スケートボードを長年撮影していると、こんな質問をされることがある。「この技ってボードが裏返ってる瞬間を使うんじゃないんですか︎」「踏み切りも着地も、どんな技なのかも全部わかるのにどこがダメなんですか?」それらの写真について、選手や専門家と話…
スケートボードを長年撮影していると、こんな質問をされることがある。
「この技ってボードが裏返ってる瞬間を使うんじゃないんですか
︎」
「踏み切りも着地も、どんな技なのかも全部わかるのにどこがダメなんですか?」
それらの写真について、選手や専門家と話すと、こんな会話になる。
「なんか技に失敗してるみたい」
「あのセクション(障害物)の意味ないじゃん」
まず、ここまでの流れでピンと来た方はかなりのスケートボードマニア。
そう、これは昨年Yahoo!ニュースエキスパートに公開し、驚異的な閲覧数とともに月間MVA(Most Valuable Article)も獲得した『スケートボード写真の「それじゃない」感 選手や業界関係者と、スポーツ報道のズレ』と同じ構成だ。
当時と比べれば、今は伝える側(卓越した人が伝える専門メディアではなくマスメディア)の知識や経験も増えたので、選手や専門家の意図を汲んだ写真にしようという意図が伝わるカットも増えたが、それ以上にスケートボード写真の世界は奥深く、上記の記事内容も氷山の一角に過ぎないので、今回はさらに掘り下げた内容をお届けしていきたい。
まずは前回のキーポイントとなった「暗黙のルール」からおらさい。それは以下の2点になる。
・トリックのピーク (1カットで何のトリックを行なっているのかわかる一瞬) を押さえる
・アプローチと着地点 (どこで踏み切ってどこに着地しているのか) を収める
前回はこれらについて自分の写真を用いて解説したのだが、今回はそこを理解した先に陥りやすい誤認識や疑問について説明していく。
「どんな技かわかりやすい」がピークではない
まずスケートボードの撮影をする時、最も重要となるのが、何のトリックをしているのかがわかることだ。もちろんそれは間違いではない。
ただそればかりに囚われると、今度はスケートボードで最も重要な個性やスタイルが表現できなくなる。
次の2枚の写真を見比べてほしい。
裏返っている瞬間は確かにわかりやすいが、ピークかと言われると
︎
これはキックフリップというつま先を背中側前方に擦り抜いて、ボードに縦回転を加えるトリックにになるのだが、それであればこの裏返っている瞬間が、どんな技であるのかが最もわかりやすいし、馴染みのない人でもすぐに理解できるだろう。
ではこの写真はどうだろうか。
このように身体を屈めて、最も高い位置に足がある一瞬こそピーク。そこには選手の個性も詰まっている。
今にも1回転し終わるタイミングなので、一見どんなトリックなのか分かりづらい人もいるかもしれない。
だが、「トリックのピークを押さえる」という暗黙のルールに従うと、実はこちらの方がふさわしいのだ。
その理由として注目してほしいポイントは足とボードの位置。
上の写真は前足で擦り抜いた直後になるので、ボードが裏返ってはいるものの、まだ跳ね上がっている途中で、前足も上方に擦り抜いたまま。後ろ足も引き上げている途中になる。それなのにピークというには無理があるだろう。その1テンポ前といった方が正しい。
対して下の写真は、ボードがほぼ回りきる瞬間ながら、両足を引き上げながら前方へ突き出し、ボードを捉えようとしていることがわかるし、1テンポ前と比べても高い位置にあるので、高さも最高潮を迎えている。
この技はハンドレール(手すり)を跳び越える瞬間が醍醐味なので、それであればボードも人間も最も高い位置にある瞬間をピークと見るのが妥当だろう。
でも、「このタイミングでは何のトリックかわからない」という人もいるかもしれないので補足しておくと、
「前足のスナップを効かせて背中側前方に擦り抜き、写真から見て反時計回りにボードを1回転させたところを両足でキャッチする」というキックフリップの動作を正確に把握できているかが重要になってくる。
そこを完全に理解していると、ピークの写真はどう見えるだろうか。
