MGCは、男子が61名が出走し、小山直城(Honda)が優勝、赤﨑暁(九電工)が2位となり、パリ五輪男子マラソン代表に内定した。女子は、24名が出走し、鈴木優花(第一生命)が優勝、一山麻緒(資生堂)が2位となり、パリ五輪女子マラソン代表に…

 MGCは、男子が61名が出走し、小山直城(Honda)が優勝、赤﨑暁(九電工)が2位となり、パリ五輪男子マラソン代表に内定した。女子は、24名が出走し、鈴木優花(第一生命)が優勝、一山麻緒(資生堂)が2位となり、パリ五輪女子マラソン代表に内定した。



MGCで惜しくも3位となった大迫傑(左)と細田あい(右)photo by Matsuo/AFLO SPORT、AFLO SPORT

 あと一歩及ばず、3位になったのが、大迫傑(NIKE)と細田あい(エディオン)だった。

 男子は、39キロ付近で小山が飛び出すと、もうひとつの椅子を狙って大迫、赤﨑、川内優輝(あいおいニッセイ同和損保)が激しい競り合いを見せた。40キロ過ぎに赤﨑が前に出ると、少しずつ距離が開き始めた。国立競技場に入り、大迫は懸命に前を追うが、赤﨑をとらえきれず、わずか5秒差でフィニッシュした。前回のMGCにつづいて3位となり、即内定とはいかなかった。

「難しいですね。なかなか勝ちきれない」

 大迫は集団の中で動かず、余計なエネルギーを使わないことに徹して走っていた。だが、先行する川内が落ちて来ず、2位集団から前に出る選手がいないことに痺れをきらし、29キロ過ぎに川内追撃の狼煙を上げて前に出た。

「誰かが(川内選手を)追うんだろうなって思ったんですけど、みんな、僕のことを待っていたと思うんです。僕のうしろの集団すごかったですからね。でも、そうやってマークされることはそれだけ安定した力があるということですし、ポジティブにとらえていきたいですけど......国際大会は3位とかが多いので、その殻を破るには何をしたらいいのか。そこは引き続き課題として感じました」

 今回、2位内に入れなかったが、その表情から気持ちはスッキリしているように見えた。結果も大事だが、自分が納得できる走りができたかどうか、大迫の基準はそこにある。

「今回は、より無心に近い状態で走れた。まだまだですけど、それが完璧に出来た時に優勝が見えてくるんじゃないかなと思います」

 走りの求道者は、ひとつ階段が上がったようだが、2大会連続の五輪出場を達成するためには前回同様にMGCファイナルチャレンジに挑戦し、勝つ方法を選択するのだろうか。

「これは、前回も同じことを言ったと思うんですけど、まずはしっかりと休養を取ってリカバリーしてから心と体、そしてコーチと相談して、ファイナルチャレンジに出るかどうかを決断したいと思います」

 前回と同じ手順を踏むのならば来年、大迫は間違いなく東京マラソンのスタートラインに立つだろう。

【大迫と細田が一歩リード】

 細田あいは、強気のレースを展開した。

 23キロ過ぎに一山と前に出ると並走しつつ、時々に前に出るなど、一山にプレッシャーをかけて走った。だが、33キロ付近で一山が前に出て、差をつけられると36キロではうしろから来た鈴木優花と加世田梨花(ダイハツ)の3、4位グループに吸収された。それ以降、前を行く鈴木と一山に追いつけなかった。

「気持ち的にはついて行きたかったんですけど、雨で体が冷えて動かない状態でした。我慢できていれば最後にもう一度、勝負を仕掛けられるタイミングがあったと思うんですけど、追いきれなかったのは自分の実力かなと思います」

 3年前、細田はコロナ禍もあり、引退を決めるほど追い込まれた時期があった。だが、「お前の走りをまだ見ていたい」と恩師や両親に言われ、周囲の期待と自分の走りを求められることで引退を撤回した。それ以来、「手が届くチャンスがあるなら」とパリ五輪の切符を獲得するために努力を重ねてきた。ところが、もともと「怪我が多い」と語るように、今回も8月は故障のためにほとんど練習が出来ず、スタートラインに立てるかどうかわからない状態だった。9月から強めのポイント練習を多めに入れて、急ピッチで仕上げ、MGC当日を迎えた。

「走り込みが夏合宿に足りていない分、どういった形で出るかなと思ったんですけど、最後までスタミナは問題なく走れました。今、やるべきことはやれましたけど、パリ五輪を目指していた以上、3位では喜べないです」

