日本体育大学の注目選手を紹介。今回は水球競技の中さくら選手。過酷な部活動のスケジュールの中で、たくさんの困難を乗り越えている中選手は勉学も抜かりなく取り組んでいる。なぜそこまで頑張れるのか、彼女を支えているものは何なのか。中選手の強さについ…

日本体育大学の注目選手を紹介。今回は水球競技の中さくら選手。過酷な部活動のスケジュールの中で、たくさんの困難を乗り越えている中選手は勉学も抜かりなく取り組んでいる。なぜそこまで頑張れるのか、彼女を支えているものは何なのか。中選手の強さについて深掘りしていく。

・名前 :中 さくら
・身長 :170cm
・所属 :日本体育大学水泳部水球部門
・出身校:和歌山県立耐久高等学校

▶︎経歴

小学校4年生 スイミングスクールに通い始める
中学校1年生 入学した中学校に水泳部がなかったため、水泳を離れる
高校1年生  先輩の後押しで水球部に入部
高校3年生  全国JOCジュニアオリンピックカップ夏季水泳競技大会水球競技/第3位
大学入学後  日本体育大学水泳部水球部門に入部
・2022年 第98回日本選手権水球競技大会最終予選 出場
・2023年 第99回日本選手権水球競技大会最終予選 出場
・2023年 関東学生水球リーグ 出場
・2023年 第99回日本学生選手権 3位

▶︎水球との出会いと水球への熱い想い

彼女は小学4年生から水泳を始めた。中学校でも水泳部に入部する予定だったが通っていた中学校に水泳部はなく、水泳を離れる決断を下した。しかし高校入学とともに水球に出会い、先輩の後押しで水球部に入部。ここから水球中心の生活が始まった。
そして高校3年生になり、全国JOCジュニアオリンピックカップに出場。ここで3位の成績を納め「トップレベルで競うことができる環境でプレーしたい」という強い思いが湧いた。そして、全国トップレベルである日本体育大学へ水球のスポーツ推薦で入学を決め、現在はキーパーとしてチームに貢献している。

▶︎念願の日体大進学も、待ち受けた高い壁

高校時代は人数が少ないということもありレギュラーとして起用されることがほとんどだった。ところが大学に入ると人数やレベルの違いを思い知らされる結果に。レギュラーになかなか入れず、さらに同期のキーパーの選手は2人。ライバル心を持ちながらも切磋琢磨している仲であるが、レギュラーに起用されるのは同期の子が多かった。
2023年女子U20水球世界選手権の選抜では最終選考までいったものの、選ばれたのは同期の選手。ここでも高い壁が立ちはだかった。
「試合中でも自分が絶対に守らないといけない場面で守りきれず、選手交代され落ち込むこともあります」こう語ったが中選手だが、決して諦めることはない。
毎日部活ノートを書き、その日の反省点を書き留めているという。自分の課題を見つけ、次につなげるためにどうするべきかを明確にしてスキルアップを図る。中選手はレギュラー争いの激しい環境の中、常に心に火を灯し続けて高い壁に挑み続けているのだ。

▶︎彼女を支える仲間、そして友人の存在

様々な挫折や困難を乗り越えられる背景には、同じ水球部の仲間、そして水球以外で関わっている友人の存在がある。
同じ状況にいる同期の子とお互いに気持ちを吐き出したり、水球から1回離れ、友人とたわいない話をすることで中選手は心を整えている。
「水球のことばかり考えていたら気持ちを切り替えられないから、自分には水球以外の居場所もあると思い込ませています」と、仲間や友人の存在の大きさについて語った。

▶︎自身を襲った悲劇とそこから生まれる強さ

昨年、部活もプライベートも充実していた中選手に突然悲劇が襲った。1番近くで支えてくれていた彼女の母がこの世を去ったのだ。中選手は一度水球を離れ、和歌山県の実家に帰ったという。
「水球を辞めることを考えたけれど、こうして自分が水球から離れている間もチームの人たちは練習をしている。練習に置いてかれたくない、ライバルの子に負けたくないと思っている自分がいて、こう思うということは自分はやっぱり水球が好きなんだなっていう気持ちに気づくことができ、水球を続けることを決意しました」と、水球に対する気持ちを再確認。2週間ほど実家に滞在した後、大学に戻り練習を再開したという。
そんな辛い事実を受け入れながらも練習に取り組んでいた彼女を救った言葉がある。
「貴方がくれた全てのことを大切に心の中で抱きしめて感謝し続けます」
この言葉は2023年7月、タレント・りゅうちぇるが亡くなった時に彼の親友でありタレントのぺえが自身のインスタグラムに綴った文章の一部である。
中選手は「この言葉を見て、自分と重なった部分があってとても心に刺さりました。それと同時に心が救われました。」と胸の内を明かした。
母の存在が彼女を強くし、進むべき道を照らしている。中選手の強さは、亡き母に捧げる感謝と愛情から生まれるものなのではないだろうか。

▶︎記憶に残る仲間共に掴んだ勝利

練習に復帰した後に挑んだ、昨年の2022年9月日本選手権最終予選。残り1ピリオドで2点を追う場面、急遽選手交代で大事な場面を任された中選手は見事にゴールを守り切り、仲間もゴールを決め同点に追いついた。
そのまま試合はPK戦にもつれ込み、もう一人の同期がキーパーに起用された。
試合を見守り、そしてチームは見事に勝利を果たした。この試合を通して「ライバルではあるもののチームというものを強く感じました」と彼女は振り返った。

▶将来の夢と海外に対する思い

大学卒業後は水球を辞め、海外で働くことを目指しているという。きっかけは、中学2年生の時に行ったオーストラリア留学である。
水泳から離れていた中学校時代に英語に非常に興味を持ち、海外で働きたいという大きな夢を掲げた。
教室で見る彼女は、その夢を実現するために授業の空き時間も英語を勉強する時間に費やし一歩ずつ夢に近づけている。
「本当は高校で水球を終えるつもりだったけど大学でも水球を続け、大学1年生では水球に没頭していました。でも高校で英語の勉強を頑張ったけど何のために頑張ったのかと思うようになり、海外で働きたいという夢を大学2年生でもう一度掲げ、勉強も頑張るようになりました」
そしてこの思いが文武両道を果たしていける彼女の原動力となっている。将来をしっかりと見据えて、大学生活で頑張りたいこと、やらなくてはいけないことを明確にしたことで彼女は自分で自分の背中を押している。そんな中選手の今後の現役人生と、海外に羽ばたき活躍する姿に期待せずにはいられない。
 

(取材・文:清水 沢夏)