強み オールラウンダー 弱み スペシャルなポジションがない 女子ホッケーの元日本代表、野村香奈さん(33)=福井県越前町=が2020年4月1日に行った自己分析の一部だ。新型コロナウイルスの世界的な流行で、東京五輪の1年程度の延期が3月24…

 強み オールラウンダー

 弱み スペシャルなポジションがない

 女子ホッケーの元日本代表、野村香奈さん(33)=福井県越前町=が2020年4月1日に行った自己分析の一部だ。新型コロナウイルスの世界的な流行で、東京五輪の1年程度の延期が3月24日に決まった直後だった。

 代表チーム一の俊足で、身体能力も代表でトップクラス。フォワード(FW)、ミッドフィールダー(MF)、ディフェンダー(DF)をこなす。一方で、どのポジションでも図抜けているわけではない。

 実業団の強豪、南都銀行(奈良市)ホッケー部ではFWの選手だが、初めて代表入りした東京五輪ではDFを任された。

 高校3年から代表メンバーで国際試合の経験も重ねてきた。ただ、五輪の代表枠16人には北京、ロンドン、リオデジャネイロと3回連続で落選。延期後の東京五輪で再び代表になれるか保証はなかった。

 「1年間良い状態を維持するだけでは駄目。レベルアップが必要だ」

 そう考え、悔いのない準備をしようと自己分析したわけだ。

 この分析は、SWOTと呼ばれ、もともと経営戦略の策定方法の一つだ。目的達成のため不利な要因、競争上の優位を特定したりすることなどに有効で、16年のリオ五輪後に日本代表監督に就任したファリー氏がチームに持ち込んだ。

 リオ五輪では、最終選考まで残ったが、バックアップメンバーにとどまった。代表まであと一歩と迫るなか、SWOTでもう一段の成長のきっかけをつかむ。

 挑戦したのは、難易度の高いシュート「ドラッグフリック」だ。ペナルティーコーナーからボールを打つ際、地面にはわせるように押し出した球を、最後にすくい上げてゴールの隅を狙う。

 得点率は高いが、体への負荷が大きく、使いこなせる日本女子はほとんどいなかった。リオ五輪の選考時点では国際大会に通用するレベルではなかったが、東京五輪までにシュートの決定率が上がり、代表で2人しかいない使い手になった。

 東京五輪の延期はショックだったが、「スキルアップの期間が増えた」と割り切った。「これを武器に、私を選ばざるをえなくする」まで練習を重ねた。

 延期期間中、女子ホッケー代表監督が契約期間満了で退任する事態が起きた。新監督のもとでメンバーの入れ替えがあったが、野村さんは念願のFWとして代表入り。オールラウンダーの身体能力をいかし、得点力があるスペシャリストに成長していた。

 小学4年でホッケーを始め、中学3年では15歳以下の、高校3年では18歳以下の日本代表に選出された。中学時代、アテネ五輪の日本女子ホッケー選手のプレーに憧れ、五輪出場を目指すようになっていた。

 丹生高、天理大とホッケーの強豪に進学。その後は挫折を繰り返しながらも福井県内で初の女子ホッケーの五輪選手になった。ホッケーとの出会いをくれた古里への恩返しという思いも胸に、22年の現役引退後、越前町に戻り、中高生の指導に携わっている。

 8月、勤務先のスポーツジム「シルバーバック」(鯖江市)で講演する機会があった。タイトルは「夢を諦めない」。自らの経験をもとに次世代の背中を押していく、新しい挑戦が始まっている。(長屋護)