近年、ストリートスポーツ及びアクションスポーツとして人気度と知名度が上がってきている自転車競技「BMX」。現在はBMXレーシングだけではなく、BMXフリースタイルパークもオリンピック種目になったことから、ここ数年でBMXというワードを耳にす…

近年、ストリートスポーツ及びアクションスポーツとして人気度と知名度が上がってきている自転車競技「BMX」。現在はBMXレーシングだけではなく、BMXフリースタイルパークもオリンピック種目になったことから、ここ数年でBMXというワードを耳にすることは比較的多くなったのではないだろうか。

その中でも今回はBMXの正式名称であるバイシクルモトクロスの起源となったBMXレーシング種目に注目。近年のアクションスポーツ業界の発展に合わせてどのようにBMXレースシーンが変わってきたのか、そして現在一般的にどのような課題へ直面しているのかに触れながら今後のBMXレースシーンの可能性について本記事では特集する。

本記事ではBMXレーサーとしてのバックグラウンドを持ち、BMXレースを始め様々なアクションスポーツの取材をしてきた、私、畠山大樹が編集ライターとしての立場から希望的観測も含め、今後のBMXレースシーンの伸び代について考察していきたいと思う。

今までのBMXレースシーンの変遷について


はじめにBMXレーシングについて簡単におさらいするが、このスポーツは1970年代にアメリカはカリフォルニア州で生まれ、かれこれ50年近くの歴史を持つ自転車競技。子どもたちがモトクロスを自転車で模したことからBMXという名前が付いた。

BMXでは最初の競技であるレーシング種目は、モトクロスと名が付く自転車を象徴するような、大小様々なジャンプそしてバームと呼ばれるカーブのある300~400メートルのダートコースをスタートからゴールまで最大8名で着順を競う種目である。なおBMXフリースタイル競技はレーシングから派生したものと言われている。

またハリウッド映画界の不朽の名作である「E.T.」にて主人公の少年たちが乗っていた自転車がBMXだったことが世界的にBMXが認知されるきっかけにもなった。ちなみにこの映画で使われていたBMXはKUWAHARAという日本国内のブランドであることも業界では有名な話だ。

その後、BMXレーシングが徐々に世界中に進出していき、世界各国で国内大会や国際大会などが行われるようになり、30年以上の月日をかけて業界が成長していく中で、大きな転機となったのが2008年北京オリンピックにおいて実現した正式種目への採用だろう。この正式採用によって世界中のBMXレーサーが競技人生における明確な目標を立てるきっかけ及び各国のメディアがスポーツとして注目する転機になったと思われる。


photograph by Francois Nel/Getty Images

そして国内ではオリンピック種目として4度目となった2020年東京オリンピックの開催を機に、大会前後でパンプトラックというBMXやスケートボードなどが楽しめる施設やBMXレースコースが増えており徐々にこのスポーツの裾野を広げている。

ただこのような施設を増やしてきた背景にはオリンピック関係なく長い年月をかけて行政や関係各所への相談及び提案をしてきた多くの関係者がいるということを改めて言及して敬意を表したい。


photograph by Japan Cycling Federation

また一方で日本人選手たちの活躍もここ十数年の中で大きく変化している。現在パリオリンピック出場枠獲得も含めて、ワールドカップなどの国際大会で世界最高峰のチャンピオンシップカテゴリーへ日本代表選手たちが参戦中。そして今の代表選手の中にはそのような大会で表彰台に乗ったり決勝進出を果たすなど、十年以上前では考えられないほどレベルアップしており明らかに世界との差を埋めつつあるのだ。

前述したように現在普及させる側と選手側の双方がシーンの成長に大きく貢献している一方で、現実的に一般層へ競技を普及させる上で課題が生まれてきていると感じている。後ほど詳しく言及するが、その前に現在のBMXレースシーンにおいて一般の方がBMXレースを観て楽しみながら身近に感じてもらえるような取り組みを行っている大会を3つ紹介させていただきたい。

臨場感たっぷりのBMXレースを近くで楽しんでもらえるイベント

昨今は色々なスポーツにおいて、ライブストリーミング放送等などオンラインで現地に行かなくても観戦できる方法が充実してきているが、BMXレースこそ是非会場で観てもらいたいスポーツのひとつだ。そこでそんな臨場感たっぷりのレースを近くで楽しく観られる国内最高峰の大会を紹介する。

