宇都宮市森林公園の特設コースで10月15日、アジア最高峰のワンデイレースであるジャパンカップサイクルロードレースが開催された。ジャパンカップは、UCI(世界自転車競技連合)プロシリーズのレースとされている。ツール・ド・フランスなどが分類され…

宇都宮市森林公園の特設コースで10月15日、アジア最高峰のワンデイレースであるジャパンカップサイクルロードレースが開催された。ジャパンカップは、UCI(世界自転車競技連合)プロシリーズのレースとされている。ツール・ド・フランスなどが分類される最高峰の
ワールドシリーズに次ぐレベルの高い大会だ。

※前日のジャパンカップクリテリウムのレポートはこちら

世界のトップスターたちが来日し、本気の参戦をすることで注目を集め、例年、多くの観客を集めて開催している。今年はあいにくの雨に見舞われ、気温も低く、集客が危ぶまれたが、早朝から、続々とファンが会場に現れ、宇都宮駅へのシャトルバスは始発からにぎわったという。
コースは標高差185mの10.3kmの周回を使用する。今年は記念大会ということで、2周伸ばし、16周164.8kmの設定となっていた。





古賀志林道の登りが特徴的なコース。標高差は185m(大会公式サイトより)

コースはメイン会場となる森林公園からスタートすると、すぐに上り基調となる。緩やかな上りの赤川ダムを抜けると、ジャパンカップを象徴する古賀志林道のつづら折りに差し掛かる。坂を駆け上がる選手の息遣いが聞こえるほど近くで観戦できるため、多くの観客が沿道を埋め、路面には応援コメントをチョークでペイントするのも、大会の名物だ。この上りの頂上が山岳賞ポイント。ここから県道を抜け、最後はまた上ってフィニッシュとなる。



古賀志林道頂上のKOM(山岳賞)ポイントには、多くの観客が集まり、熱い声援を送った photo by Kei Tsuji

クライマーにとっては、違いを見せつけられるほどの厳しい上りはなく、平坦区間も短くないため、パンチ力のある総合力にすぐれた選手に向いているコース。例年、このコースで厳しいサバイバルレースが展開される。

スタートが近づくと、続々と選手が集まってくる。雨はそれほど強くない。だが、悪天候によるコンディションを踏まえ、コミッセールから3周減周の判断が下された。結果的に、例年より短い、13周133.9kmで競われることになった。
スタートライン最前列に並んでいた国内チームを塗り替えるかのように、来日したワールドツアーチームがその前に列を作って並び、スタートの時を待った。示した「やる気」に緊張感が走る。佐藤市長の号砲で、いっせいにスタート。



雨の中、スタート。一気にペースがあがっていく photo by Kei Tsuji

例年は、国内チームを含む逃げ集団が形成され、山岳賞を獲得し、終盤にワールドツアーチームがペースアップ、きびしいふるい落とし合戦の後に精鋭たちのゴール決戦、という展開が定番だった。
だが、今年は違った。1周目から、いっせいにワールドチームが仕掛け始めたのだ。ハイペースに集団は長く伸び、容赦なく次々と攻撃が仕掛けられる。



ペースが上がり、長く引き伸ばされる集団 photo by Kei Tsuji

2周目。レースは、前日に引き続き、完全に想定外の展開へ向かっていった。今年来日したスター中のスター、ジュリアン・アラフィリップ(スーダル・クイックステップ)が、自らアタック。ハンドルを軽く左右に振りながら、古賀志林道を軽やかに駆け上がるアラフィリップの姿を間近に見た観客は大熱狂だった。



単独で先行し始めたジュリアン・アラフィリップ(スーダル・クイックステップ)。行く先々にうねりのような熱狂的な声援が沸き起こる photo by Yuichiro Hosoda



激しい雨の中、水しぶきを上げて進んでいく集団 photo by Satoru Kato

ここに、前日のクリテリウムでも存在感を見せたパスカル・イーンクホールンとマキシム・ファン・ヒルス(以上 ロット・デスティニー)、アクセル・ザングル(コフィディス)が合流し、先頭集団を形成した。



先頭を追う追走集団 photo by Kei Tsuji

集団はこの時点で大きく絞り込まれ、すでに追走可能な状態で走るのは20名あまりになっていた。



展開に加わることのできる選手たちがシビアに絞り込まれて行った。日本人からは唯一岡本隼(愛三工業レーシングチーム)が食らいついた(左端)photo by Kei Tsuji

山岳賞がかかる3周目、アラフィリップは単独で抜け出し、大声援の中、1周目の山岳賞を獲得。そのまま単独で先行を続けた。
アラフィリップを追う集団には、昨年2位、今年のツール・ド・フランスで山岳賞を獲得しているアンドレア・ピッコロ(EFエデュケーション・イージーポスト)、日本好きで知られ、高いモチベーションで臨むギヨーム・マルタン(コフィディス)、研修生ながら直前のビッグレース「パリトゥール」を制したミラクルボーイ、ライリー・シーハン(イスラエル・プレミアテック)、過去に2度大会を制したバウケ・モレマ(リドル・トレック)、世界選手権王者で、今年後半に調子を上げているルイ・コスタ(アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ)など、優勝候補はきっちりと名を連ねていた。この中には、唯一国内チームから岡本隼(愛三工業レーシング)が加わっていた。この時点で、この後ろの集団とタイム差が縮まると予想する要素はない状態となったと言えよう。



