モビリティリゾートもてぎでスーパーGT2023年シリーズのフィナーレとなる第8戦が行われ、GT500クラス優勝のトムス・スープラ36号車(坪井翔/宮田莉朋)が2年ぶりの年間王者に輝いた。 ◆第7戦 450kmレースが生んだ名勝負 3台が繰り…

モビリティリゾートもてぎでスーパーGT2023年シリーズのフィナーレとなる第8戦が行われ、GT500クラス優勝のトムス・スープラ36号車(坪井翔/宮田莉朋)が2年ぶりの年間王者に輝いた。

◆第7戦 450kmレースが生んだ名勝負 3台が繰り広げたバトル、タイトルかけた争いは最終戦へ

■坪井「厳しい条件下で、力強いレースができた」

第7戦終了時点でランキングトップは69ポイントの36号車トムス・スープラ、2位は62ポイントの3号車ニスモ・Z(千代勝正/高星明誠)、3位は53ポイントの16号車ARTA NSX(福住仁嶺/大津弘樹)。トヨタ、ニッサン、ホンダそれぞれ1台ずつにタイトルの権利は残されていた。だが実質は、ポイント差から見て36号車と3号車との一騎打ち。36号車は2位以上であれば自力でタイトルが決定、3号車は優勝した上で36号車が3位以下であればタイトル決定という条件だった。そして決勝グリッドは3号車がポール、36号車が3番手。最高の舞台が整い最終決戦はスタートした。

ここまでのシーズンを振り返ると、この2台がランキングでワン・ツーを形成したのは第3戦のこと。第2戦で優勝し、第3戦も2位の36号車が36ポイントでトップ。開幕戦で3位の後、第2戦5位、第3戦4位と着実に上位入賞を続けた3号車が29ポイントで2位につけた。そして、第4戦で3号車が優勝し形勢は逆転。そこからの2戦はランキング上位ゆえ重いウェイトハンデを積んでの厳しい戦いとなり、2チームともに大量ポイント獲得はならず。ハンデが半減となる第7戦と、ハンデがすべて降ろされる最終戦で雌雄は決せられることになり、第7戦で3号車を含むトップ争いから終盤抜け出し2勝目を挙げた36号車が7ポイントリードと、再び形勢を逆転させていた。

これで36号が完全に有利かといえば、そうとも言えなかった。この最終戦、3号車は土曜日午前中の公式練習から絶好調で、予選でも2位に大差をつけポールを獲得。レースでもスタートから着実に2位とのリードを広げ、優勝をほぼ射程圏に入れていた。だが36号車も負けてはいない。チームが“鬼門”と称する苦手のもてぎながら予選3番手を獲得するとレースでも序盤から健闘し、23周目についに2位を攻略。この時点で36号車がタイトルを獲得する可能性は極めて高くなった。そして、終盤降り出した雨がタイトルを決定づけた。残り4周となったところで3号車がスピンを喫し、36号車が逆転優勝に成功した。

こうしてラスト2戦をともに劇的な逆転優勝で飾った36号車の坪井が、記者会見でシーズンのターニングポイントとして挙げたのが、ハンデに苦戦し10位と7位に終わった第5戦と第6戦だった。筆者もそこが勝負どころだと捉えていたが、注目していたのは昨年も最終戦までタイトル争いをした3号車の方で、第6戦で2ポイント獲得したことを評価した。だが36号車は3号車と同等のハンデを背負いながら、ともに3号車をポイントで上回った。しかも、予選順位が3号車より下だったにもかかわらず。2台のこの2戦の最低目標が、3号車は36号車の、36号車は3号車の前でゴールすることだった。これを着実にやり遂げたのは36号車だ。「厳しい条件の中で、力強いレースができた。長いシーズンの中では必ず“あのときもっと、こうしていれば良かった”という悔いの残るレースがあるものだが、今シーズンはそれがなかった」。坪井の言葉はおそらく、この2戦を乗り切ったからこそ出たものだろう。

サクセスウェイトという呼び名のウェイトハンデが成績によって課せられるスーパーGTでは、ランキング上位チームは中盤戦では1ポイントを積み重ねるための戦いをする。そこに真の強さが見えてくることもある。2023年はそんな、スーパーGT特有の面白さを再確認できたシーズンだった。

◆第6戦 今年も現れた“SUGOの魔物” 巻き起こった偶然と劇的な幕切れ

◆第5戦 NSXの鈴鹿ラストランを優勝で飾った“黒のARTA”

◆第4戦 これが見納めか、ミシュランタイヤの圧巻パフォーマンスショー

著者プロフィール

前田利幸(まえだとしゆき)●モータースポーツ・ライター

2002年初旬より国内外モータースポーツの取材を開始し、今年で20年目を迎える。日刊ゲンダイ他、多数のメディアに寄稿。単行本はフォーミュラ・ニッポン2005年王者のストーリーを描いた「ARRIVAL POINT(日刊現代出版)」他。現在はモータースポーツ以外に自転車レース、自転車プロダクトの取材・執筆も行う。