 ゴールした直後は涙に濡れていたが、時間が経つと覚悟を決め、凜とした表情でこう言った。

「自分の中ではファイナルチャレンジに向けて、もう一度、体を作り直そうと考えています。悔しいという気持ちをまだぶつけられる舞台があるので、そこでしっかりパリ五輪の代表権を取れるように準備をしたいです」

 細田は、レース後、すぐにMGCファイナルチャレンジの出場を明言し、パリ五輪の切符を掴む決意を表明した。

 男子3位の大迫、女子3位の細田は、MGCファイナルチャレンジを戦う上では、非常に有利な立場にいる。男女ともに残り1枠はMGCファイナルチャレンジ対象大会で、設定記録(男子2時間5分50秒、女子2時間21分41秒)をクリアした最上位の選手が代表となり、設定記録をクリアする選手がいない場合はMGC3位の大迫と細田が代表に選出されることになるからだ。

 男子では前回MGCで3位になった大迫は、MGCファイナルチャレンジの舞台となった東京マラソン(2020年)で2時間5分29秒と当時の日本記録で日本人トップとなり、五輪への出場権を獲得した。勝たなければいけないプレッシャーと周囲の過度の期待を感じていたのだろう。ゴールした瞬間、涙を流し、何とも言えない笑みを見せたのが印象的だった。

 今回も同様のドラマが繰り広げられることになりそうだ。

【鈴木健吾ら有望選手も巻き返しに】

 MGCファイナルチャレンジは、前回以上に豪華な顔触れからして相当ヒリヒリした戦いになるのは間違いない。MGCを棄権し、アジア大会に出場した池田耀平(Kao)は出場を表明している。また、今回35キロから先頭で引っ張った6位の堀尾謙介(九電工)、8位の大塚祥平(九電工)も赤﨑の快走に刺激を受け、ファイナルに挑戦する意欲を見せている。

 12キロで途中棄権して次に備えた日本記録保持者の鈴木健吾(富士通)も一山麻緒(資生堂)と夫婦でパリ行きを決めるべく、万全を期して出場するだろう。同じく15キロ手前で途中棄権したブダペスト世界陸上組の其田健也(JR東日本)、28キロ付近で転倒して途中棄権となった細谷恭平(黒崎播磨)も巻き返してくるはずだ。

 また、直前に足を痛めて3日間休み、「最初からついていけなかった」と苦笑した山下一貴(三菱重工)は、ブダペスト世界陸上で40キロ地点で5位にまで順位を上げるなど今、一番乗っている選手だ。万全でスタートラインに立った場合、他の選手にとって大きな脅威になるのは間違いない。さらにレース後、悔し涙を流していた西山雄介(トヨタ)、今回のMGCで35キロまで先頭を走り、苛烈な2位争いを演じた川内もいる。もしかすると、新星がいきなり飛び出してくる可能性もある。

 男子の指定試合は、福岡国際マラソン(2023年12月3日)、大阪マラソン(2024年2月25日)、東京マラソン(2024年3月3日)で、選手はいずれかに出場し、1枚の切符を賭けて戦う。高速コースの東京マラソンにエントリーが集中しそうだが、果たして誰がパリの凱旋門を走ることになるだろうか。

 女子は、細田に加え、4位に入った加世田、12位に終わってゴール後に泣き崩れた鈴木亜由子(日本郵政G)、寒さで失速した前田穂南(天満屋)は、「次こそは」の気持ちで巻き返してくるだろう。力強い走りを見せた松下菜摘(天満屋)はさらに強くなっていきそうだ。また、体調不良で欠場した佐藤早也伽(積水化学)、故障で欠場した松田瑞生(ダイハツ)も出走するはずだ。特に松田は4年前、ファイナルチャレンジの大阪国際女子マラソンで2時間21分47秒で優勝し、ラスト1枚の切符を手中に収めたかに見えた。だが、名古屋ウィメンズで一山がその記録を破り、東京五輪の内定を決めた。パリが五輪挑戦の最後のレースと決めているので、どんなレースを見せてくれるのか期待が膨らむ。対象レースは、大阪国際女子マラソン(2024年1月28日)、名古屋ウイメンズ(2024年3月10日)で、選手はこれから選択するが、いずれにせよ前回同様、激アツな争いになるのは間違いない。

 レース後、一山は、「MGCから解放された」とホッとした表情を見せていた。人生を賭けたレースに臨むプロセスで感じるプレッシャーやストレスがいかに大きいか、一山の言葉が物語っている。男女ともに3位以下の選手はそういった中、数か月かけて調整し、もう一段ギアを上げてレースに臨むことになる。最後の一枚の切符を賭けて、選手が集うMGCファイナルチャレンジは、きっと想像しえない胸アツのドラマが生まれるに違いない。