第28回・秋華賞(GI、芝2000m)が16日、京都競馬場で行われ、1番人気のリバティアイランド(牝3、中内田)が単勝1.1倍の圧倒的な支持に応えて優勝。2020年のデアリングタクト以来、史上7頭目となる牝馬三冠の偉業を達成した。

◆【実際の映像/秋華賞2023】「ありがとう、お嬢さん」リバティアイランド・川田将雅のジョッキーカメラ、人馬が見た“最高の景色”

■直近5年で3頭目の牝馬三冠達成

「ありがとう、お嬢さん」

JRAがYouTubeに公開したジョッキーカメラに映し出される川田将雅の本音。いの一番にゴール板を駆け抜けたパートナーに「ありがとう、お嬢さん。素晴らしい走りだ。よくやった」と言葉を掛け、偉業達成を祝福するファンが迎えるスタンド前へと戻った。

春の牝馬クラシックで披露した圧巻のパフォーマンスから、三冠確実と目されたリバティアイランド。期待に応えた人馬は賞賛されて当然だが、私の胸の内に去来したのは「見覚えのある瞬間だなぁ……」という心境。2018年のアーモンドアイ、20年のデアリングタクト、そしてリバティアイランド。直近5年で3頭もの牝馬三冠馬が誕生しているのだ。

比較として、直近3頭の牡馬三冠馬と牝馬三冠馬をご覧いただきたい。

【牡馬三冠馬】 ・ディープインパクト(2005年) ・オルフェーヴル(2011年) ・コントレイル(2020年)

【牝馬三冠馬】 ・アーモンドアイ(2018年) ・デアリングタクト(2020年) ・リバティアイランド(2023年)

上記以外にも2010年のアパパネ、12年のジェンティルドンナと偉業にいとまがない牝馬三冠馬。その一方で、牡馬三冠馬はコンスタントに出現しているとは言えず、その差は歴然だ。

■なぜ「牝馬三冠馬」は誕生しやすいのか

前提として、牡馬クラシックと牝馬クラシックとでは競走体系が異なる。2000→2400→3000mと牡馬は一戦ごとに距離が延びるが、牝馬は1600→2400→2000mとラスト一冠で距離が縮むのが大きな特徴だ。

言うまでもなく、牡馬の最大目標は日本ダービー。世代最高峰のレースに照準を合わせるローテーションが主流となった結果、菊花賞の価値は低下の一途を辿った。今年はタスティエーラが参戦予定だが、2013年以降にダービー馬が菊花賞に参戦した年はわずか2回。JRAが打ち出した「ダービーからダービーへ」のスローガンにより、2歳新馬戦の施行時期が早まった影響もゼロではないだろう。

牝馬に目を向けると、陣営の大目標は桜花賞。こちらも仕上がりは早くなるが、どの陣営も3歳4月をめがけた馬作りを実践したと仮定すると、成長期の遅い“夏の上がり馬”の出現率が低下する可能性が浮上する。実績馬と夏の上がり馬の力差がなくなった結果、既存勢力がそのまま台頭するという図式だ。

また、秋華賞が施行される条件も見逃せない。

京都芝2000mはスタンド前発走。オークス前の共同記者会見で、リバティアイランドに騎乗する川田将雅が「ゲートが切られるまで、あと2秒ほど声援を我慢して頂きたい」と声明を発したことは記憶に新しい。異様な雰囲気と人だかりが生み出す大歓声を受け、パニック状態に陥る馬は珍しくない。オークスでスタンド前発走を経験しているアドバンテージも三冠達成の追い風となるのだろう。

■絶対的な自信が打ち消した“ぶっつけ本番”の不安

最後の一冠に挑んだ陣営の戦略も勝因のひとつだ。

放牧先から戻った先月12日、リバティアイランドは50キロ以上の馬体重増だった。普通の物差しで考えると本番まで一度使いたくなる心理に陥るが、フタを開けてみれば当日の馬体重はプラス10キロ。成長期にある3歳馬にとって許容範囲と言えるもので、日々のコミュニケーションが生んだ絶対的な信頼感が“ぶっつけ本番”の不安要素を打ち消したのだろう。

そして、川田将雅。

現在リーディング首位を快走し、国内・海外を含めて獲得したGIタイトルは数知れず。圧倒的な経験値に裏打ちされた自信がそうさせたのか、牝馬三冠がかかる一戦にもかかわらず当日はまったく緊張しなかったという。馬への絶対的な自信と、己に対する揺るぎない自信。三冠達成はもはや必然の出来事と捉えられる。

■イクイノックスとの“頂上決戦”は……

リバティアイランドの次走は未定だが、否が応でも期待したくなるのはジャパンCへの出陣。イクイノックス、ドウデュース、タイトルホルダーなどが参戦予定の一戦はまさしく“ドリーム・レース”の様相を呈しており、競馬ファンのみならず注目度の高いカードとなりそうだ。

さかのぼること11年、当時の現役最強馬・オルフェーヴルと牝馬三冠馬・ジェンティルドンナがジャパンCで激突。壮絶な追い比べの末、ハナ差の決着でジェンティルドンナが勝利の美酒に酔った。競馬史の1ページに刻まれた死闘。その再現を期待するのも無理な話ではないだろう。ワールドクラスの戦いが、秋の東京にはある。

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著者プロフィール

田原基成(たはらもとなり)●競馬評論家 競馬予想の魅力を世に発信し続ける「競馬ストーリーテラー」。予想に対して謎ときに近い魅力を感じており、ローテーション・血統の分野にて競馬本を執筆。現在はUMAJIN内「競馬サロン」にてコラム【競馬評論家・田原基成のいま身につけるべき予想の視点】 執筆中。『SPREAD』ではデータ分析から読み取れる背景を紐解き、「データの裏側にある競馬の本質」を伝えていく。