第11戦・ハンガリーGPはマクラーレン・ホンダにとって大きな試金石となる。 曲がりくねったツイスティなハンガロリンクは、パワーの大小がラップタイムに及ぼす影響が小さい。つまり、いつもパワー不足で苦戦を強いられているマクラーレン・ホンダ…

 第11戦・ハンガリーGPはマクラーレン・ホンダにとって大きな試金石となる。

 曲がりくねったツイスティなハンガロリンクは、パワーの大小がラップタイムに及ぼす影響が小さい。つまり、いつもパワー不足で苦戦を強いられているマクラーレン・ホンダの車体性能がいったいどれほどのものなのか、それがはっきりと見えてくるはずなのだ。



マシンの性能が問われるマクラーレン・ホンダのハンガリーGP

 ザウバーとの2018年以降の提携解除が決まった今、マクラーレンとホンダの関係は重要な局面を迎えている。ここで車体性能とパワーユニットの性能をはっきりと確認し、シーズン後半戦、さらには来季に向けた前向きな展望と手応えを掴み取りたいところだ。

 ハンガリーGPの週末を前に、フェルナンド・アロンソは言う。

「バクー(第8戦)やシルバーストン(第10戦)では(パワー不足のせいで)大きな影響を受けて厳しいレースを強いられてきたけど、ここはサーキットレイアウト的にポジティブなレースができる。僕らはパワーユニットとマシンのそれぞれの弱点をわかっているし、ここでは僕らのパッケージの強みが生かせるはずだ。コーナーの多いツイスティなコースなので、そこまでパワーが必要ではなく、シャシー性能で勝負できるからね」

 ストフェル・バンドーンもハンガロリンクでの好走に期待を寄せている。

「ここはコーナーが多くて、とてもツイスティなサーキットだ。そういうコーナーでウチのクルマがいいパフォーマンスを発揮してくれることはわかっている。そしてパワーセンシティビティが低いサーキットのひとつでもある。だから計算上は、僕らにもチャンスがある」

 バクーやシルバーストンのようなパワーサーキットでは、10kW(約13.6馬力)の差がラップタイムにして0.25秒に値する。しかしハンガロリンクでは、それが0.15秒程度まで小さくなる。パワー差によるハンディは4割も小さくなるのだ。

 それは、ルノー製パワーユニットの非力さに苦しむレッドブルにも大きな追い風となる。

「レッドブルのためにあるようなサーキット」

 つまり、圧倒的な空力性能を持つレッドブルの車体が速さを見せるレイアウト。フォースインディアの松崎淳エンジニアはハンガロリンクのことをそう形容する。

「ここは中速から中低速のコーナーが多いサーキットです。今年はマシンの変更によって全開率が多少上がるでしょうが、それでもパワーはそれほど効かない。それよりも、とにかく効くのはダウンフォースです。レッドブルのためにあるようなサーキットと言っても過言ではありません」

 それはメルセデスAMGやフェラーリも認識しており、またレッドブル自身も認めている。

「このサーキットはパワーの影響が少ないし、その意味で僕らにいくらかの追い風を与えてくれる。だから上位との差は縮まる」(ダニエル・リカルド)

「ここ数戦とは違い、ハンガロリンクはモナコ以来の最大ダウンフォースで走るサーキットだ。レッドブルもかなり速いはずだし、上位勢はかなりタイトな争いになるだろう」(バルテリ・ボッタス)

 となれば、空力性能は高いと言われ、車体単体の性能ではレッドブルにも追いつきつつあると言われるマクラーレンMCL32と、レッドブルRB13の差に俄然注目が集まってくる。

 スペック3を投入してからのホンダは、ルノーに対して20kW程度の差まで追いついてきていると見られている。つまりハンガロリンクでは、ラップタイムにして0.3秒程度だ。マクラーレン・ホンダがレッドブルに0.3秒差まで迫ることができれば、車体性能としては互角だと見ることができるというわけだ。

 だからこそマクラーレンは、このハンガリーGPを重点レースと捉え、ずいぶん前からここをターゲットに開発してきた大型アップデートを持ち込んできた。チーム関係者によれば「前後ウイングともに刷新し、モナコGPを上回るダウンフォース量を発揮する最大ダウンフォースパッケージ」だという。

 問題は、そのアップデートが想定どおりに機能してくれるかどうかだ。

 マクラーレンは実走で、空力パーツが風洞実験のとおりに機能せずアップデートに失敗するということを何度か経験してきている。昨年に比べればずいぶんよくなったとはいえ、今年も中国(第2戦)やオーストリア(第9戦)で”失敗作”があった。

「もう3年もやってきて、まだこういうことが起きているのは、100%正確なコラレーション(誤差補正)ができていない証。たまたまうまくいけばいいが、失敗することも多々ある」(チーム関係者)

 アップデートの可否だけでなく、信頼性の懸念もある。パワーユニット面はもちろん、イギリスGPの燃料漏れのように車体側のトラブルも後を絶たない。

 アロンソもその点は心配している。

「ここ数戦に比べればベターなレース週末になるはずだけど、どれだけコンペティティブかは走ってみなければわからないし、トラブルなくスムーズな週末を過ごしてポイントを獲れることを祈っているよ。それが今週の目標だ」

 実はレッドブルも、アップデートを持ち込んできている。それも空力哲学を変えて、さらなる飛躍を目指す大型アップデートだ。

「ラップタイムという意味ではそれほど大きくはないかもしれないけど、見た目や(空力的な)考え方という点では大きな違いがあるんだ。アップデートは基本的にすべて空力に関するもので、風洞実験の結果によればダウンフォース量の面でかなり助けになっているよ」(リカルド)

 進化し続けるレッドブルと比べて、マクラーレン・ホンダMCL32はどれほどの車体性能を秘めているのか。モナコ以来の最大ダウンフォースサーキットで、その答えがこれまで以上に鮮明に見えてくるはずだ。その結果によっては、パワーユニットも「スペック4」へとさらに進化するシーズン後半戦に希望が見えてくる。

 だがアロンソは、それほど楽観視はしていない。3強チームの壁は高いと見ているのだ。

「フェアに言うなら、7位というのが僕らに望みうる最高の結果だと思う。トップ3チームの6台は基本的に射程圏外だ。理論上は7位が最大限だろう。でも、そこからどこまでいけるか。逆にトロロッソやルノー、フォースインディアやウイリアムズだってコンペティティブだろうし、僕らは一歩ずつ前に進む必要がある。まずはQ3に進み、2台ともにしっかりとポイントを獲ることだ。それが僕らにとっての第一歩になると思う」

 実のところ、昨年のハンガリーGPでアロンソはFP-1(フリー走行1回目)から決勝まで全セッションで7位という結果を記録している。今年もその3強チームの壁を乗り越えることはまだ難しいと言う。

 それでも、手を伸ばしても届かないほどの差を見せつけられるのと、むしろその差が縮まっているのが見えるのとでは、大きく意味は違ってくる。

 厳しい視線を向けながらも、アロンソはここハンガリーで自分たちの真価を試すのを楽しみにしている。

「ハンガロリンクを今シーズンここまでで一番のポイントにしたい。そして、シンガポール(第14戦)やシーズン終盤にはもっといい場面も作り出せればと思っているよ」

 車体性能がモノを言うハンガロリンクで、マクラーレン・ホンダはどこまで上位に肉薄できるのか。真の試金石を見逃してはいけない。