Bリーグの2023-24シーズン開幕から1カ月が経ったが、今夏に行なわれたFIBAワールドカップでの日本代表の躍進により、その影響はさまざまな面で表れている。 まずは人気・盛り上がり面。ワールドカップ効果は如実に出ていて、日本代表選手が所…

 Bリーグの2023-24シーズン開幕から1カ月が経ったが、今夏に行なわれたFIBAワールドカップでの日本代表の躍進により、その影響はさまざまな面で表れている。

 まずは人気・盛り上がり面。ワールドカップ効果は如実に出ていて、日本代表選手が所属するチームを中心に、総じて平均観客動員数は伸びている。リーグの発表による開幕節の平均観客動員数は、B1で前年比29.3%、B2で38.7%も上がっている。


河村勇輝の得点力が向上した理由とは?

 photo by Kaz Nagatsuka

 10月15日に行なわれた代々木第一体育館でのアルバルク東京vs宇都宮ブレックス戦は、前者にSF吉井裕鷹、後者にSG比江島慎と、両軍に日本代表選手を抱えていることもあり、Bリーグの主管試合としては史上最多となる10225人の観客を記録した。

※ポジションの略称=PG(ポイントガード)、SG(シューティングガード)、SF(スモールフォワード)、PF(パワーフォワード)、C(センター)。

 また、10月25日に横浜国際プールで行なわれた横浜ビー・コルセアーズvsサンロッカーズ渋谷戦も、PG河村勇輝(横浜BC)やC/PFジョシュ・ホーキンソン(SR渋谷)を目当てに、平日夜にもかかわらず立ち見も含めて観客5340人(速報値)がアリーナを埋め尽くした。

 日本代表として活躍した選手個々の注目度は、ネットのPV(閲覧数)データでも見てとれる。リーグが開幕節直後に発表したデータでは、公式サイトでの河村、比江島、PG富樫勇樹(千葉ジェッツ)の情報を求めるPVは、それぞれ前年比で237%、217%、145%増。地上波テレビのスポーツニュースなどでもBリーグ関連の情報を流す頻度は明らかに高くなっている。

「僕の名前がアナウンスされた時には、ファンたちの愛を感じ、多くの人たちが僕のことを『鷹ちゃん』(ホーキンソンの名字の一部が"Hawk"であるため)と呼んでくれているのも聞こえていました。とてもうれしかったですし、全身全霊でプレーしたいと思わせてくれます」

 会場の雰囲気について聞かれたホーキンソンは試合後、そう答えた。SR渋谷は10月14日に今季初のホームゲームを迎えたが、会場の青山学院記念館を超満員とした理由のひとつは、帰化選手として日本代表で一躍、知名度を上げたホーキンソン目当ての人が多くいたこともあったはずだ。

【世界基準に近いバスケがBリーグでも展開】

 日本バスケの変化は、コート上でも起こっている。最も目を見開かされるのが、昨季までは外国籍選手たちの独壇場だったBリーグ平均得点ランキング(10月31日時点)で、河村が24.1得点で1位、富樫が21.0得点で4位と、日本人選手が上位にいることだ(元日本代表で島根スサノオマジックのPG安藤誓哉も21.8得点で2位)。

 その背景として、アウトサイド系の外国籍選手が増えたことや、故障者が続出して出場時間が増えた事情もある。ただ、インサイドのビッグマンばかりに頼るのではなく、スペースをより広く取ってスピードを活かしたドライブインや、3Pシュートを多用するスタイルを志向するチームが多くなった影響もあるだろう。

 言い換えれば、日本代表を含めた世界のスタンダードに近いバスケットボールがBリーグでも展開されるようになった、ということだ。河村にしても、富樫にしても、得点が大幅に増えているのは3Pによる得点が増えていることが大きな要因として挙げられる。

 現代バスケットボールでは、シュートの確率もさることながら、3Pをどれだけ打つかが重視される。河村のここまでの1試合平均3P試投数はリーグ3位の10.1本で前年(8.0本)より2本以上多く(一昨年はわずか2.8本だった)、富樫も今季リーグ2位の11.1本で前年より3本近く増えている。

 日本人が個の力で世界と対抗することは難しいため、日本代表を率いるトム・ホーバスHC(ヘッドコーチ)は「ファイブアウト」や「ストレッチフォー」といったアウトサイドからの攻撃を主体とした。さらには2Pよりも1.5倍の価値のある3Pを多用することで、相手よりも多く点を取るスタイルをワールドカップで展開した。