古賀志林道を駆け抜ける photo by Kei Tsuji

ここに一人も送り込めなかったバーレーン・ヴィクトリアスは、新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)が率いる追走集団を作り、ヘルマン・ペルンスタイナー(バーレーン・ヴィクトリアス)らを連れて、先頭を目指し、合流を果たした。
アラフィリップは2回目の山岳賞も獲得し、走行を続けたが、8周目後半についに追走集団に吸収された。
3度目の山岳賞はジェームス・ノックス(スーダル・クイックステップ)が獲得。これで、クイックステップが3回山岳賞を獲得したことになった。

先頭集団は落ち着かず、飛び出しと吸収が繰り返される。また、アラフィリップが攻撃を仕掛け、集団を揺さぶる。冷たい雨が降りしき中ではあるが、観客の興奮が冷めない展開が続いた。
そして、ラスト3周。
マキシム・ファン・ヒルス(ロット・デステニー)が単独で先行していたアラフィリップを捉えた。



逃げ続けたアラフィリップをマキシム・ファン・ヒルス(ロット・デステニー)が捉えた photo by Kei Tsuji

だが、ファン・ヒルスの先行は決定的な動きにはならず、じわじわとタイム差が縮まっていった。追い上げた集団から、世界王者も経験してきたベテラン、ルイ・コスタ(アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ)が飛び出し、最後の山岳賞をトップ通過した。
フェリックス・エンゲルハルト(チーム・ジェイコ・アルウラー)とギヨーム・マルタンが飛び出し、先行するコスタを追い始めた。2名は好ペースを刻み、じわじわとコスタを追い詰める。



ギヨーム・マルタン(コフィディス)、ルイ・コスタ(アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ)フェリックス・エンゲルハルト(チーム・ジェイコ・アルウラー)3名の集団が形成され、最終周回に入る photo by Kei Tsuji

ついに、コスタに合流し、3名の集団ができたところで、最終周回に突入。
6名の集団が追走に入っていたが、この時点で差は1分。厳しいレースと悪天候で疲弊した選手にとっては、大きなタイム差だ。
3名は互いの様子を見ながら、フィニッシュを目指す。リスクのある仕掛けを嫌ったのか、大きな動きがないまま、フィニッシュが近づいてくる。タイム差は縮まらず、事実上、3名の間での決戦で勝者が決まる流れになった。

ようやく動きが生まれたのはラスト300m。最初に動いたのは、マルタンだった。ロングスプリントを始めたマルタンを、絶妙なタイミングでスプリントに入ったコスタは、パワフルに加速。ぐんぐんと伸び、力強いガッツポーズを見せながら、フィニッシュラインを越え、記念すべき30回記念大会の勝者となった。



巧みなスプリントで制したルイ・コスタが勝者となった photo by Makoto AYANO

2位にはエンゲルハルト、3位にマルタンが入っている。

「テンポの速い厳しいレースだった。雨と寒さで、更に厳しいレースとなった」と振り返ったコスタは、「強いチームで臨んでいたので良い結果を残そうと思っていた。優勝できて本当に嬉しい」と、雨が上がり、嘘のような青空が広がった表彰式で、笑顔で語った。



優勝したコスタ、エンゲルハルト、マルタンの表彰台。降り続いた雨が上がり、晴天の下での表彰式となったphoto by Makoto AYANO

国内勢の中から唯一展開に足跡を残した岡本隼がアジア最優秀選手賞を獲得した。



アジア最優秀選手賞を獲得した岡本隼 photo by Satoru Kato

山岳賞の表彰は、アラフィリップとコスタという世界王者が二人並ぶ圧巻の光景に。



2回の山岳賞を獲得し、二つの花束を持つアラフィリップ photo by Makoto AYANO

雨の中、最後まで声援を送り続けた観客たちの多くが会場に残り、大きな歓声で最後の最後まで、表彰式を彩った。
悪天候にも関わらず、およそ8万人が観戦に訪れたジャパンカップサイクルロードレース。観客が放つ熱気に応えるように、世界のトップスターたちは、冷たい雨の中でも、全力で戦う姿を見せてくれた。

このレースの観客動員数は74,000人(主催者発表)。観戦を終えた観客は、目の前を駆け抜けた世界のトップ選手のスピードや迫力に圧倒されたと、興奮気味に語ってくれた。
トップレーサーのレスペクトを受ける大会に成長したジャパンカップ。宇都宮市の佐藤市長によれば、これからも、なおいっそうの成長を続けていく予定だという。これまでレースに足を運んだことのない方々も、来年のジャパンカップはぜひ現地で観戦してみてほしい。

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【結果】ジャパンカップサイクルロードレース
1位/ルイ・コスタ(アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ、ポルトガル)3時間28分22秒
2位/フェリックス・エンゲルハルト(チーム・ジェイコ・アルウラー、ドイツ)
3位/ギヨーム・マルタン(コフィディス、フランス)+2秒
4位/マキシム・ファン・ヒルス(ロット・デスティニー、ベルギー)+27秒
5位/ゲオルク・ツィンマーマン(アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ、ドイツ)+1分34秒

【山岳賞】
3周目、6周目/ジュリアン・アラフィリップ(スーダル・クイックステップ、フランス)
9周目/ジェームス・ノックス(スーダル・クイックステップ、イギリス)
12周目/ルイ・コスタ(アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ、ポルトガル)

※( )内の国名は、選手の国籍

画像  ©JAPAN CUP CYCLE ROAD RACE 2023

※トップの写真
宇都宮市森林公園の特設コースで開催されたジャパンカップサイクルロードレース。photo by Makoto AYANO