ラストチャンスに挑む山原さくら(左)と梅川風子(右) photo by Ikeda Seitaro(左)【ガールズケイリンGⅠのラストを飾る一戦】 ガールズケイリンのGⅠ開催「第1回競輪祭女子王座戦」が、11月21日(火)から23日(木・祝…



ラストチャンスに挑む山原さくら(左)と梅川風子(右) photo by Ikeda Seitaro(左)

【ガールズケイリンGⅠのラストを飾る一戦】

 ガールズケイリンのGⅠ開催「第1回競輪祭女子王座戦」が、11月21日(火)から23日(木・祝)にかけて小倉競輪場で行なわれる。

 今年からガールズケイリンに新設されたGⅠ開催は3つ。いずれも勝者には年末に行なわれる最高峰のレース「ガールズグランプリ」への出場権が与えられるとあって、重要な一戦になる。

 6月の「パールカップ」を制した児玉碧衣(福岡/108期)と10月の「オールガールズクラシック」優勝の佐藤水菜(神奈川/114期)が、既にガールズグランプリ出場を決めており、残る"直通切符"はあと1枚。28選手によるトーナメントで争われる競輪祭女子王座戦は、ラストチャンスを狙う選手による熾烈なバトルとなること必至の状況だ。

【山原さくらが考える勝機】

「賞金ランキングではグランプリ出場が厳しい順位にいるので」

 自身の現在地をそう分析したのは、昨年のガールズグランプリ準優勝の山原さくら(高知/104期)だ。7選手が出場できるガールズグランプリには、従来と同様に賞金ランキング上位者の出場枠も残されているが、取材時点で山原は9位。年末の祭典へと駒を進めて昨年の雪辱を晴らすためには、この開催が実質ラストチャンスと睨んでいる。

「自分は狙いすぎると結果がよくないタイプなので、いつも通り走れるように」と、平常心でのレースを掲げる山原。今年から始まったGⅠ開催には、彼女自身も会場に独特な雰囲気があると感じている。

 ガールズによるレースのみとなったオールガールズクラシックでは、大勢のファンが競輪場に詰め掛けた。山原も「声援がすごくて、ああいう景色が見られるのはこれまでと格段に変わったところ。GⅠっていいなと思える開催だったし、今回もふだんよりピリっとすると思う」と、大舞台ならではの空気を想定している。

「今年はビッグレースをたくさん走らせてもらえて、収穫のあるレースも多かったです。(競輪祭では)他の選手もグランプリを狙って来ているので簡単ではないですけど、まずは決勝に乗らないといけないと思っています」

 今夏の山原は自らも驚くほどの絶好調ぶりを見せ、勝利を積み重ねた。その反動もあってか一度は調子を落としてしまった。それでも、再び「体も動いて粘りもダッシュの感じもよかった」今夏のコンディションと同様に仕上げられれば、勝機は十分にあると踏んでいる。


ガールズグランプリ出場を目指す山原

 photo by Takahashi Manabu

【「競技者にも平等にチャンスがある」梅川風子】

 自転車競技のナショナルチームとの両立でガールズケイリンへの出場機会が限られている梅川風子(東京/112期)も、グランプリへの直通切符の貴重さを痛感している。

 梅川は「最初で最後のチャンス」との強い意気込みで2024年パリオリンピックへの出場を目指しており、自転車競技の各種大会への出場が活動の軸となっている。今回の競輪祭女子王座戦も、直前に自転車トラック競技の大会「ジャンパントラックカップ」への出場が予定されているハードなスケジュールだが、それでも虎視眈々とグランプリの権利を狙う。

「GⅠが新設されたことで自分たちみたいな競技者にもチャンスが生まれたと思います。正直、楽なスケジュールではないですけど、(ジャパントラックカップと違って)ガールズケイリンは1日1本に集中すればいいので体力的になんとか『しのげる』という表現が正しいですかね」

 今年はUCIトラックネーションズカップ第1戦(2月)のケイリンで銅メダルに輝くなど「気負いなく走れて結果も伴った」と成果を挙げたが、「(8月の)世界選手権では固くなってしまった部分もあった」と振り返る。「ガールズケイリンでは修正点をひとつひとつレースで修正している段階」と自己評価するように、飽くなき向上心を持って"二刀流"をこなしている。

 自ら「活動場所であり収入源」と表現するガールズケイリンで大きな結果を残すためにも、ここは是が非でも結果が欲しいはずだ。

 ここ2年はガールズグランプリの舞台から遠ざかっている梅川だが、2018年から3年連続での出場経験を持つ。過去には小倉で開催されたガールズグランプリトライアルレースを制して出場権を獲得しており、経験値に不足はない。


ナショナルチームでも活躍する梅川

【小倉のバンクで問われる

「動く勇気」】

 競輪祭女子王座戦では、既にガールズグランプリ出場を決めている児玉碧衣、佐藤水菜も「GⅠ二冠」を目指して出場してくるとあって、ハイレベルな争いとなるのは間違いない。

「児玉選手も佐藤選手も強いので、本当は『出ないで』と思いますけど、こういう機会だから学べることもあります。トップ選手はスピード感もレース前の集中の仕方も一流だなと感じますし、年々ガールズのレベルも上がってきていると思います」(山原)

「サトミナ(佐藤水菜)は練習相手なので強さを知っていますし、レーステクニックも他の人にないものを持っていると思います。今のガールズケイリンはレベルが上がってスピードが同等になってきた分、さらに上に行くためにはテクニックやレース戦略も必要になっていると感じますね」(梅川)

 山原、梅川、両選手ともガールズケイリン全体のレベル向上を実感し、トップ選手を意識した戦術を組み立てている。そこで鍵を握るのは、全天候型としては世界最大規模の小倉競輪場のバンクだ。屋内のため条件は常に無風で、傾斜も急こう配。スピードが落ちづらく、高速バンクと評されることも多い。

 山原が「いいメンバーのなかで後方になってしまうときついので、早めに仕掛けられるように練習を積んでいきたい」と語れば、梅川も「動かなければ動かないほど強い選手に展開が向く。いかに自分で動かす勇気を持てるか」を勝負のポイントに挙げた。

 誰が最初に動くのか、その動きに呼応するのは誰なのか。7人でのレースで、自分が勝ちきる展開を全選手が模索する。思惑が渦巻く小倉決戦。どれほど混戦になっても、グランプリへの切符はラスト1枚だ。

【Profile】
山原さくら(やまはら・さくら)
1992年12月11日生まれ、高知県出身。高校時代に自転車競技をやり始め、高校3年のJOCジュニアオリンピックカップ自転車競技大会のスプリントで優勝し、翌年の全日本アマチュア選手権大会 スプリントでも優勝を飾る。19歳の時に日本競輪学校(現日本競輪選手養成所)に入り、20歳でデビュー。その後は着々と優勝を積み重ね、2023年4月にガールズケイリン史上3人目となる通算500勝を達成した。

梅川風子(うめかわ・ふうこ)
1991年3月1日生まれ、長野県出身。4歳の頃からスケートを始め、スピードスケートの選手として全日本学生スピードスケート選手権500mで優勝を飾る。24歳でスピードスケートを引退して日本競輪学校(現日本競輪選手養成所)へ入学。26歳でデビューし、翌年にはガールズグランプリに初出場を果たす。ナショナルチームにも所属し、パリ五輪出場に向けて二足の草鞋を履いて奮闘中。