第100回大会を迎える箱根駅伝予選会の結果発表が始まった。 最初に大学名を呼ばれたのは2年連続のトップ通過を果たした大東文化大だった。次々と通過校名が呼ばれ、監督解任騒動でチームが揺れた立教大も6位で通過した。東海大は、なかなか呼ばれず、…

 第100回大会を迎える箱根駅伝予選会の結果発表が始まった。

 最初に大学名を呼ばれたのは2年連続のトップ通過を果たした大東文化大だった。次々と通過校名が呼ばれ、監督解任騒動でチームが揺れた立教大も6位で通過した。東海大は、なかなか呼ばれず、選手の表情が徐々に硬くなってきた。昨年は9位だったが、ようやく10番目に「東海大学」の名前が呼ばれると、選手たちはうれしさを爆発させることもなく、ホッとした表情を浮かべ、握手をかわしていた。



 箱根駅伝予選会後に厳しい表情でミーティングをする東海大の選手たち

 東海大は11年連続51回目の箱根駅伝出場を決めた。

 予選会は、苦戦必至だった。

 昨年、チームトップのタイムを出したエースの石原翔太郎(4年)を故障で欠き、主将の越陽汰(3年)もエントリーから外れた。期待していた五十嵐喬信(3年)も故障で走れず、飛車角抜きでの予選会になった。フリーで走らせたのは、昨年予選会チーム内4位で夏から好調を維持していた鈴木天智(2年)のみ。主力の花岡寿哉(2年)は1週間前にコロナから復帰したばかりで万全ではなく、両角速監督から「フリーではなく、集団のリーダー役として引っ張ってほしい」と告げられていた。

 最初の10キロ地点で、東海大は総合23位と出遅れた。大型モニター画面を見ている大勢の人が「えっ東海が」という声を上げて見詰めている。15キロ地点でも15位と出場枠圏内に入っていくことができなかった。

 両角監督は、ここまでは計算済みだったという。

「10キロまでをオーバーペースで行くと、後半伸びてこないですし、最終的に順位を下げてしまいます。前半の順位だけ見ると焦りますが、それは気にしなくてもいいと学生に伝えました。それを理解してペースを守り、後半、順位を上げて行ってくれました」

 東海大が予選会突破のボーダーラインとなる13位に入ったのは、終盤の17.4キロ地点だった。15位には東京国際大がおり、うかうかできない状況だった。ラストに向けて東海大は徐々に順位を上げ、なんとか10位(10時間37分58秒)に滑り込んだ。トップの大東文化大には、4分19秒差、11位の東京農大とは、1分7秒差だった。

「うちは5000mや10000mはトップなんですけど、ハーフが苦手な選手が多い。今回は厳しい戦いになるだろうなというのは予想していました。ただ、後半勝負の綿密な戦略を立てて臨んでいましたし、学生たちを信頼していたので、それほど焦りはなかったです。順位的には、5年前の優勝を振り返ると物足りなさを感じるかもしれないですが、予選会は突破することが大事。石原や越、五十嵐がいない中、なんとか突破できてよかったと思います」

 両角監督は、そういって小さな笑みを浮かべた。

【東海大がいる順位ではない】

 この日、唯一フリーで走った鈴木は、62分58秒で37位となんとか62分台をキープし、前大会(64分05秒)よりも1分以上タイムを縮め、チームに貢献した。

「僕は上りが全然ダメで、全員でここを走った時も上りで負けたりしていたので、すごく不安だったんです。だから前半稼いで後半はメンタルで耐えようと思って走ったんですけど、昨年と同じようにタレてしまって......。それでも前半の貯金があったので、なんとか昨年より1分ぐらいタイムを稼げて良かったです」

 10位という順位については、「東海がいる順位ではないですが」と言いつつもチーム状況を考えると致し方なかったという。

「順位はついては、石原さんと越さんが走っていないですし、花岡が体調不良で竹割(真・2年)も調子が上がっていない状態だったので......。予選会は通ればいいですし、これから箱根に向けて個々が調子を上げていければ本戦では必ず上に行けると思います。僕は昨年、予選会で走った後、転んで捻挫してしまい箱根を走れなかったですし、この大会前も階段で転んだりしたので、箱根本番まで気を緩めずにやっていきたいです」

