GP行きのラストチャンスをつかんだ梅川風子 photo by Takahashi Manabu【欠場覚悟の体調不良を乗り越えV】「今でも不思議です。こんなことがあるんだなというミラクルが起きた」 3日連続1着の完全優勝で「第1回競輪祭女子王…


GP行きのラストチャンスをつかんだ梅川風子

 photo by Takahashi Manabu

【欠場覚悟の体調不良を乗り越えV】

「今でも不思議です。こんなことがあるんだなというミラクルが起きた」

 3日連続1着の完全優勝で「第1回競輪祭女子王座戦」を制した梅川風子(東京/112期)は、喜びと驚きの入り混じった表情でレースをそう振り返った。

 11月21日から23日にかけて開催された競輪祭女子王座戦は今年から新設されたガールズケイリンにおけるGⅠ開催の最終戦。舞台となった小倉は競輪発祥の地として知られ、期間中は車内が競輪祭一色にラッピングされたモノレールが走り、会場の北九州メディアドームには多くのファンが詰めかけ声援を送った。文字通り、お祭りムードが漂っていた。

 だが、ガールズケイリンを戦う選手にとって競輪祭は年末のガールズグランプリへの出場権を争う最後のレースとなる。賞金ランキングによる出場当落線上の選手はひとつでも上の順位を目指し、それ以外の選手もたった1枠残された女王の座だけを見据えて闘志を燃やす、宴とは正反対の異様な緊張感が場内を包んでいた。

 そして、その異様な空気は波乱となって順位に表れる。初日の予選で6月のGⅠ開催「パールカップ」の覇者にして賞金ランキング2位の児玉碧衣(福岡/108期)と、同3位の尾方真生(福岡/118期)が敗退すると、翌日の準決勝でも同1位の久米詩(静岡/116期)が敗れ、賞金ランキング上位の実力者が次々と姿を消すこととなった。

 そんな予選で存在感を放ったのは、2日連続1位通過を果たしたオールガールズクラシック女王の佐藤水菜(神奈川/114期)と梅川の2人。しかし、彼女たちはナショナルチームの活動で直前まで「2023ジャパントラックカップ」を戦うハードスケジュール下での参戦であり、梅川に至っては前日検査の段階で「過去一番悪い状態。8割方、当日欠場を覚悟していた」と振り返るほどのコンディション不良に見舞われていた。

【他の選手は「もはや見ていなかった」】

 それでも懸命に回復に努めた梅川は少しずつコンディションを戻し、レースを勝ち上がる。準決勝を終えてもコンディションは万全とは言えなかったが「絶対に諦めず、抜け目なくチャンスを見つけて仕掛けたい」と、あらゆる展開を想定しながら自分が勝つためのストーリーを模索した。

 そして迎えた決勝。梅川は2番車。隣の1番車にはナショナルチームで共に練習を積み、誰よりもその強さを理解している佐藤水菜が入った。スタート直後「誰も(前に)出ないと感じたし、前日から強気のレースをすると決めていた」佐藤がじわりと先頭に立つと、その直後にピッタリと梅川が続く。連日、後方から勝利を決めていた2選手が前方に固まる予想外の展開になった。

「(展開は)号砲が鳴るまで悩みに悩んでいました。出てみると佐藤選手がレースをコントロールする流れになって、今の調子で無理に(自分が)コントロールしようとしても負けは決定していると思ったので、佐藤選手の仕掛けをどう判断するかに切り替えました」

 勝機を伺う梅川は、とにかく前を走る佐藤が勝負するタイミングだけにフォーカスした。ラスト1周半では他の選手が一気に先頭へと仕掛ける姿も「もはや見ていなかった」と語るほどに研ぎ澄ませた集中力でギリギリまで佐藤の背後を追い続ける。そして最後の直線、外に持ち出した梅川が一瞬のスピードで僅かに前に出ると、そのままゴール線を駆け抜けた。


最後に佐藤水菜をかわした梅川(2番車、黒)

 Photo by Takahashi Manabu

 お互いに死力を尽くした勝負の直後、内を走るライバル佐藤にポンと背中を叩かれた梅川は力強く右の拳を突き出し喜びを表現した。所属チームで連載している自身のコラムで「サトミナ(佐藤水菜)を倒すのは私ってことで」と記した言葉が現実となった瞬間だった。噛みしめるようにゆっくりとバンクを回る梅川のウイニングランに、そして白熱のレースに、小倉のファンからは惜しみない拍手が贈られた。

【グランプリで4年前のリベンジを誓う】

「前も似たような展開になったことがあって、その時に冷静さを欠いて早く持ち出しての失敗を数多く経験していたので、今日は冷静に待てました。今回の開催は車番(レースごとに設定される選手番号)に恵まれたなと感じていて、勝ち上がり順位がキーにもなるといい勉強になりました」

 会見場でも冷静にレースを回想した梅川にとって初のGⅠタイトルは、同時に通算200勝のメモリアルでもあり、そしてガールズグランプリの出場権獲得も意味する。ガールズケイリンへの参戦機会が限られる梅川にとって、この1勝はあまりにも大きい。

 厳しいコンディションでの戦いとなった小倉の3日間を「できすぎです。よく戦った自分を褒めたい」と本人は笑ったが、休む間もなく沖縄での合宿を経て年末の祭典ガールズグランプリへ臨む。

「前回立川で出場したグランプリ(2019年)では落車になってしまったので、リベンジを果たしたいです」

 そう力強くコメントした梅川は自転車競技でパリ五輪を目指しており、来年1月のネーションズカップにいい状態で挑むためにも、12月29日のグランプリは必ず状態を上げて挑みたい一戦になるはずだ。

 競輪祭を終えて、ガールズグランプリ2023に出場する7選手も決定。梅川を含む3人のGⅠ覇者と賞金ランキング上位者が、年間女王の座を争い火花を散らす。もちろん、オールガールズクラシック覇者として出場権を持つ佐藤との再戦にも注目が集まる。

 GⅠ開催新設でスタートしたガールズケイリンの2023年もあと1カ月。激動の1年を締めくくる女王を決める戦いへ、役者は出揃った。

【Profile】
梅川風子(うめかわ・ふうこ)
1991年3月1日生まれ、長野県出身。4歳の頃からスケートを始め、スピードスケートの選手として全日本学生スピードスケート選手権500mで優勝を飾る。24歳でスピードスケートを引退して日本競輪学校(現日本競輪選手養成所)へ入学。26歳でデビューし、翌年にはガールズグランプリに初出場を果たす。ナショナルチームにも所属し、パリ五輪出場に向けて二足の草鞋を履いて奮闘中。