでは積極的に買うことはできないし、好走して1800mに対応できることが分かってからでも人気なことは変わらないので遅くない。

(文=nige)