 今回の予選会では、出走したメンバーに非常に特徴的なことが見られた。

 12名中6名が2年生だったのだ。黄金世代が一躍有名になったのは、2017年出雲駅伝での優勝だったが、その時、6区間中5区間を2年生が占めた。しかも、1区の阪口竜平(現On)、4区の鬼塚翔太(現メイクス)、アンカーの関颯人(現SGH)の3人が区間賞を獲得し、2019年の箱根駅伝優勝に繋げていった。今回の予選会も鈴木を始め、花岡、竹割、中井陸人、兵藤ジュダ、湯野川創の2年生が出走し、鈴木が62分台、花岡、竹割、兵藤の3名に加え、南坂柚汰(1年)が63分台で走り、100位内に5名が入ってタイムを稼いだ。

「僕らが入学してきた時、勧誘してくれたコーチがいなくなったり、先輩に退部者が出たり、東海は大丈夫なのかっていう不安が大きかった。でも、2年生になって、僕らの代はみんなが寝ている時間に走ったりして個々で努力していますし、花岡が引っ張ってくれるのでみんな意識を高く、練習を頑張らないといけないという気持ちでやれています。おかげで今回、2年生が6名も走れたんですが、今回のメンバー以外にも夏合宿で走れていた本村(翔太)もいますし、全日本インカレの1500mで3位に入った松本(颯真)もいます。みんな成長して強くなっているので、これからが楽しみです」

 2年生たちは、ある目標を掲げているという。

「2年連続でシード権を落としているので大きなことは言えないですが、僕らが上級生になった時、箱根駅伝で『強い東海』というのを見せつけたいと思っています」

【エースの転校、現状への危機感】

 今季、2年生の中軸が伸びてきているのは、チームにとってはプラスだ。主力は、すでに石原がポイント練習に復帰してきており、両角監督は「全日本には出します」と明言した。越は気持ちの問題を抱えており、少し時間が必要だが、故障している五十嵐とともに箱根には戻ってくるだろう。とはいえ、シード校10校に今回の順位をプラスすると本戦では20位に相当する。強い東海の復活、シード権獲得は容易ではない。

「予選会で10番ということを考えると、箱根でのシード権獲得はかなりハードルが高いですが、最初から難しいと決めつけず、そこは挑戦していきたいですね。そのためのポイントは、山の上下(5、6区)です。うちは、強い選手が転校してしまったので......」(両角監督)

 吉田響は「山の神になりたい」という強い気持ちと走力をもった選手で、昨年の予選会ではチーム内トップで石原よりもタイムが良かった。部の方針と合わず、今春、創価大に転校し、出雲駅伝は5区区間賞の走りを見せた。

「吉田が納得できるような形にしてあげられなかった私の力不足のせいですが、彼の存在は大きかったです。実際、彼の加入で創価大は出雲で2位になり、箱根も優勝候補になっていますからね。ただ、出雲で区間賞を獲ったことで、うちの選手もあいつががんばっているから自分たちも負けてられないという気持ちになっている。そういう気持ちが大事ですし、箱根までなんとかシードを狙えるところまで力を上げていきたいですね」(両角監督)

 予選会後、チーム全員と関係者、選手の家族などが集まり、報告会が行なわれた。10位という結果のせいか笑みはなく、出走した12名の選手も体育座りで彼らを見上げるチームメイトも表情は硬かった。

 越主将が一言を求められ、マスクを取った。その表情はいつになく硬く、厳しいものだった。

「今日は、お疲れさまでした。真に応援される人というのは、生活や陸上で完璧である人だと思います。そういう人が応援されるべきですし、走るべきだと思います。本戦に向けて時間が長くあるわけではありませんが、本当に心からみなさんに応援していただけるチーム作りをもう一度ここから行ないたいと思いますので、応援よろしくお願いします」

 3年生ながらチームのかじ取りを任された越は、走る以前にチームの規律や生活面に生ぬるさを感じているのかもしれない。そういうところからチームは崩れていく。吉田と同期の越の言葉からは、現状への危機感とともに昨年と同じことを繰り返さないという強い決意が感じられた。

 今後、越の決意を全学年でサポートしていけるだろうか。

 乱れが生じれば、箱根のシード権はその尻尾さえ掴めないまま終わってしまうかもしれない。箱根駅伝まで2カ月半、東海大は越主将と2年生がキーになりそうだ。