(写真:Getty Images) 天地を揺るがす轟音だ。 29日の大宮戦の49分、ルーカス・ポドルスキの左足シュートは、強烈な弾道というよりはテクニカルなモノだった。ゴールネットを揺らすとスタジアムは衝撃で音を失い、その直後、大歓声に一変…


(写真:Getty Images)

 天地を揺るがす轟音だ。

 29日の大宮戦の49分、ルーカス・ポドルスキの左足シュートは、強烈な弾道というよりはテクニカルなモノだった。ゴールネットを揺らすとスタジアムは衝撃で音を失い、その直後、大歓声に一変した。後方支援を続けた岩波はうなる。「決めるべき選手が決めた」。“世界”の冠をその頭上に掲げ、神戸の新背番号10を背負うポドルスキ。多くの人が待ちわびたJデビュー戦で“本物”の意味を知らしめた。

 22日のプレシーズンマッチ・仙台戦で日本初実戦を経験したポドルスキ。2トップの一角ながらも中盤で司令塔のようにボールをさばいたが、この大宮戦は“裏抜け”こそなかったものの、ポジションを可能な限り高く取った。ネルシーニョ監督の戦術では、「落ちる」と形容される、ポジションを下げてボールを受けるプレーは必ずしも求められていない。この試合で見せた前目のポジション取りは彼にできる、戦術を体現しようとするフォア・ザ・チームの心意気。その姿勢は後半の守備修正で大きな結果を導いた。

 指揮官の指示した修正を三原は代弁する。「CBにもジャストのタイミングで(プレスに)行けるなら行っていい。駆け引きしろ」。ブロック守備に偏り、良い位置でのボール奪取が停滞した前半から一転、ポドルスキは前線からのプレスを果敢に実行。さらに、松下は「FWが縦関係のイメージ」と、渡邉が相手ボランチをマークし、ポドルスキが高い位置を維持していた後半の状況を説明する。“良い守備”のスイッチを入れたポドルスキは高い位置でタメを作り、縦に飛び出す神戸自慢の“良い攻撃”をも呼び込む。そこにチームの積み上げてきたスタイルが出現した。

 勝負を決めたのはポドルスキの2得点目となる技ありのヘディング弾だが、3得点目を挙げた田中英をピッチ上で最も祝福したのもポドルスキだ。チームメートが親しみを込めて「ルーカス」と呼ぶ背番号10。その真価は、初陣から至福の時間に昇華した。

文・小野 慶太