■勝ち点を取った方が優勝の「伝統の早慶戦」…早大が劇的サヨナラで先勝  早大は28日、東京六大学野球秋季リーグの慶大1回戦に9回逆転サヨナラで先勝した。勝ち点を取った方が優勝という、シンプルな条件で迎えた伝統の早慶戦。小宮山悟監督の思い切…

■勝ち点を取った方が優勝の「伝統の早慶戦」…早大が劇的サヨナラで先勝

 早大は28日、東京六大学野球秋季リーグの慶大1回戦に9回逆転サヨナラで先勝した。勝ち点を取った方が優勝という、シンプルな条件で迎えた伝統の早慶戦。小宮山悟監督の思い切った作戦が的中し、2020年秋季以来6季ぶりのリーグ制覇へ王手をかけた。

 早大在学中に投手として通算20勝、プロ入り後も通算117勝を挙げている小宮山監督だが、劇的な勝利を収めた直後はさすがに興奮気味だった。「大げさな言い方をすれば、後々語り継がれるような優勝決定戦にしたいという思いがありました」とボルテージが上がった。

 1-2とリードされて迎えた9回の攻撃。先頭の田村康介内野手(2年)が左前打で出塁し、8番の島川叶夢内野手(4年)が打席に入った。セオリーは送りバントだろう。しかし島川はカウント1-0からの2球目に、バントの構えからバットを引いて強攻に転じ、見事に三遊間を破る。まさかのバスターが成功し、無死一、二塁にチャンスが広がった。

 最悪なら併殺打のリスクもある作戦だったが、小宮山監督は「私は監督室に貼っているのですが、野村克也さん(かつてヤクルト、阪神、楽天などを率いた名将=故人)が『監督の決断は常に賭けである。賭けには根拠が必要』という名言を残されています。それに則って、いけると判断しました。相手投手のボールと味方の打者(の状態)が根拠でした」と説明した。

代打で初球を捉えサヨナラ打を放った早大・小澤【写真:中戸川知世】

 これで勢いに乗った早大は、続く代打の茅野真太郎(4年)も四球を選び無死満塁。尾瀬雄大外野手(2年)の右前適時打で同点に追いつき、続く代打・小澤周平内野手(2年)が中前適時打を放って一気に勝負をつけた。

 試合を決めた小澤は、本来レギュラー三塁手だが、今季は打撃不振で最近2試合連続でスタメンを外れていた。「今季は迷惑ばかりかけていたので、今日はスタメンを外れるだろうなと思っていました。でも、初回からいつでもいける準備をしていて、ずっと試合に集中していました」と唇を綻ばせた。

 小澤の代わりに「7番・三塁」でリーグ戦初のスタメン出場を果たした田村も、3打数2安打1犠打と活躍。小宮山監督は「(慶大先発の)外丸(東眞)くんのボールには、田村の方がいけると判断しました」とうなずき、一方で「明日は外丸くんは先発しないでしょうから、小澤でいきます」と明言。臨機応変の采配が最後に勝利を引き寄せたのだった。

ピンチの場面で登板し、見事無失点に抑えた早大・伊藤樹【写真:中戸川知世】

 とはいえ、この日の小宮山監督にも誤算はあった。7回の攻撃で、それまで7回97球4安打無失点に抑えていたエース・加藤孝太郎投手(4年)に代打を送り、1-0の8回から1年生左腕の香西一希投手にスイッチ。「加藤がよく頑張ってくれたのが一番の勝因」とした上で、「私の長年のキャリアから言って、1-0は本当にしびれる。通常の試合と違い優勝もかかっていますから、疲労は相当だったと思います。いつも以上にボールは走っていましたが、その分体力的にいっぱいいっぱいと判断しました」と説明した。

 ところが、香西は1死から2連続四球で一、二塁のピンチを招く。指揮官はここで、今季過去4カード中3カードで2回戦に先発している伊藤樹投手(2年)の投入を決断するしかなかった。伊藤樹は後続を断ち期待に応えた。

「本当は(伊藤樹を)出したくなかった。香西が四球を2つを出したのは予想外でした。それでも樹がしのいでくれたので、9回もいけるだろうと考えたのですが……」。9回の守りでは野選、エラー絡みで2点を奪われ、逆転を許した。こうしてまさかのビハインドで最後の攻撃を迎えたが、監督の執念と選手の粘りが宿敵をわずかに上回り、白星をもぎ取った。

「ひっくり返された時はどうしようかと思いましたが、ベンチにいた連中を含めて、ここぞというところでよくやってくれました」と胸をなでおろした小宮山監督。連勝で一気に天皇杯を抱くか、それとも冒頭に述懐した通り「後々語り継がれる」戦いへ向かって、さらに決着は長引くのか。

(Full-Count 宮脇広久)