全日本選手権/JAPAN CUP


photograph by Japan Cycling Federation

2021年から新たな取り組みとしてエンターテイメント性を重視している国内最大級の2大会。会場内では国際大会さながらのバナー等の装飾や特別観客席の設置を始め、チャンピオンシップクラスにおいては決勝時にスモークを使用した特殊効果演出による選手紹介や冠スポンサーのToyoTiresラウンドガールによるパフォーマンスも加わり、選手・観客含め今までにない盛り上がりを見せている。


photograph by Japan Cycling Federation

本大会には国際大会で活躍する日本人選手たちも多く参加するためBMXレースを観てみたいと思う一般の方にはオススメの大会だ。

DOWNTOWN BMX


photograph by DowntownBMX / kasukabevisionfilmz

世界初となるBMXレースとBMXフリースタイルの混合競技として生み出され、今年初開催となった大会。DOWNTOWNの名の通り「街の中心地」を会場とし、パンプトラックやワンメイクジャンプを組み合わせた特設のコース上で順位とハイエアーを元に競われる。この大会はBMXレーシングのスピードとBMXフリースタイルのハイエアーとトリックの両方の迫力ある走りを、アクセスしやすい大都会の真ん中で観戦できる。


photograph by DowntownBMX / kasukabevisionfilmz

またよりエンターテイメントにショーアップされているためDJやMCが盛り上げ観る者を魅了する新感覚の大会である。なお初開催の会場となった大阪府大阪市のグランフロント大阪「うめきた広場」は大勢の観客で会場は埋め尽くされ大盛り上がりの大会となった。

BMXフリースタイルシーンとの比較


photograph by Jason Halayko

BMXレーシングの普及を考える中で、もう一つの種目であるBMXフリースタイルだ。個人的な肌感覚として一般の方とBMXの話をすると「あ!スケートパークとかで高くジャンプしたり、回ったりする自転車のスポーツですよね!」とフリースタイル種目を連想されることが非常に多い。

実際にBMXフリースタイルには「パーク」「フラットランド」「ストリート」「ヴァート」「ダート」と細かく分けると5種目もあり、ほとんどの競技が世界最大級のアクションスポーツの大会「X GAMES」の種目でもあることや、スケートボードなどと同じフィールド使っていることからカルチャー面も含めて他のストリートスポーツ及びアクションスポーツの親和性も高いのだ。

また大会やイベント等もセクションやステージを特設で配置できれば、比較的に場所を選ばないため、専用コースを必要とするBMXレースとは異なり、人が集中しアクセスしやすい都市部での開催が可能なところもフリースタイル種目が多くの人の目に触れやすい理由の一つであると言える。

現在のBMXレースシーンの持つ課題

前述したように新たなBMXレースコースやパンプトラックなどのBMXレーシングを体験できる施設が、過去数年に比べて東京オリンピック辺りを機に増えてきていることから、確実にこの競技の知名度は上がってきていると感じている。また近年は子どもたちにとても人気があるランバイクからBMXレーシングに移ってくるケースも多く、BMXレーシングを始めるための導線が増えてきているのも間違いない。

その上でここでは一般的にBMXレーシングを普及させる観点で見た時に、BMXレーシングに関わる私が感じている課題について二点ほど触れてみたい。


一つは体験会や初心者講習会が少ないということだ。私は初心者向けの講習会運営にも携わっているのだが、参加者の方とコミュニケーションを取る中でよく耳にするのは「始めたいと思ってもどこで乗ったらいいか分からない」「ちょっと試しに乗ってみたいけど周りで体験できる機会がない」「始めてはみたもののネクストステップを教われる機会が少ない」などという言葉の数々だ。

近年、国内のトップ選手たちが個々にスクールを開催して、未来を担う育成世代の競技力強化に大きく貢献しており、国内のBMXレーシングシーンの発展を加速してくれている。ただ一方で初心者をカバーする体験会や講習会は、大会やイベント等にて抱き合わせて開催されているもこれらの声を聞くとまだまだその数としては少ない印象だ。


photograph by Japan Cycling Federation

またもう一つは、BMXレーシングはファミリースポーツであることが一般の方にあまり知られていないということ。オリンピック種目として多くの人の目に触れるようになったものの、オリンピックで観られる大会レベルは世界最高峰のものであるため、コースの規格や選手の競技レベルなどが一般の方の始めるレベルと全く異なることから、気軽に始めてみようと思ってもらうには非現実的なので参入障壁を高めている部分はあるのではと考える。

実際、私も親の影響でBMXレーシングを始めたのだが当時レースコースに行くと親子や友達同士で一緒に練習していたり、コース外では年齢性別関係なくみんなで楽しく談話する様子も見られ、このスポーツを通じて同じ楽しみを共有しているところを見てファミリースポーツの側面を持つこのカルチャーの魅力さも感じていた。

