9月8日に開幕したラグビーワールドカップ・フランス大会も、残すところ決勝戦のみとなった。 2勝2敗という結果に終わり予選プールで敗退したラグビー日本代表は、今大会かぎりでジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)の退任が決まっている。201…

 9月8日に開幕したラグビーワールドカップ・フランス大会も、残すところ決勝戦のみとなった。

 2勝2敗という結果に終わり予選プールで敗退したラグビー日本代表は、今大会かぎりでジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)の退任が決まっている。2016年1月から通算7年、ワールドカップ2大会を率いたニュージーランド出身の知将はついに日本を去ることになった。



日本代表HC候補に挙がっているフラン・ルディケ氏

 そんな状況のなかで今、ラグビーファンの耳目を集めているのは、次回の2027年ワールドカップに向けてのHC人事である。

 ジョセフHCの退任が決まったのは、ワールドカップ本番2カ月前。その正式決定を受けて、日本ラグビー協会はHCの選定プロセスに関してオジャーズ・ベルンソン社に選考業務の一部を委託し、そして公募も行なうこともあわせて発表した。

「世界も日本も知る人物」

 ラグビー日本代表のHCに求められる人材は、これまでと変わらない。指揮官選定の一部を外部に任せるのは初めてのことだが、ただ公募を待つだけではなく、コンサルティング会社からも世界トップの指導者に働きかけて推挙してきた指導者もいたようだ。

 その結果、最終候補に挙げられている指導者は、片手ほどの人数にリストアップされたという。すでに1度目の面接も終わり、非公表の選考委員会により、ワールドカップ後に最終面接を経て決めるとのことだ。日本ラグビー協会の土田雅人会長はこう話す。

「来年の試合も決まっていますし、年内に決められればいいかな。高校生から20歳、23歳など、高校代表や大学も見てくれる、一気通貫でやってくれる人を選考したい」

 次期HC候補の筆頭は、現在ふたりと予想されている。2015年ワールドカップで日本代表を指揮した現オーストラリア代表HCのエディー・ジョーンズ氏と、昨季クボタスピアーズ船橋・東京ベイを初の優勝に導いたフラン・ルディケ氏だ。

【エディー・ジョーンズが日本に戻る可能性は?】

 2015年のワールドカップで南アフリカ代表を撃破し、ラグビー史に「ブライトンの奇跡」の名を刻んだジョーンズHC。サントリーとの関係は1997年からと長く、今季も東京サントリーサンゴリアスのディレクター・オブ・ラグビーを務めている。また、サントリーで選手・指揮官も務めた土田会長とは「旧知の仲」であることもよく知られている。

 ジョーンズHCは2015年11月にイングランド代表初の外国人HCとして就任。2019年大会では準優勝に導くも、その後は不調も重なり2022年12月に解任となる。だが、2023年1月に母国オーストラリア代表のHCに再び(前回は2001年〜2005年)起用された。

「ワールドカップに勝つには(選手の)総キャップ数が600は必要」

 ジョーンズHCは経験を重視するスタイルで、3度のワールドカップで通算14勝3敗と無類の強さを発揮していた指揮官だった。しかし、チームを長らく支えてきたベテランを選考せず若手を重用して挑んだ2023年大会は2勝2敗で決勝トーナメントに進出できず。ワラビーズ史上初の予選プール敗退という悔しい結果に終わった。

 ワールドカップ期間中の8月下旬、オーストラリアの『シドニー・モーニングヘラルド』紙はジョーンズHCと日本ラグビー協会の関係者が接触したことを報じた。ジョーンズHCは否定したが、そのニュースは大いに物議を醸すことになった。

 現状、ジョーンズHCとオーストラリア協会との契約は、4年後に地元オーストラリアで開催される次回ワールドカップの2027年まで残っている。

 ジョーンズHCは「私はオーストラリアのコーチに専念しています。オーストラリアのラグビーのために100パーセントの力を尽くす」とコメントしているが、11月にオーストラリア協会の審査を受けることが決まっている。もし彼がクビを切られることになれば、63歳にして2度目の日本代表HC就任も大いにあり得る話だろう。

【スピアーズをリーグワン優勝に導いた手腕は?】

 一方、昨季のリーグワンでスピアーズを初優勝に導いたルディケHCは南アフリカ出身の55歳。選手時代はバックロー(FL、No.8)だったが、ジョーンズHCと同様に国際舞台で選手として華々しい活躍はしておらず、コーチとして着実に実績を積んできた指揮官だ。

※ポジションの略称=HO(フッカー)、PR(プロップ)、LO(ロック)、FL(フランカー)、No.8(ナンバーエイト)、SH(スクラムハーフ)、SO(スタンドオフ)、CTB(センター)、WTB(ウイング)、FB(フルバック)

 2000年に南アフリカ代表のアシスタントコーチを務め、その後HCとして経験を重ねたのち、2008年からスーパーラグビーのブルズHCに就任。2009年〜2010年には連覇を達成したことで、名将の仲間入りを果たした。2015年ワールドカップではフィジー代表のFWコーチも務めている。

 スピアーズの指揮官となったのは2016年。当初は文化の違いなどで苦労したが、2018年から上昇曲線を描き、昨シーズンついに悲願の日本一となった。

「7年間の積み重ねがあるからこそ、特別な瞬間が生まれた。基本的に同じようなことを繰り返してきました。ハードワークの末に手に入れたすばらしい結果です」

 この丹念な積み重ねの実績こそ、ルディケHCの手腕が評価される点だろう。日本人選手の若手やベテランだけでなく、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ、トンガの世界的な選手たちをまとめ上げた。

 元日本代表CTB立川理道キャプテンは、ルディケHCが作り上げたチームを「アットホームでファミリー感が強い」と語る。また、ルディケHCを招聘する際に「日本一のFWを作ってほしい」とお願いしたクボタの石川充ゼネラルマネジャーも、「長期的にチームを作り上げる、文化をじっくり作っていくタイプで、シンプルに正しいことを求める人」と評する。

 ルディケHCはスタッフやリーダーと1対1でじっくりと話し合い、それぞれの仕事をリスペクトし、その役目を任せることにも長けているという。

【2023年中に日本代表の次期HCは決まるのか?】

 一部の報道では、2023年までジョセフHCの参謀を務めたトニー・ブラウン氏(48歳)、東芝でプレー経験(2002年〜2008年)があり現在ニュージーランド代表コーチを務めるスコット・マクラウド氏(50歳)の名前も挙がっている。

 しかしマクラウド氏はHCの経験がないため、その可能性は薄そうだ。また、戦術家のブラウン氏は次期HCの公募には応募していないと言われている。ブラウン氏はマネジメントよりグラウンドに集中したいタイプなので、新生・日本代表でも引き続きアシスタントコーチを務めるケースがあるかもしれない。

 これから秋〜冬を迎えて、高校、大学ラグビーも本格的なシーズンに入り、3年目のリーグワンも12月上旬に開幕を迎える。来年はすでに6月にイングランド代表、マオリ・オールブラックスと2試合、10月にはオールブラックスとの対戦が決まっている。

 年内に日本代表の新しい指揮官が決定し、新たな指針の下、2027年大会に向けてリスタートすることを期待したい。