2015年の鈴鹿8耐にフルファクトリー体制で復活したヤマハファクトリーレーシングチームが19年ぶりの優勝を果たしたとき、チーム監督の吉川和多留は「申し訳ありませんがあと2~3年は連覇させてもらいます!」と表彰台で宣言した。後日、「あれ…

 2015年の鈴鹿8耐にフルファクトリー体制で復活したヤマハファクトリーレーシングチームが19年ぶりの優勝を果たしたとき、チーム監督の吉川和多留は「申し訳ありませんがあと2~3年は連覇させてもらいます!」と表彰台で宣言した。後日、「あれはその場の勢いで言ってしまったことだから……」と吉川監督は照れたような笑みで弁解していたが、そうはいってもまったく自信がないのならば、あのような強気な発言が飛び出すことはなかっただろう。



3年連続で鈴鹿8耐を制したヤマハファクトリーレーシングチーム

 実際に、彼の宣言どおりにヤマハファクトリーレーシングは2016年に連覇を果たし、そして40回記念大会となった今年のレースでも速さと安定感、巧みな8時間の組み立てが揃った隙のない強さで3連勝を果たした。

 2015年と2016年に優勝を経験しているエースライダーの中須賀克行は、レースウィーク前に行なわれた公式合同テストの際に「8耐は連勝自体が難しいことなので、自分たちがディフェンディングチャンピオンだとは考えていない」と述べた。

「常に記録にチャレンジする姿勢を保ち続けて今年のレースに臨みたい。チャレンジしているからこそ結果を得ることができると思うので、チーム一丸となって、各々がやるべきことをしっかりとやっていく。昨年のレースで手が届きかけていた219周をクリアする、という目標に向かって皆が力を合わせている」

 そう話す中須賀に、3連覇がかかっているという事実にプレッシャーは感じるか、と重ねて訊ねてみた。

「そこは、今までと変わらないですね。自分たちは218周を記録して219周にほぼ手が届いているけれども、他陣営はまだ届いていない。そういった意味では、自信もあります。周囲に左右されずに、自分の力を出し切る。それがすべてだと思うので、そこに集中していきます」

 今年のチームメイトは、2016年にも一緒に走ったアレックス・ロウズと、ホンダから移籍してきたマイケル・ファン・デル・マークというラインナップになった。ファン・デル・マークはヤマハで8耐を走るのは今年が初めてだが、2013年と2014年にはホンダ陣営のMuSASHi RT HARC-PRO.から参戦して2年連続優勝を獲得した実力の持ち主だ。2015年と2016年はヤマハの中須賀たちが連覇したため、ファン・デル・マークは苦杯を舐める結果になった。

 連敗を喫しつづけてもなお8耐に参戦し続け、さらにヤマハに移籍してふたたび鈴鹿に戻ってきた24歳の彼に、8耐の何が魅力なのか、と尋ねたときのことだ。

「おかしなことだけど、レースを終えるたびにいつも『こんなつらい思いは二度とゴメンだ!』と思うんだ。体力的にもきついし、精神的にもつらいし、正直なところ、レースの最中でもバイクの上で『僕はいったい何をしてるんだろう?』と思うこともあるくらいだ」

 そう言って、少し照れたような笑みをうかべた。

「でも、2~3週間もすると、レースのことを思い出して、また走りたくなってしまう。あの勝利の格別な気分を、もう一度味わいたくてしようがなくなるんだ。だから僕は、毎年ここに戻ってくるんだ」

 この3選手が揃ったことで、ヤマハファクトリーレーシングチームは全参戦チーム中、唯一3名全員が優勝経験のある選手で構成されたチームとなった。本命視されるのも、当然だろう。

 7月30日午前11時30分にスタートした決勝レースは、3年連続のポールポジション。チームリーダーの中須賀がスタートライダーを務め、8時間にわたって3名がそれぞれの強さと速さを存分に発揮し、圧倒的な優位を築いて独走態勢に持ち込んだ。

 8時間を走りきって、トップでチェッカーを受けたときの周回数は216周。昨年よりも2周少なく、周回記録数の更新はならなかったが、レース序盤が雨を匂わせる微妙な天候であったことや、レース途中で転倒車処理のために何度かセーフティカーが入ってペースをコントロールしたことを考えれば、これは完璧といってもいい周回数かもしれない。

 チェッカーライダーとなったロウズは「日没後の最後のスティント(走行)はちょっと緊張したけど、チームメイトのふたりがしっかりと後方との差を築いてくれていたから、最後まで集中して走りきった」と安堵の笑顔を見せた。

 レース前には、まだヤマハのマシンに順応している最中だと話していたファン・デル・マークも「メーカーを移籍した初年度に勝てて格別な気分だ。最高のチームだし、ヤマハもスタッフも全員が本当にすばらしい仕事をしてくれた」と心底うれしそうな口調で述べた。そして、レース直後はいつも二度と走るものかと感じる、と話していた10日ほど前の言葉を一変させて「来年もまたここに戻ってきて、皆の前で勝利を達成したい」と上気した表情で語った。

 来年のレースは、ヤマハと中須賀たちにとって史上空前の4連覇がかかった年になる。41回目の鈴鹿8耐に向けた新たな歴史は、すでにゆっくりと胎動を始めている。