【風穴が開いた2年前】 現地時間11月3日、4日の2日間、アメリカ競馬の祭典であるブリーダーズカップ(以下、BC)がカリフォルニア州のサンタアニタパーク競馬場で開催される。北米で毎年持ち回りで続けられ、今年で創設40回目。創設当初は7つのG…

【風穴が開いた2年前】

 現地時間11月3日、4日の2日間、アメリカ競馬の祭典であるブリーダーズカップ(以下、BC)がカリフォルニア州のサンタアニタパーク競馬場で開催される。北米で毎年持ち回りで続けられ、今年で創設40回目。創設当初は7つのG1レースで行なわれていたのが、現在はカテゴリーも細分化されて14レースで行なわれるようになった。

 今年はこの開催に参戦すべく、日本から過去最多の9頭が海を渡った。残念ながら、BCジュベナイル(ダート1700m)に出走予定だったエコロネオ(牡2歳)は現地でケガのため回避となったが、残る8頭は予定している6競走に向けて順調に調整が続き、万全の態勢で本番を迎えようとしている。



ブリーダーズカップ・BCターフに出場予定の日本ダービー馬のシャフリヤール

 BCに日本調教馬が挑戦したのは1996年。カナダのウッドバイン競馬場で行なわれた際のBCクラシック(ダート2000m)に出走し、13着だったタイキブリザードが最初だった。以来、延べ21頭(現地での回避、除外を除く)がBCに出走してきた。

 多くのカテゴリーのレース数がありながら、挑戦するのは1年に1頭いるかいないかといった状況が長く続いたが、なぜ今年は、かつての香港などのように大挙して挑戦することとなったのか。そこには複数の要因があった。

 ひとつは実力面だ。

 風穴を開けたのは、2年前にデルマー競馬場で開催されたBCだった。もともと芝のレースに関しては、欧州よりも日本にコースの性質が近く、すでに各国で結果を出している日本調教馬が挑戦すればそう遠くないうちにいずれ勝つだろう、と見られていた。それを一発回答で示したのが、ラヴズオンリーユーによるBCフィリー&メアターフの勝利だ。

 それに加えて、マルシュロレーヌがダートのBCディスタフを勝利。北米の競馬場のダートは日本とはまったく質が異なり、芝とは対照的に「攻略するのは凱旋門賞以上に時間を要するだろう」と見られていた。それだけに、歓喜と同時に「ダートでもいける」という意識を日本のホースマンたちに芽生えさせた。

 この意識をより強くさせたのが、今年と昨年の海外ダートでの日本調教馬の活躍だ。とりわけ今年は、サウジアラビアでサウジカップ(キングアブドゥルアジズ・ダート1800m)をパンサラッサが、ドバイでドバイワールドカップ(メイダン・ダート2000m)をウシュバテソーロが制し、地方競馬大井のマンダリンヒーローがサンタアニタダービー(サンタアニタ・ダート1800m)で2着となった。北米ダートの"総本山"ともいえるBC挑戦の機運が高まるのも頷ける話だ。

【費用面は大幅に負担減】

 費用面での後押しも大きな理由だ。

 BCは主催者が輸送費などを負担するサウジやドバイ、香港などの招待競走と異なり、凱旋門賞などと同様に自費負担での渡航とされていた。しかし約10年前から、指定された日本国内のレースの勝ち馬に対しての輸送費の補助が始まり、現在ではすべての北米以外からの出走馬に最低4万ドル(約600万円)~10万ドル(約1500万円)の費用が輸送費の補助として支払われるようになった。

 今回のように大挙しての遠征となれば、1頭当たりの輸送費負担はかなり軽減される。実質、前出の招待競走と同じような状況となったのだ。馬券発売の効果も含め、興行的にそれだけの投資に値するという主催者の判断だ。

 そして2勝を挙げた2年前と、今年に共通する点として、アメリカ西海岸のカリフォルニア州での開催ということ。2年前のデルマーと今年のサンタアニタは、ともにロサンゼルスから馬運車でも1~3時間程度。何より、日本から経由がなく直行でロサンゼルスまで運べることは、馬への負担を考えるとかなり大きい。

 これがケンタッキーやニューヨーク、フロリダでの開催となると、シカゴなどで経由が発生してしまうため、馬への負担が大きくなってしまう。来年も西海岸のデルマーでの開催が予定されており、今年と同じような布陣での遠征が期待できる。

 さらに今後、西海岸以外での開催となった場合、日本から今年のような頭数かそれ以上の参戦であれば、主催者がチャーター機を手配する可能性があるとも聞く。それが事前から確実となれば、開催地を問わずに参戦する陣営も増える可能性は高い。

 また、こうした輸送を下支えするのが、この20年余りの積極的な各地への遠征を通して得られたノウハウだ。日本陣営に帯同した獣医師のひとりに話を聞くと、「個々の馬の性格で、到着後に食欲が落ちる馬こそいるものの、いわゆる"輸送熱"は未然に防げるようになり、ほぼ起きなくなりました」と話す。出発前、輸送中の体調管理が大きく向上したことで、積極的な海外遠征を後押しすることになった。

 そうして選択肢が増えたことで、より適性を重視したレース選択もできるようになった。右回りが得意なマイラーならマイルチャンピオンシップ、ソングラインのように左回りを得意とするマイラーはBCマイル......といった形だ。日本の大レースの空洞化を憂う声もあるが、そこまで日本も層が薄い訳ではない。今年のジャパンCは、BCターフに出場する予定の2021年日本ダービー馬シャフリヤール(牡5歳)が不在となるが、イクイノックスとリバティアイランドの対決という目玉も残されている。

 複数の要因面と大きな夢を併せて、日本からBCに挑む8頭は順調に調整が続けられている。とりわけ、メインであるBCクラシックに挑むウシュバテソローロ(牡6歳)は現地でも注目の的となっており、BCマイルのソングライン(牝5歳)は主催者想定で1番人気の評価だ。先週のイクイノックスの天皇賞・秋の勝利は世界に衝撃を与えた。今週も世界を驚かせる日本馬の走りを期待しよう。