前足は背中側前方につま先を突き出したような構えになっているので、前足のスナップを効かせて背中側前方に擦り抜いた直後だとわかるし、反時計回りに回転するボードの軌道がわかっていれば、この後右側が上がってきて真上から捉えにきている両足に収まるんだなということが推測できる。そうやって成功している姿が想像できるからこそ、下の写真が”ピーク”となるのだ。
他の技を組み合わせるとどう見える
︎
では「他の技だとどう見えるの
︎」という人もいるかもしれないので、キックフリップバックサイドテールスライドという複合技でも見てみよう。
これは上記のキックフリップに加え、背中側にある対象物にテール(ボードの後端)を掛けるバックサイドテールスライドという動作も加わった非常に難易度の高いトリック。そこでボードが裏返っている瞬間はどうなっているのか見てみよう。
複合技の場合は対象物の高さに合わせ、高さを抑えたピンポイントなキックフリップが必要になることも多い。するとピーク手前の裏返っている瞬間は、ボードは明らかに低い位置にある。
ボードが対象物のレールよりもかなり低い位置にあるのがわかるだろう。
これではどの部分を掛けようとしているのかがわかりづらいだけでなく、ここまで距離が離れていると対象物にボードが届かずに失敗しているようにも見える人もいるだろう。冒頭の「なんか技に失敗してるみたい」の意図はここにあるのだ。
身体を回転させながら後ろ足はつま先からボードを捉え、前足はボード上に戻ろうとしている。それだけでキックフリップ・バックサイドテールスライドとわかる
ではどの瞬間がピークになるのかというと、縦回転したボードをキャッチして後端をレールに掛けようとするこの写真になる。
ボードが裏返っていなくても、足とどのように触れているかで前後の動きがわかるため、ピークのタイミングとなる。
これを動作分析すると、まず後ろ足のつま先がボードの後ろ部分を捉えているのは、写真から見て反時計回りにボードを1回転させきった瞬間だからだ、400°くらいのところでキャッチしているといえばわかりやすいだろうか。
前足がボードから少し離れているのは、背中側前方に擦り抜いた足を戻そうとしているからで、この2点からキックフリップの動作入れていることが確認できる。
さらに身体は背中を進行方向に向けて80°くらい回っている状態であるし、レールのすぐ上にボードの後端があるので、この1テンポ先の動きかバックサイドテールスライドであることも推測できる。以上の要素から2つのトリックを入れた複合技であることがわかるため、ピークであるということができるのだ。
これが最初のキックフリップの説明も含め、冒頭の「この技ってボードが裏返ってる瞬間を使うんじゃないんですか
︎」という問いに対しての答えとなる。
アプローチと着地点の”全体像”が大切
となると、次は当然「踏み切りも着地も、どんな技なのかも全部写ってるのにどこがダメなんですか?」に対する答えとなるのだが、まずはこの写真を見てほしい。
一見なんの問題もないように見えるが、アプローチをよく見ると
︎
これはキックフリップでバンク(斜面)から上部のフラット部分に跳び移っている写真だ。どこから入ってどこに着地したかも確認できるので暗黙のルールにも則っている。
一見何の問題もないように思うかもしれないが、こちらの写真を見たらどう思うだろう
︎
こんなにバンク面が長いと当然人物は小さくなってしまう。ではどうするのが良いのだろう?
同じ選手、同じセクション、同じトリックであるにも関わらず与える印象は別モノになる。実はバンク面がすごく長かったのだ。
これだけ長ければ、当然アプローチは速いスピードが必要になるし、その分ボードコントロールがしづらくなり、難易度も高くなる。となれば、どちらの方がすごく見えるかは一目瞭然だろう。
スケートボードのライディング写真では、アプローチと着地のポイントを、”点”で見るのではなく”全体像”として捉えることが非常に重要なのだ。
これが、上記質問の答えとなる。
どこから撮るか!? がすごく重要
ただここまでバンク面が長いと、構図内に収まる人物は当然小さくなってしまう。
専門誌ならばそれでも全く問題ないが、一般に向けたマスメディアではトリックの難易度よりもわかりやすさの方が重要とされているし、第一に表情を捉えることを基本としているので、こういった類いの写真が選ばれることはないだろう。
ではどうすれば良いのだろうか!?