もちろん当時から20年近く経っているため現在と状況は異なっているが、家族で楽しめるスポーツであることをもっと一般的に知ってもらう発信が必要だろうということを、メディアに関わる編集者としての自責の念も込めた上で述べておきたい。

BMXレースシーンの今後に期待したいこと

ここまでは一編集者として様々な取材や自身のBMXレーシングとの関わりを通して感じた課題について述べてきたが、どの内容に関しても批判的になっているつもりはなく、むしろ今後のBMXレースシーンの伸び代であると強く感じている。以下は上記の課題点も含めた上で、これからのBMXレースシーンに期待したいことを一般的な競技普及の面から言及したい。

そこでもっと多くの一般層にBMXレーシングを認知してもらい、かつ気軽に体験してもらうための一丁目一番地として考えられることにBMXフリースタイル競技をはじめとする他アクションスポーツとの連携があると思う。


photograph by ©Naoki Gaman/X Games

実際にBMXフリースタイル競技は前述したように他のアクションスポーツと一緒に大会やイベントが開催されることが多く、今年の大型イベントとしては「X Games Chiba 2023」や「Yokohama Urban Sports Festival’23」が挙げられる。もちろんそもそもの競技種目の有無の問題もあるとは思うが、考え方としてはアクションスポーツというジャンルで一括りにできるもの同士として連携したイベント開催は有効だと考えられる。

また加えて、昨今は国内各地でアーバンスポーツフェスティバルなどが開催され、BMXフリースタイル競技がブレイクダンスやスケートボードなどと抱き合わせでプログラムに盛り込まれており、トップ選手たちのエキシビジョンや無料体験会など様々な形でこれらのスポーツを家族ぐるみで楽しむことが可能だ。

現在は移動式のパンプトラックセクションなどもあることから少しずつBMXレーシングを体験できるイベントが増えているが、このようなイベントにも参入していくことが一つ大きくBMXレーシングを一般の方に知ってもらえるきっかけになるだろう。


そしてもう一つは異なる角度からの考え方ではあるが、BMXレーシングの特性を活かして子どもたちを中心とした自転車ユーザーに対して安全な自転車使用の啓蒙活動に繋がることも期待している。BMXレーシングは競争であることから他選手との駆け引きが多くある競技。目の前で選手が転倒することもあれば、自分が他選手と接触し転倒を招くこともある。そんな環境の中で勝ち上がるには臨機応変な対応や細かなバイクコントロールが必要となる。

そういう観点からもハンドルさばきやブレーキの使い方、そしてバランスの取り方などはこの競技で学べるので、BMXレーシングは一般自転車を乗りこなすために必要な基礎スキルを習得するのに最適なスポーツなのだ。是非自治体の自転車講習会や安全指導の観点から採用を検討されるようになれば幸いだ。

最後に

今回考察させていただいたことはあくまでもBMXレースシーンにおいて一般的な課題として私が現時点で捉えているものであり、これだけに限ったことではないというのは重々承知である。そして私が言及した内容も所詮は綺麗事でそんな簡単に実現できるものではないという意見もあると思う。

私自身も編集者以外の側面としてイベントや講習会にも携わっていることからその難しさに関してはよく理解しているつもりだ。だがBMXレーシングは他のアクションスポーツに比べてもまだまだ伸び代があると強く感じていることは伝えたい。

そしてこのように発信していくことが、少しでも多くの方がBMXレーシングに関心を持ってもらうきっかけになったり、これからBMXレーシングを活用して地域創生などを検討されている方々への気づきに少しでもなれば本望である。

私としても自分が大好きなBMXレーシングをもっと多くの人に知ってもらい、気軽に体験して楽しんでもらえる環境づくりのために今後もできることを進めながら、編集者としてBMXレースシーンの発展について随時発信していきたい。

畠山大樹 / Daiki Hatakeyama(@daikihatakeyama_)
1992年生まれ。神奈川県寒川町出身。
小学4年生からBMXレーシング、中学生からはマウンテンバイクの4X競技を始め、2足の草鞋で様々な大会に出場した学生時代を送る。競技引退後の今では地元寒川町でBMXの初心者講習会を開催しながら、普段はアスリートマネジメント、日英翻訳/通訳、アクションスポーツイベントの運営サポートなどに携わり、また編集ライターとしてもBMXを中心に様々なアクションスポーツの魅力を発信する活動をしている。

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