 このスタイルは、コートに立つ5人全員が得点の脅威となる必要がある。河村や富樫のような司令塔を任されるポイントガードの選手たちも、その多分に漏れない。ふたりの得点が大幅に伸びているのも、代表活動での影響があると言える。

【海外リーグでのプレーも見据える河村勇輝】

 ワールドカップメンバーのなかで最も顕著な成長を見せた代表格は、22歳の河村だろう。得点が大きく伸びたことは先述のとおりだが、それ以上に選手としてのすごみが今季はより色濃くなり、日本バスケットボール界を背負う覚悟がより鮮明になっている。

 世界の舞台で強敵と対峙した経験を経て、河村は「余裕を持ってプレーできるようになってきた」とする一方、自身にはまだまだ伸びしろがあり、それを埋めていく作業に努めていくと強調する。

「ワールドカップを経て、世界で通用するためのプレーをやっていきたいと思っています。どんな環境でも成長はできると思っていますが、環境よりも自分の意思や考え方といったところが大切かなと思っています」

 河村の最大の長所は元来、スピードを活かしてリングへ突進するドライブインだ。それに関しても、日本代表での活動を経て「幅」を広げているという。

 ホーバスHCが日本代表で謳ってきたキーワードのひとつに「ヒットファースト」がある。日本代表の選手たちが攻守においてプレーする寸前、先に体を当てることで相手の体格の利を活かさせないようにし、プレーのイニシアチブを取る手段と言えばいいだろうか。

 河村は公言しているとおり「海外リーグでのプレー」も見据えて、フィジカルにプレーすることも意識的に努めている。

「リーグ戦が60試合あり、なかなか本気で5対5の練習ができないので、試合では自分の成長につながるようにスピードだけでなく、ヒットファーストでもしっかりとコンタクトをしていきたい。1対1の能力は海外に行くうえで今後も必要になってくると思うので、リーグ戦のなかでやっていければいいなと思います」

 横浜BCの青木勇人HCも、ワールドカップを通して河村の「スケールが大きくなっている」と認める。具体的には「スピードを落とさずにフィジカル(の強さ)をつけて帰ってきた」という。

 SR渋谷の元日本代表PGベンドラメ礼生は、河村が以前にもまして「すごみ」のある選手になっていると打ち明けた。チームの司令塔という面が強かった昨季までの河村とはまた違った選手となって、今は「自信がついて怖さがある」と語った。

「(マッチアップをしていて)やられてしまうプレッシャーがあって......ディフェンスをしていても正直、止められる気はしないです」(ベンドラメ)

【パリ五輪に向けて代表選考もヒートアップ】

「ヒットファースト」は河村だけでなく、ほかの日本代表メンバーたちも意識している点だろう。

 たとえば、ホーバスHCに見出されて「無名の存在」から日本代表となった吉井裕鷹もしかり。外国籍選手らのバックアップとして出場時間は昨季より平均5分以上減っているものの、コートでは自身より体躯の大きな外国籍選手とマッチアップする時、相手に体をぶつけるフィジカルに磨きをかけているように見受けられる。

 近年のBリーグチームの多くはアウトサイドでもプレーできる万能型の外国籍選手と契約し、それに伴ってよりドライブインと3Pを用いた「世界のスタンダードに近いスタイル」を採用し始めている。河村の所属する横浜BCも、ビッグマンながら3Pに長けたジェロード・ユトフを獲得し、オフェンスでは選手間のスペースを取ってドライブと3Pを強調する、日本代表のような戦いを展開している。

 ワールドカップで日本代表のアシスタントコーチも担った宇都宮の佐々宜央HCは、ディフェンスというチームのアイデンティティは変わらず柱に据える一方、日本代表の「いい部分は使っていかなきゃいけない。Bリーグすぎるバスケットになりすぎないように」と語っている。

 Bリーグチームのスタイルの変化は、3Pの試投数にも表れている。昨季B1で3Pを1試合平均30本以上放ったチームは千葉J(32.1)だけだったが、今季はここまで6チームと増加している。

 日本代表がワールドカップで活躍したことにより、バスケットボールに対する世間の注目度は明らかに高くなった。その影響はBリーグのチームにも派生し、より「世界基準のゲーム」を展開しつつある。

 また、パリ五輪を来夏に控えることで、選手たちも代表選考を意識しながらプレーするようになるだろう。日本で開催されたワールドカップを経て、見る側の目もより厳しいものとなってきている。

 Bリーグが始まって8シーズン目。日本代表とBリーグの戦いぶりが、これまで以上に連動して考えられるようになってきた。