オースティン(第19戦アメリカGP)で3カ月ぶりの入賞を果たし、角田裕毅は大きな弾みを付けてこのメキシコシティにやってきた。 多くのファンが「最終周のファステストラップ獲得劇」に興奮したが、当の角田本人はそれほど強く意識はしていなかった。…

 オースティン(第19戦アメリカGP)で3カ月ぶりの入賞を果たし、角田裕毅は大きな弾みを付けてこのメキシコシティにやってきた。

 多くのファンが「最終周のファステストラップ獲得劇」に興奮したが、当の角田本人はそれほど強く意識はしていなかった。


角田裕毅は2戦連続してポイント獲得なるか

 photo by BOOZY

「まぁ、レースのファステストなのでそれは状況にもよるし、正直言ってそこに特別な思いはないですね。何も難しくはなかったです。普通に走るだけで。

 それまでずっとタイヤマネジメントしてきて自分のフルパフォーマンスを出せないなか、最後にソフトに履き替えてタイヤのグリップの一番美味しいところを使えたので、そこが楽しかったですね。チームにとってもエクストラのモチベーションになりましたし、よかったと思います」

 周りのドライバーたちがタイヤマネジメントで抑えて走っているなかで、ひとりだけ新品のソフトタイヤを履いてアタックすれば最速タイムが叩き出せるのは当たり前だ、というわけだ。

 ただ実際には、トラックリミット違反を犯せばファステストラップは無効になるし、攻めすぎてコースオフやスピンをすれば、いくら後方のアレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)が5秒加算ペナルティを持っているとはいっても、逆転されて10位を失うリスクすらあった。

 そんななかでミスを犯さず、完璧なアタックを決めたのだ。

「失敗するとか、そういう考えは一切なかったですね」

 それを当たり前のようにできるドライビングの腕と、それに加えてメンタル面の成長がはっきりと表われていた。

 また、10位というポジションが前走車3台のリタイアによって得られたということも、角田にはわかっていた。

「本当にファンタスティックジョブだと言われましたし、うれしいというのも伝わりました。久しぶりにフランツのあんな笑顔を見られたのでよかったですね」

 アルファタウリのフランツ・トスト代表は手放しで喜んだというが、角田自身は大喜びもせず冷静だった。

【マシンは常にスライドしているような状態】

 しかし、中団トップのあの位置にいたからこそ掴み獲ることができたチャンスでもある。

「そうですね、それまでうまくいっていたからこそファステストも獲りにいけたと思いますし、こういうレースを続けてほしいなと思います。もっとタイヤなどのフィードバックをして、自分からも戦略面を手助けできるように頑張りたいです」

 第20戦メキシコシティGPの舞台となるアウトドローモ・エルマノス・ロドリゲスは標高2240メートルという高地にあり、地表に比べて空気は22パーセントも薄い。

 モナコ仕様のウイングをつけてもモンツァ仕様程度のダウンフォースしか発生せず、なおかつ運動公園の周遊路を使っているがゆえに路面自体のグリップレベルも低い。そのため、マシンは常にスライドしているような状態になる。

「ふだんのようなダウンフォース量がなく、マシンのフィーリングは通常とかなり違うので、ドライビングの仕方という点でいつもと違うアプローチに適応する必要があります。でも、僕はその点もわかっています」

 アルファタウリのマシンは、空力性能はまだ熟成途上にあるが、メカニカル面の性能はシーズン開幕当初から高く、同じようなコース特性のアゼルバイジャンでもQ3進出と入賞を果たしている。2021年にはピエール・ガスリーが予選5位、決勝4位という好走を見せてもいる。

 前戦アメリカGPで左手の骨折から復帰した僚友のダニエル・リカルドも、今週末はさらにセットアップを煮詰めて入賞圏内を目指せるはずだと自信を見せている。

「オースティンはシミュレーション上、僕たちにとってそんなによくないサーキットだった。実際はレース後のデブリーフィングで確認したところ、最初のピットストップ後にマシンにダメージがあったことは確かで、それによるロスの大きさもわかっているし、そのせいでレースの争いから脱落してしまった」

 アメリカGPはスプリント週末ゆえ、わずか1時間のセッションのみでセットアップを煮詰めなければならず、およそ2カ月ぶりのレース復帰となるリカルドにとってはセットアップもマシン習熟も難しかった。この間にAT04がいかに進化したかということでもある。

【9位ハースも8位アルファロメオも射程圏内】

 リカルドは続ける。

「スプリント週末では時間が十分になくて、特に僕の場合はまだクルマのことをきちんと学べていない状態だったから、あまりリスクを背負って攻めて走ることもできなかった。クルマは悪くなかったけど、完璧に満足できる状態でもなかったし、もっとうまくやれたはずだ。

 レース週末全体を見ると、もっとポジティブだったけど、それが結果というかたちでは見えなかった。だから今週末はそれを果たしたいと思っている。Q3に進出してポイントを獲ることが目標だよ」

 レッドブル独走のなか、メルセデスAMG、フェラーリ、マクラーレン、アストンマーティンの5チーム10台は不動の位置を占める。11位の座をアルピーヌと争い、上位で自滅したマシンの数だけ入賞圏が空く。アルファタウリがトップ10に食い込むのは決して簡単なことではない。

 それでも角田はあきらめていない。そう言えるのは、アメリカGPで8位という望外の結果を掴み獲ったからでもある。

「アルピーヌなども速くなってきたので(ポイントを獲っていくのは)全然簡単ではないと思いますけど、ここ数戦がそうであったように、レースでは何が起きるかわかりません。全部まとめ上げればチャンスはやってくると思います。

 マシンパッケージも、どんどんトップ10に近づいて来ていると思う。とにかく毎戦、安定したパフォーマンスを発揮していきたいと思っています」

 ランキング9位のハースまで2点差。8位のアルファロメオまで6点差。十分に射程圏内だ。

「メキシコはけっこう好きなサーキットなので、もちろんポイントを目指して頑張りたいです。今週末は少しアプローチが違いますけど、できるかぎりのことを毎戦のようにやって、できれば2台ともポイント圏内に入れればいいなと思います」

 今シーズンまだ一度もないダブル入賞をアルファタウリにもたらすことができれば、さらなる飛躍を果たすことは間違いない。