九州のオートポリスで開催されたSUPER GT2023年セミファイナル、第7戦は昨年までのオートポリス戦とは異なる戦いが予想された。レース距離が従来の300kmの1.5倍にあたる450kmになったからだ。 ◆第6戦 今年も現れた“SUGOの…

九州のオートポリスで開催されたSUPER GT2023年セミファイナル、第7戦は昨年までのオートポリス戦とは異なる戦いが予想された。レース距離が従来の300kmの1.5倍にあたる450kmになったからだ。

◆第6戦 今年も現れた“SUGOの魔物” 巻き起こった偶然と劇的な幕切れ

■垣間見えた多彩な戦略

オートポリスの特徴のひとつが、タイヤに厳しいサーキットであること。タイヤの選択、交換のタイミング、マネージメントは、ここではより重要になる。タイヤ交換は300kmレースの場合、通常1回。だが450kmでは2回行える。つまり、プランの選択肢が何倍にも増えることになる。そして、その実証データはない。ギャンブル要素を含め、思いもよらない展開となる可能性も考えられた。

もうひとつ、国内主要サーキットの中で最も抜きにくいと言われているのがこのオートポリス。これについても、ピットインが2回になることでアンダーカット、オーバーカットのチャンスが倍になるため、順位変動はより激しくなると予想された。

その通り、実際にレースではピットタイミング、各作業の内容ともに多彩な戦略が見られた。だが戦略が決め手となるかと思いきや、それだけではなかった。

レースのクライマックスが、450kmゆえ走行ラインの外にタイヤカスがいつもよりもたっぷりと積もった終盤。全車が2回目のピットインを終え、GT500クラスは16号車ARTA NSX(福住仁嶺/大津弘樹)、3号車ニスモZ(千代勝正/高星明誠)、36号車トムススープラ(坪井翔/宮田莉朋)の順でトップ3が形成された。ポールスタートの16号車は、そこまで戦略やタイヤマネージメントをミスすることなく順当にトップをキープしてきた。対して他の2台はそれぞれ9番グリッド、12番グリッドから浮上してきた。レースペースの速さに加え、2度のピットイン戦略を異なるプランでそれぞれ奏功させたのだ。

■タイトルの権利を持つ3台

この3号車と36号車こそが、ランキングトップを2ポイント差で争っている2台。第7戦では全車サクセスウェイトが半減になっているとはいえ、最も不利な2台であることにかわりはない。その状況で下位グリッドから順位を上げるチャンスが広がったことをしっかりと実にする、そんなレースができることが、今季ここまでの好成績に繋がっているのだとここで理解できた。

16号車もまた、ここまでランキング4位と強さを見せているチームだ。そこからチェッカーまで、3台により実にスリリングなバトルの応酬が展開された。結果は36号車の優勝。だが他の2台も最後まで接近しており、隙あらば再び抜きに行くという姿勢を見せ続けた。

3号車は36号車の前で、36号車は3号車の前で、それぞれチェッカーを受けることが第7戦の至上命題だった。16号車にとっても、逆転タイトルのためには負けられない戦い。第7戦がシーズンセミファイナルであるからこそ、リスキーな状況ながらも3台をそうさせたのだ。そして、3台を終盤引き合わせたのが450kmの距離。オートポリス戦が第7戦に組み込まれ、450kmになったことには大きな価値があった。

これで、タイトルの権利を持つのはこの3台のみとなった。最終戦の舞台、モビリティリゾートもてぎも同じくオーバーテイクが難しいと言われるサーキットだ。だがおそらく、シーズンファイナルに相応しい好バトルが展開されることだろう。

◆第6戦 今年も現れた“SUGOの魔物” 巻き起こった偶然と劇的な幕切れ

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著者プロフィール

前田利幸(まえだとしゆき)●モータースポーツ・ライター

2002年初旬より国内外モータースポーツの取材を開始し、今年で20年目を迎える。日刊ゲンダイ他、多数のメディアに寄稿。単行本はフォーミュラ・ニッポン2005年王者のストーリーを描いた「ARRIVAL POINT(日刊現代出版)」他。現在はモータースポーツ以外に自転車レース、自転車プロダクトの取材・執筆も行う。