あのメキシコシティの"悪夢"から4日。ブラジルのサンパウロにやってきた角田裕毅はさっそく、メディアからあのミスに関する質問を浴びることになった。 レース直後は黙して語らずだった角田が、あのミスをどう捉えているのか? どう消化してきたのか?…

 あのメキシコシティの"悪夢"から4日。ブラジルのサンパウロにやってきた角田裕毅はさっそく、メディアからあのミスに関する質問を浴びることになった。

 レース直後は黙して語らずだった角田が、あのミスをどう捉えているのか? どう消化してきたのか? それが角田の今後のキャリアを大きく左右するであろうことを、みんな知っているからだ。

 それを予想していたように、角田はまず「ノーコメント」を貫き通した理由を振り返った。


角田裕毅はメキシコでの反省を生かせるか

 photo by BOOZY

「レース後はものすごくフラストレーションを感じていました。あのままいっても8位か9位、僕は新品ハードタイヤを履いていてランド(・ノリス)の前にいて、マクラーレンと同等のペースがあった。もしかすると5位までいくことも十分に可能だったチャンスを逃したので、すごく大きな場面だったと思います。

 チームのためのポイント獲得のチャンスを逃し、自分としてもそこまでいいレースをしていたのを失ってしまったので、レースを終えたあとのその日はフラストレーションを消化することができませんでした」

 チームに謝罪し、それを受け入れてもらったという角田は、レース後もホテルの部屋にこもって自問自答を続けたという。

「メキシコではいつもいろんなことを楽しんだりしますけど、今回はすべてキャンセルしてホテルの部屋にこもっていました。もしあんな悪いレースのあとに、気晴らしのためとはいえ遊び回っていたら罪の意識を感じますし、一時的にああする(こもる)ことで、次のレースに向けて完全にリセットしたかったんです。

 今週末のレースや今後に向けてどこを改善できるのか、いろんなことを考えました。もちろんつらいことでしたけど、それと同時に振り返って考え直すというのは、よくないレースのあとにはいつもやっていることです」

 18位からスタートし、ランド・ノリスと同等の好ペースで追い上げて8位まで浮上。赤旗からのリスタートで新品のハードタイヤを履いて有利な状況ながら、オスカー・ピアストリ(マクラーレン)と接触して入賞のチャンスをフイにした。

【角田の犯したミスは「ドライビングミス」ではない】

 レースは残り30周もあり、もっと待つこともできた、だが、問題はそこではないと角田は言う。

「コクピットのなかでは『我慢も必要だ』ということはわかっていて、冷静に効率的に抜くための方法を考えて、ピアストリとのギャップをコントロールしながら走ったりしていました。同じようなシチュエーションの去年のイギリスGPでピエール(・ガスリー)を抜こうとして当たってしまった経験もあったので、可能なかぎり忍耐はしていました」

 オーバーテイクを仕掛けたこと自体は間違いではない。

 問題は、チームにとって貴重なポイントを確実に持ち帰ることができる状況だったにもかかわらず、あまりにリスキーなアタックをしてしまったことだ。

「オーバーテイクを仕掛けたこと自体は、それほど悪くはなかったと思っています。十分接近していましたし、DRS(※)を使って簡単に彼に並ぶことができましたから。でも、そこから可能なかぎりピアストリに寄せていこうとしたのは、やるべきではなかった。

※DRS=Drag Reduction Systemの略。追い抜きをしやすくなるドラッグ削減システム/ダウンフォース抑制システム。

 12位くらいのポジションを走っている時なら、ああやって相手にプレッシャーを与えていくのはありだと思います。だが、8位のようなポジションを走っているなら、抜けなくても8位にいるわけですから、ましてや最後尾からスタートしてその位置なら決して悪くない結果だと言えますし、シチュエーションのマネジメントという意味では正しくなかったと思います。その点は今後に向けて、しっかりと改善していく必要があると思っています」

 角田の言うとおり、角田の犯したミスとはドライビングミスではなく、あの状況にふさわしいドライビングができなかった──というメンタリティの問題だ。

 もっと言えば、今年1年間で見せてきた成長をすべて自ら否定するような行為であり、トップチームのF1ドライバーにふさわしくないと断じられても仕方のないようなミスだった。

【メキシコの悪夢が思い出させてくれた1点の重み】

 自分の犯したそのミスと向かい合い、何がよくて何がよくなかったのかを客観的に正しく理解できたのは、成長した今年の角田だからこそできたことだ。

 問題は、その反省を改善につなげ、失った信頼を取り戻すことだ。

 レッドブルへの昇格争いを背景にした、チームメイトを強く意識しすぎるがゆえのミスや暴走は、もう許されない。

「ダニエル(・リカルド)は僕よりも多くのファンがいますし、成熟していて信頼を得ているドライバーなので、彼が候補だと言われるのは当然だと思います。僕としては自分のパフォーマンスをコンスタントに見せていくしかないと思いますし、『僕も候補なんだ』ということが誰の目にも明らかになるような結果を出していくしかないと思います。

 彼に勝てないとは思っていませんし、打ち負かす自信がありますし、心配はしていません。いずれにしても、現時点でチェコ(セルジオ・ペレス)が来年の契約を交わしていますし、そこは僕らにはどうすることもできないので、自分たちにできるのは結果を出し続けることだけです」

 第16戦シンガポールGPでのマシン特性改善に続き、第19戦アメリカGPで投入した今年最後のアップグレードはダウンフォースを増やしラップタイムを速くするためのものであり、実際にアルファタウリAT04は見違えるようにパフォーマンスを上げてきている。

 第21戦サンパウロGPの舞台となるインテルラゴスのアウトドローモ・カルロス・パチェは、ストレートと中低速を組み合わせたようなレイアウトであり、AT04はまずまずのパフォーマンスを発揮するのではないかと角田は期待を寄せている。

「エンジニアからの話を聞くかぎりではパフォーマンスはいいと思いますし、いいレース週末にできると思います。ウイリアムズの2台の前でフィニッシュできればと思いますし、ここ数戦のパフォーマンスを見ればそれも現実的な目標だと思います。

 残り3戦でコンスタントにポイントを獲っていけば(7位のウイリアムズに)追い着くことも不可能ではないと思っているので、入賞することにフォーカスしています。1点1点が重要になってきますので、たとえばスプリントでも1点でも獲れればいいなと思っています」

 シーズン序盤戦には何度も痛感したはずの1点の重みを、あのメキシコの悪夢が思い出させてくれた。

 今後のキャリアを大きく左右するような重大なミスを乗り越え、いつか「あれがトップドライバーに成長するターニングポイントでした」と振り返ることのできる日が来ることを願いたい。

 まずはその第一歩が、サンパウロGPから始まる。