それはあらかじめベストポジションを確保して構えておくことだ。
以下の写真を見てほしい。
フォトセッションイベントで撮影したフロントフットインポッシブルのライディングカット。先ほどよりバンクは小さく、人物は大きい。
着地点側から撮影すると、バンク面を小さく見せれるので、アプローチと着地を全体像として捉えながらも、人物をより大きく見せることが可能になるのだ。
ただこれはコンテストではなくフォトセッションイベントで撮影した写真になるので、事前にどこでどんなトリックをするのかを確認してアングルを決め、その上でフラッシュもセットすることができるのシチュエーション。 そうなるとこのように印象強い写真に仕上げることができるのだ。
動きを予測して事前に動く
コンテストでは選手の目線や助走、スタンス(身体の向きや足を置く位置)から動きを予測し、予め撮影ポジションに移動することがとても大切だ。
ではコンテストのは時はどうすればいいの
︎
というと、さすがにライティングをするのは無理でも、着地点側に立つことは運営サイドの許可さえとれれば可能だ。
だがそれだけで良い写真が撮れるわけではない。自分の狙ったアングルで都合よく選手が技をやるなんてことは、まずないからだ。
そこで必要になるのが、動きを予測して事前にベストポジションに移動しておくことだ。
そのためには選手の得意技も把握しておかなければならないし、どういう流れでランを構成していくのかも、直前練習を見るなりして確認しておく必要がある。そうした経験を積み重ねて知識を身につけることで、初めて選手も含め、より多くの人が好む写真を撮影することができるのだ。
ただ中には突然技を変えてくる選手もいるし、何が起こるかは本番になってみないとわからない。そのため予測が百発百中で当たることなどまずない。
だからこそ自分は、今まで培ってきた経験と知識を活かして、頭をフル回転させながら常に動き回って撮っているのだが、それが本当に楽しいし、気が付けば毎回夢中になっている。
そうして思い通りに最高の写真が撮れた時の高揚感は、何にも変え難い至福の瞬間でもある。
では最後にひとつ質問をさせていただきたい。自分に以下の2つの撮影オファーがきたとします。
ひとつは有名な国際大会だけど、オフィシャルではなく取材申請が必要で、撮影ポジションが定められた自由度が低いオファー。
もうひとつは、地区大会だけどオフィシャルのポジションで、自分の好きなように動き回って撮影できるオファー。
皆さんならどちらを選びますか?
自分ならば間違いなく後者を選択するでしょう。
知名度があるコンテストはそれだけで撮っていて楽しいので、オフィシャルではないポジションでも撮ることはありますが、例え地区大会でも、運営側に信頼されて自由に撮れる撮影の方が純粋に楽しいし、今回書いたようなポイントも理解してくれています。もちろん有名な国際大会でオフィシャルカメラマンで入れるに越したことはないので、そのためにも自分はこれからも自分の写真スタイルをさらに追求していきたいと思っています。
吉田佳央 / Yoshio Yoshida(@yoshio_y_)
1982年生まれ。静岡県焼津市出身。
高校生の頃に写真とスケートボードに出会い、双方に明け暮れる学生時代を過ごす。
大学卒業後は写真スタジオ勤務を経たのち、2010年より当時国内最大の専門誌TRANSWORLD SKATEboarding JAPAN編集部に入社。約7年間にわたり専属カメラマン・編集・ライターをこなし、最前線のシーンの目撃者となる。
2017年に独立後は日本スケートボード協会のオフィシャルカメラマンを務めている他、ハウツー本の監修や講座講師等も務める。
ファッションやライフスタイル、広告等幅広いフィールドで撮影をこなしながら、スケートボードの魅力を広げ続けている。
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